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馬小屋暮らしのご令嬢  作者: 石動なつめ
第一章 馬小屋暮らしのご令嬢
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エピローグ 宣言したから頑張ります 


 それからしばらくした後。

 アナスタシアはロンドウィックの広場の端で、ガースが乗っていた馬車の馬にブラッシングをしていた。

 さすが馬小屋で暮らしていただけあって慣れたもので、馬は心地良さそうな様子である。


 さて、そんなアナスタシアだが、なぜこんな場所にいるかというと、ある意味で監視役だ。

 アナスタシアがいる広場の中央では、今、ロザリーがロンドウィックの町人に対して謝罪をしているところである。

 怒りの形相を浮かべた町人たちの真ん中で、ロザリーは額を地面にこすりつけて謝っている。

 アナスタシアのいる場所からはロザリーの表情は見えないが、恐らく、心からの謝罪だろうなと思っていた。


 そんなロザリーに対してだが、意外なことに、ロンドウィックの町長や、一部の町人など多少弁護してくれる人もいた。

 門の付近で、ガースとのやり取りを聞いていた者たちのである。ロザリーの事情もアナスタシアから多少聞いた彼らは、怒りこそあるものの、やや同情めいた感情も向けていた。

 今後、ロザリーはロンドウィックへの償いに奔走することになるだろう。


 しばらくすると、ようやく落ち着いたのか「これで手打ちだ」という声が聞こえ、ロザリーの頭に拳骨が落とされたころ。

 アナスタシアのところへローランドがやって来た。


「アナスタシア、ここだったか」

「あ、お疲れ様です、ローランドさん」

「ああ」


 アナスタシアの言葉にローランドは軽く頷くと、ロザリーの方へ目を向ける。


「逃げ出す様子はなさそうだな」

「こちらの方がまだ(、、)安全だというのも分かったみたいですし」

「しかし一人で行動させているのか?」

「一人ではありませんよ。ほら」


 不用心だなと暗に言うローランドに向かって、アナスタシアは広場に出来た輪の外を指差した。

 そこには山で助けたユニコーンが立っている。

 アナスタシアは「お願いしたんですよ」とローランドに言った。


「逃げ出そうものなら直ぐ捕まります。まぁ、でも、逃げないと思いますよ」

「なぜだ?」

「謝罪すると彼女が言ったので、最初は私も一緒についていくと言ったんです。でも、自分がやったことだから、一人で謝るって」

「そうか。……だいぶ痛そうだな」

「フフ」


 ロザリーの頭に拳骨が落ちたのをローランドも見たのだろう。

 アナスタシアは同意するように笑った。


「そう言えば、ローランドさんの方のお仕事はひと段落したのですか?」

「ああ。ガースの移送の手続きは完了した。しばらくしたら騎士が来るはずだ」

「さすがローランドさん、早いですね!」

「フ、褒めても何も出んよ。あと……」


 言いながら、ローランドは懐から一通の白い封筒を取り出した。

 宛先にはカスケード商会会長の名前と住所が書かれている。


「本当に君の名前で良いのか?」

「はい。宣言したのにローランドさんのお名前で出したなんて、卑怯でしょう?」

「カスケード商会は厄介な相手だ。ガースの言葉ではないが、商人を敵に回すほど面倒なことはないぞ」


 ローランドの心配そうな眼差しに、アナスタシアはにこりと笑って空を見上げた。

 秋の薄い青空を、一羽の鳥が飛んでいる。


「わりと、何とかなると思っています」

「根拠は?」

「カスケード商会は従業員との雇用契約に書類を用いているでしょう? 雇用契約とは、もともとは国によって定められた法です。カスケード商会は例え表向き(ポーズ)だけだとしても、それを守る意志はある。なら敵になるか味方になるかは、まだまだこれから。向こうがこちらを見定めてからの話でしょうね」


 すらすらと返された言葉にローランドは若干、虚をつかれた顔になる。

 しかし同時にそれは、面白い、と言っているような表情でもあった。


「君は本当にいくつだ?」

「十歳です」

「そろそろ十一では?」

「え?」

「秋が終われば誕生日だろう」

「……ご存知だったんですか?」

「一応は君の保護者だからな。ニンジンケーキは好きか?」

「魅惑のお名前! 食べたことないです!」


 アナスタシアが目を輝かせ、小さな両手でぐっと拳をつくる。

 それを見てローランドは満足そうに笑う。


「ああ、それと。――彼女(ロザリー)の家族も保護が完了したと連絡がきた」

「やった」


 小さくガッツポーズをするアナスタシア。

 それを見たローランドが穏やかに目を細め、


「アナスタシア。君は案外、領主に向いていると思うぞ」


 なんて言うものだから、アナスタシアは何だか照れくさくなってはにかんだ。




 これがレイヴン伯爵領で『新たな始まりの日』と言われるようになった出来事。

 この先レイヴン伯爵領はアナスタシアやローランドらによって、大きく変化をしていくことになるのだが――それはまた、別のお話。




「ニンジンケーキは馬も食べられますか?」

「ニンジンだけにしときなさい」




第一章 END

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