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馬小屋暮らしのご令嬢  作者: 石動なつめ
第二章 領都の首無し騎士
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第十六話 全身鎧は珍しい


「というわけで、首無し騎士ことホロウさんは、こんな感じの人でした」


 翌日の午前中。

 アナスタシアはシズとホロウ、そしてコシュタ・バワーの三人と一頭で、領都を歩いていた。

 そして首無し騎士を見て寄ってくる人達に、悪党ではないから大丈夫ですよ、と説明して回っている。

 領民たちも最初は恐る恐るといった様子だったが、アナスタシアとシズが平気な顔で一緒にいるので「あ、大丈夫なんだ」と納得したようだ。


「はぁーお嬢様とシズさんがそう言うならいいかぁ」

「あー、良かった良かった。これで夜、安心して眠れるわぁ」

「頭ないけど、アンデッドじゃなけりゃあいいや」


 などと、ほっとした顔で話している。

 笑顔も浮かべている人もおり「勘違いして悪かったなぁ」とホロウに話しかけていた。


「ねぇねぇあんた、頭どうなってんの? 見えるの?」

「槍でけぇ……どんな腕力してるの?」

「この槍で串焼きしたら食べ応えありそうだなぁ」


 あっという間に賑やかな会話が広がる。

 反対にホロウは大変困惑した様子で、わたわたと慌てている。


「な、何がどうしてこうなるのだっ!?」

「何がとは?」

「吾輩、こんなだぞ! コシュタ・バワーもだ! これを見て、普通、寄って来たりせぬ! 貴様ら、どんな魔法を使ったのだ!」


 ホロウは無い頭を指さして挙動不審になりながら言う。

 自分の姿を見ても悲鳴を上げて逃げられないことに戸惑っているようだ。

 情けない声を出すホロウにシズは腕を組んで首を傾げる。


「そんな魔法ないっての。まー、全身鎧(フルプレート)が珍しかったんじゃない?」

「そこ!?」


 ぎょっとするホロウ。確かに全身鎧(フルプレート)に身を包んだ人間は、平時ではあまり見ないじゃないかなぁとアナスタシアも思った。

 物にもよるが重量はあるし、特にホロウが纏う重そうな鎧を着て動けるとなると、相当鍛えないと無理だ。珍しいと言えば、珍しい。

 集まってきた人間の中には、そういった武具の店を開いている者もいるようで、興味津々に眺めていた。


 コシュタ・バワーもそうだ。首無し馬なんて見た事がない領民たち――特に子供は、家からニンジンなどの野菜を持って来ては「これ食べる?」と差し出していた。

 ホロウと違ってコシュタ・バワーは大変落ち着いており、差し出されたニンジンをお行儀よく――まぁ相変わらずパッと消えてしまうのだが――食べている。そのたびに「おおー!」と歓声が上がっていた。

 コシュタ・バワーも満更ではなさそうで、


『ここまで注目された事などないので照れますね』


 などと言っていた。

 そんな話をしていると、ふと、コシュタ・バワーに近寄って、その鞍をしげしげと真剣に見つめている少女に気が付いた。

 明るい栗色の髪を後ろにまとめた少女――確か、ロッド商会会長・サイモンの娘のノエルだったはず。


「すごいすごい! こんなに繊細なデザイン、どうやって考えたんだろう……!」


 ノエルは目を輝かせ、興奮した様子でコシュタ・バワーの鞍を見つめている。

 アナスタシアが「おや」と目を丸くしていると、シズも気が付いたようで「あ」と口を開けた。

 アナスタシアとシズの視線がノエルに集まる。すると、ようやく見られていることに気が付いたのであろうノエルが、ふっとこちらを見た。

 目が合った。

 ノエルの顔がみるみる青ざめていく。


「ひい! ごごごごめんなさい! 勝手に見ててごめんなさい!」


 ノエルは後ろに飛びのくと、何度も何度も頭を下げ始めた。

 なかなかのスピードである。水鳥が魚を取るより早くぶんぶんと頭を振るノエル。

 思わずアナスタシアとシズは噴き出した。

 そしてくすくす笑いながら、


「ああ、いえ、大丈夫です。コシュタ・バワーさんは紳士ですから、そのようなことで怒ったりは致しませんよ。ええとー……確か、ノエルさんでしたよね」


 アナスタシアがそう言うと、ノエルはようやく動きを止めて、恐る恐る顔を上げる。

 びくびくとした様子だが、アナスタシアとシズの表情が穏やかなものであったので、ほっと息を吐いた。

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