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馬小屋暮らしのご令嬢  作者: 石動なつめ
第四章 クロック劇場の演者
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第九話 フローズンホース


「だめだ、ドアが凍って開かなくなっているね」


 氷漬けになったホールのドアを、

 ガン、

 と剣の鞘を打ち付けてシズが首を横に振った。

 先ほどから力尽くで開けようと試みているのだが、しっかり凍ってしまっていてびくともしない。

 多少削れて粉状になった氷がパラパラと床に落ちるくらいだ。


「ホロウさん、そちらの皆さんは大丈夫ですか?」

「ええ、問題ありません。上手く人を避けているようでしたな」


 アナスタシアがドアの向こうに声をかけると、そう返ってきた。

 どうやら怪我人はいないらしい。人を避けているという点は気になるが、ひとまずは安心した。


「とりあえずホロウさんが中にいるなら大丈夫そうですね。問題は……」

「他の人だね」


 シズの言葉にアナスタシアは頷く。

 大体の劇団員はホールに集まっているので良いが、ホールにいないミューレ達や劇場のスタッフが心配だ。

 同じ事をシズも考えたのだろう。扉に向かって、


「ホロウ、そっち任せて良いかい? こっちは動ける範囲で、他の人達の様子を見て来るよ」

「承知した。こちらも何とか脱出してみよう」

「ミューレ達のこと、お願いするわ!」

「はい!」


 そしてアナスタシアとシズはドアを離れ、歩き出した。

 コツコツと靴の音が響く。

 足元も凍っているので少し滑る。転ばないように気をつけつつ進みながらアナスタシアは周囲を見た。

 不思議な事に、氷に覆われたあちこちには、氷の結晶のような光がキラキラと灯っていた。

 

「どう見ても魔法ですよねぇ。普通の氷では、こうはいきませんし」

「そうだね。ホロウの魔法も独特だったけど、これもあまり見ないタイプだなぁ」


 ちなみに氷の魔法というものは、二種類の魔法を並行して使うものである。

 水を集め、そこへ冷気を当てて凍らせる。そういう魔法を同時に使って行うため、視覚的に魔法と分かる変化が出やすいものらしい。

 ただ、 


「このくらいの規模の劇場を氷漬けにすると、魔力もだいぶ必要になりますかねぇ」

「なるねぇ。少なくとも俺の魔力じゃ無理だ。監査官なら全力を出せばいけそうだけど……」


アナスタシアの言葉にシズも同意した。

 そうなのだ。ただ氷を出すのではなく、クロック劇場全体を氷漬けにするなど、並大抵の魔力ではできない芸当である。

 出来そう、と名前が挙がるローランドが規格外なだけで、並みの魔力持ちでは無理である。アナスタシアだってもちろん出来ない。

 そして魔力もそうだが、もうひとつ気になるのは技術の面だ。


「それにしても、上手く人間を避けてたなぁ……」

「建物だけを指定したのでは?」

「うーん。目に見える範囲だったら可能だけど、そうじゃなきゃ結構厳しいねぇ。魔力もすごい上に技術もこうなんて、どんな奴がいるのやら」


 そう話すシズの目に、やや緊張の色が感じられた。

 そんなやり取りをしていると、ふと進行方向に変化が現れた。

 氷に灯っているような光が、キラキラと集まり始めたのだ。

 

「アナスタシアちゃん、下がっててね」


 シズは剣を抜きながらそう言うと、前に出る。

 すると光から現れたのは、氷のような姿をした小さな馬達だった。

 先ほどのスモークボールくらい小さいそれらは、ふわふわと宙に浮いていた。


「氷の馬?」


 アナスタシアの声と同時に、氷の馬は一斉に襲い掛かって来た。

 意外と素早い。しかしシズは冷静だった。

 相手の動きを見極めて一閃する。

 パリン、

 と音を立てて氷の馬は割れた。

 思ったよりも体は脆いようだ。シズに斬られた氷の馬達は床に落ち、すうと溶けて消えてしまった。


「それほど固くはないけれど、危険種……じゃないな」

「たぶんフローズンホースだと思います。この様子を見る限り、本体ではなく分身でしょう」


 シズの言葉にアナスタシアは答えた。

 フローズンホースとは雪原や雪山などの寒冷地に住む妖精馬で、すらりとした白色の体躯に氷の蹄を持っている。

 姿こそ馬のそれだが、厳密に言えば馬ではなく魔性の類だ。

 レイヴン伯爵領の北の地――ホロウの故郷であるブランロック村よりもっと上の方に生息している。


「何でこんな場所に……領都の外からは入り込めないはずだけど」

「隠されて連れ込まれたか、それともここで『生み出されたか』ですかね」

「生み出された?」

「はい」


 アナスタシアは頷く。

 フローズンホースは見た目こそ馬だが、魔性の類だ。だからこそ生まれ方も違う。

 彼らは心臓部分に『氷水晶』というものを持っており、それを核にして誕生するのだ。


「フローズンホースは亡くなる時に、その魔力ごと氷結晶へと姿を変えます。その氷結晶から、子供となるフローズンホースが生まれるんです」

 

 親の命が絶えた時、その魔力を使ってフローズンホースはこの世に生を受ける。

 なので『子』というよりは『生まれ変わり』と称した方が正しいのかもしれない。

 その理由はフローズンホースが『親の記憶を受け継ぐ』という部分にある。

 もちろん性格もそれぞれだし、個性だって違う。しかし『記憶』だけはずっと続いていくのだ。


「本来は親の魔力で出来た氷水晶から生まれるのが自然な形なんですが、氷水晶があれば魔法で生み出す事は可能です」

「魔法でというと……」

「フローズンホースは死期を悟ると、自分の氷水晶に魔力を注ぎます。これを準備期間と言うのですが……それがないまま亡くなって出来た氷水晶は、魔力が足りず子が生まれないんです。『記憶』自体は残っていますけどね」

「ああ、つまり魔法っていうのは足りない魔力を補う的な?」

「そうですそうです」


 アナスタシアは頷く。

 フローズンホースをそのまま連れてくる事は出来ない。けれど氷水晶のまま持ち込んで、ここで生み出せば別だ。

 クロック劇場内に術者とフローズンホースがいる可能性が高い。


 しかし、とアナスタシアは考える。

 先ほどの様子だと、フローズンホースもだいぶ消耗していそうだ。

 劇場を氷漬けにするほどの魔力を使ったのなら、無理はないが……。


「生み出されたばかりで安定していない状態で、大量の魔力を消費すると……消滅してしまうかもしれません」

「そっか。それじゃ、急がないとだね」

「はい!」


 シズの力強い言葉にアナスタシアは頷く。

 そして一歩踏み出そうとしたタイミングで、


「あなた、ヴァッサーに何をしたの!?」


 ミューレの悲鳴のような声が耳に届いた。

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