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馬小屋暮らしのご令嬢  作者: 石動なつめ
第二章 領都の首無し騎士
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第二話 この壁は領都を守っている


 領都クロックボーゲン。

 レイヴン伯爵領の中心に位置するこの都は、領主の住む街というだけあって大きく賑やかだ。

 建築物も最近の様式を取り入れたものが多く、全体的に『新しい』という印象の強いのが特徴である。

 それもそのはず、実はこの領都、出来てからまだ三十年ほどと歴史が浅かったりする。


 初めてこの話を聞いた時、アナスタシアは意外に思った。

 領主の屋敷がある街なので、もっと古くからあるのだろうと思っていたからだ。

 こうして街の様子を直に目にすれば、なるほど確かに「新しい」とアナスタシアも納得した。


 しかし、アナスタシアの考えもある意味で間違ってはいない。

 元々領都はクロックボーゲンではなく、今は古都と呼ばれるアーチボルトの方にあったのだ。

 古都アーチボルトは、レイヴン伯爵領では最も古い時代から存在している街である。 

 しかし古都は他の村や町、他所の領地から訪れるのに少々不便な立地にあった。

 昔ならばまだ良かったが、時代が移り変わるにつれて不便さが目立つようになり、ついに先々代のレイヴン伯爵――アナスタシアにとって祖父になる――の決定により移転することとなったのだ。


 もちろんそれに伴って色々とごたごたは起きたものの――それでも何とか移転し出来上がったのがこの領都クロックボーゲンである。

 領都になる以前のクロックボーゲンは、時計塔がある事以外は取りたてて特徴のない小さな町だった。けれど領主が住むようになると、人が増え、商人が増え、だんだんと大きくなっていった。そして領主が住むに相応しさを追求していった結果、今の街並みが出来上がったというわけである。


 さて、そんな領都だが、他の街と同じくぐるりと壁に囲まれている。

 壁の役割と言えば街を守るもの。魔獣や外敵から街を守るために作られた煉瓦の壁は美しく、そして頑丈。

 アナスタシアも馬車の中や、屋敷からは見たことがあったが、こうして直に見るのは初めてだった。赤茶の壁と、青空のコントラストが目に鮮やかだ。

 近づいて壁を見上げると、その高さに思わず「うわぁ」と声が出る。


「近くで見ると、また高いですね」

『とても、高い』


 アナスタシアとユニが揃ってそう言うと、シズが「ね!」と片目瞑って笑う。


「ここ登ったら見晴らしが良さそうだなーって、いつも思ってるんだよ」

「気持ちが良さそうですね。ちなみに実行した事は?」

「何度か。でも全部失敗。ほんと、上手くできてるんだよ、これが。これなら簡単には入ってこれないよねぇ」


 身をもって体験したと頷くシズに、アナスタシアが「なるほど」と小さく笑った。

 そんな風に壁を見上げながら話していると、ふと、その煉瓦の壁が独特の臭いをもっていることに気が付いた。

 数種類のハーブを混ぜて焦がしたような臭いに近いかもしれない。しかしハーブとは言ったものの、良い匂いというわけではなかった。

 ユニも同様の感想を抱いたようで、少し嫌そうに目を細めたあと、数歩後ずさる。


『変なにおい』

「シズさん、シズさん。これ、普通の煉瓦ではないんですね?」


 興味津々にアナスタシアが尋ねると、シズは「そうそう」と頷く。


「この煉瓦にはね、魔獣が嫌う臭いの土を混ぜてあるんだよ」

「ユニちゃんは」

『魔獣?』

「まぁ獣避け的なアレだからねぇ」


 ユニは魔獣ではないにせよ、効果がある括りではあるらしい。


「ちなみに臭いが関係ない……その、アンデッド系にはいかがで……?」

「作る過程で聖水も込み!」

「やった!」


 アナスタシアが喜ぶと、シズは楽しそうに笑った。


「まぁ、そんな感じでね。効果はあるんだけど、あんまり良い臭いじゃないよねぇ」

「人間にも作用するのは、さすが危険種」

「予想外のところで証明された!?」


 小さく頷きながらアナスタシアが言うと、シズがぎょっと驚いてみせた。

 それから、


「まぁそれは横に置いておいて。ねぇ、アナスタシアちゃん、壁の近くの建物さ、見てどう思った?」


 と、少しだけ真面目な顔になって、シズは言った。

 質問の意図が分からなかったが、


「大通りと比べて質素な雰囲気を感じました」


 とアナスタシアが答えると、シズは「うん」と頷く。


「この辺りはね、壁の臭いもそうだけど、立地的にも万が一の時に危険も多い。ほら、壁を登るか壊すか、そうやって外から襲われた時に一番先に狙われる。だからその分、土地の値段や家屋の家賃も安めなんだ」


 そう言ってシズは壁を手の甲で軽く叩いた。

 アナスタシアは目を瞬いて壁と、近くの建物を見て、それから門の方へ目を遣った。 

 外からの危険が多い場所ならば門の近くも例外ではない。けれどアナスタシアが覚えている限りでは、門の周辺はどちらかというと綺麗な建物が多かったように見えた。


「門の周辺は違うんですか?」

「あそこは『外』の目にさらされる場所だからね。体裁を整えるためにも立派な建物やお店が多いんだ」

『外面がよい』

「ユニちゃんがアナスタシアちゃんみたいなことを言いだした」


 思わずシズが頭を抱えるとアナスタシアは満更でもなさそうな顔になる。

 ただ言葉遣いに至っては屋敷の馬の件がある。なのでユニが先か、アナスタシアが先かというのは、なかなか判断し難いものでもあるのだが。


「そういう風に、一つの街でも色んな側面を持ってる。これはその一つなのです」


 人差し指を立てて、まるで先生のようにシズは話す。


(――――もしかして)


 シズは、アナスタシアが『住んでいる場所のことを何も知らない』と言ったから、知りたいと望んだから、教えてくれているのではないだろうか。

 そう思ったら嬉しくなって、アナスタシアはシズを見上げる。


「シズさん、ありがとうございます」


 アナスタシアが礼を言うと、シズはニカッと笑って応えた。


「俺さ、この領都の出身なんだ」

「同郷ですね!」

「同郷です! まーでも、出身って言っても、どこで産まれたかは分からないんだけどね」


 シズがそう言うものだから、アナスタシアは「え?」と目を丸くする。


「……あ、そうだ。アナスタシアちゃん、壁の点検ついでに、ちょっと寄り道しても良いかな?」

「はい、構いませんが、どちらに?」


 アナスタシアが了承すると、シズは「うん」と頷いて、少しだけ間を開けて、


「ヴァルテール孤児院。俺ことシズ・ヴァルテールの実家です」


 と、言った。

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