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馬小屋暮らしのご令嬢  作者: 石動なつめ
第十一章 時告げの邂逅
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エピローグ どうであっても、やることは変わらない


 その後、レイヴン伯爵邸へ戻ったテオは、ローランドの前で記憶が戻ったことを告白した。

 そして同時に、アナスタシアに忠誠を誓うとも。


 ぼんやりとしていた今までとは違い、意志の宿った瞳ではっきりと言ったテオに、ローランドが珍しく面食らっていたのが、アナスタシアには印象的だった。

 ひと通りの話を終えた後、アーデンについて知っている情報を提供しますとテオは言い、ホロウとオーギュストの二人が、彼と一緒に執務室を出て行った。


 残ったのはアナスタシアとローランド、そしてシズとライヤーの四人だ。


「君に味方が増えるのは、何よりではあるのだが……」


 ローランドが苦笑交じりに言う。

 褒めが半分、呆れが半分といったところだろうか。

 当事者ながら、その気持ちはよく分かるなぁと、アナスタシアもまた苦笑した。


「実はさっきヴァレリーさんにも言われました」

「ほう? 何と?」

「何でもほいほい味方に引き入れたら、いずれ内側から食い破られるよって。言った直後にメレディスさんが、自分たちのことじゃないですよって、大慌てで首を横に振っていました」

「自覚があるようで何よりだ」

「ははは……」


 ローランドとライヤーが何とも言えない顔になる。

 ちなみに今のところ、ヴァレリーとメレディスの二人が、一番そういう目(・・・・・)で見られやすい。だからこそ、敢えて堂々としているのだろう、とローランドは言う。


「それで、君はどう返したんだ?」

「私、心臓にも毛が生えておりますし、(つら)の方も厚いので、そう簡単には食い破られませんよと」

「貴族のご令嬢が言う言葉ではないな」

「そうなんですよねぇ……」


 話を聞いていたシズが、思わずといった様子でつぶやいた。

 まぁ、その通りである。

 しかし図太いアナスタシアは気にしないし、何なら誉め言葉であるとも受け取っていた。


(気にされないと言えば、最近はローランドさんたちの前で(つら)と言っても、普通に受け入れられていますね)


 これも慣れということだろうか。

 面白いなぁとアナスタシアが思っていると、


「ただ、あの騒ぎで、まだ宝槍を取りに行けていないんですよねぇ」


 シズがそう言った。

 そうだった、とアナスタシアは頷く。今回の外出は、もともとそれが目的だったのだ。

 さすがに、あの事件の後でそのまま向かうわけにはいかず、屋敷へ戻ったのである。


(今から行くと……)


 時計へ目をやれば、まもなく午後の四時だ。窓の外も橙色に染まり始めている。さすがに今からだと遅くなってしまうだろう。


「ひとまず明日にしましょうか」


 アナスタシアがそう言った時、


「その必要はない」


 突然、何者かの声が部屋に響いた。

 シズとライヤーが瞬時に、アナスタシアとローランドの傍へ移動し、剣の柄を手で握り、警戒の態勢を取る。

 そうしていると、執務室の窓際にキラキラとした光の粒子が集まり始め、ややあって人の姿を取った。

 鍛冶師だ。

 ただ、アナスタシアが知っている装いではない。

 もっと荘厳で、落ち着きのある――。


紅玉の星(ルビー・ステラ)……!?」


 ローランドが目を見開き、驚きの声をあげた。


「ふむ。私のことを、すぐに分かる者がいるとはな」


 鍛冶師が面白そうに口の端を上げた。

 そのやり取りを聞いて、アナスタシアは、ぱちり、と目を瞬く。


(あ、やはりそうでしたか)


 最初に鍛冶屋を訪れた時に、何となくそう思ったことはあった。

 だから、それほど驚きはないものの――実際にそうだと言われると、何とも不思議な気持ちになる。


「さて」


 鍛冶師こと紅玉の星(ルビー・ステラ)が、軽く右腕を動かす。

 するとそこに、輝きを放つ白い槍が現れた。

 アーサー・レイヴンの宝槍『星辰』だ。


「何やら忙しそうだったのでな。届けに来てやったぞ」

「ありがとうございます。……とても綺麗ですねぇ」

「そうだろう? これを修理するのは久しぶりだったからな、少しばかり熱中し過ぎた」


 そして紅玉の星(ルビー・ステラ)は槍を前へ差し出した。

 彼が手を離すと不思議なことに、宝槍は倒れることなく宙に浮いている。


「レイヴンの血を引く子、持ってみなさい」

「それは――」


 シズが警戒したまま、制止の声を上げる。


「心配するな、何もしない――というのは悪者の台詞だったか。人の想像した書物に書いてあったな……ふむ。ではどうするか」


 紅玉の星 (ルビー・ステラ)は真面目な顔で悩みだした。

 ――何だか人に近い雰囲気の(かみさま)である。

 アナスタシアは小さく笑って「大丈夫ですよ」とシズに言い、ローランドを見上げた。

 ローランドはまだ少し驚きが残っている様子だったが「大丈夫だろう」と言った。

 アナスタシアは頷くと、宝槍の方へ近付く。


「それを手に持ってみるといい」


 紅玉の星(ルビー・ステラ)はそう促した。

 その声には、試しているような響きもあった。


『これは、レイヴンの騎士だけが扱える槍だ。元に戻った時に、果たして何の助けもなく、君が扱えるか……実に楽しみだよ』


 宝槍の修理を依頼した日、彼はそう言った。

 アナスタシアが、レイヴン伯爵家の人間として――アーサー・レイヴンの子孫として、この『星辰』に認められるかどうか。

 紅玉の星(ルビー・ステラ)は、恐らくそう言っているのだ。


(結果は決まっているでしょうし)


 宝槍に認められても、認められなくても、アナスタシアのやることは変わらない。

 だから躊躇わず『星辰』を握った。


『後は、軽く掲げるだけで良い』


 以前に魔呼びの泥(ダンテ・シュラム)を消した時、アナスタシアにはそんな誰かの声が聞こえた。

 あれが誰の声だったのか、想像するしかできないけれど、今回もそうしてみよう。


(軽く、掲げる――)


 アナスタシアは両手で『星辰』を握り、軽く掲げた。

 以前のような重さはそこにはない。

 アナスタシアにも扱えるくらい『星辰』は軽かった。


 ――その時『星辰』から光が放たれる。


 レイヴン伯爵領の初代領主、アーサー・レイヴンが王より賜った、幅広の長い穂先を持った白き槍。

 その一振りは闇を祓うとも、魔を貫くとも言われている。


「なるほど――見事だ」


 その輝きを見た紅玉の星(ルビー・ステラ)は、満足したように笑った。



 第十一章 END

これにて第十一章は完結となります!

お読みいただきありがとうございました!


アナスタシアにとって、人生を変える出会いはローランドたちでした。

そして自分で選択出来るようになったのもそこからです。

自分がローランドたちからしてもらったことを、今度はアナスタシアが誰かへ。それが今回の章でした。

楽しんでいただけたら幸いです……!

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