第十四話 誰が呪いをしかけたか?
「ところでローランドさん。ユニコーンと会話するのに、通訳を間にいれるのといれないのではどちらが良いですか?」
話がひと段落したところで、アナスタシアはローランドにそう尋ねた。
聞かれたローランドは「ふむ」と呟き、顎に手を当てて
「それはまぁ、直接話した方が楽ではあるな」
と答えた。
するとアナスタシアは「ですよね!」と言い、にこにこ笑顔になって、
「というわけで、はい、プレゼントです!」
と、鞄から件のブレスレットを三つ取り出した。
アナスタシアが腕にはめているブレスレットとデザインこそ同じだが、三つとも色は違う。もともと青い石がついていた部分が、ローランドやライヤー、シズそれぞれの瞳の色の石に変わっていた。
ローランドはぽかんとした顔になりながらも、差し出されたその一つを受け取る。
「これは馬の声の……」
「はい! 色違いのおそろいです」
「なぜ少し照れながら言う」
「いやぁ、こういうの初めてで……。一生に一度やってみたいことでした。というわけで、はい、シズさんとライヤーさんもどうぞ」
「えっ俺たちにも? ありがとー!」
「ど、どうも……」
アナスタシアが差し出したブレスレットをシズは嬉しそうに受け取る。
反対にライヤーは若干顔を引き攣らせながら受け取ってくれた。
アナスタシアがそれを見て「あまり好みではなかったのかな」と若干不安に思っていると、ライヤーはシズにこそこそ話しかける。
「……おいシズ、これ、いくらになると思う?」
「え? さあ、この手の道具って良い値段はすると思いますけど……って、まさか隊長、売る気ですか!?」
「違う! だって見るからに高価そうだろう!? 普段使いなんてして、もし何かあったらと考えると……」
どうやら、好みの問題ではなく、値段の問題だったらしい。
よかったと、アナスタシアは安堵の息を吐く。
そして青ざめているライヤーに「大丈夫です」と笑いかけた。
「そこはご安心を。道具に使っている素材自体は高そうに見えて、本物とは似て非なるものですから、割と安価です」
「そうなの?」
(いや、そうでもないと思うが……)
二人のやり取りを聞いていたローランドはそう思ったが、言わない方が良いと判断して口を閉じる。
ようやく安心したのか、ライヤーは表情を緩めた。それから受け取ったブレスレットを大事そうに両手で握って微笑む。
「そっか。いやぁ、小心者でごめんな。ありがとう、お嬢さん。大事に使わせて貰うよ」
その笑顔は、とても爽やかなものだった。
柑橘系の香りでもしそう。
そんな感想を頂きながらアナスタシアは目を瞬くと、ライヤーは不思議そうに首を傾げた。
「うん? どうしたんだい?」
「ライヤーさんも人にモテる?」
「はい!?」
アナスタシアの発言に、ぎょっとするライヤー。
それを聞いてシズが腹を抱えて笑い出した。
「あっはははは! そうそう、モテるんだけどね! でも実はさ、隊長ってば今、町の食堂のお嬢さんにお熱で……」
「シズ!!」
自分の恋愛話を言いかけたシズの口を、ライヤーは大慌てで塞ぐ。
しかしここまで聞いてしまえば、内容は大体分かるもので。
ローランドが「ほう」と興味深そうに声を漏らした。
「ちなみにどこの食堂だ?」
「その情報に何の得がありますかね、監査官!?」
「実はアナスタシアと食事に出かけると約束をしたんだ」
「わざわざそこの食堂じゃなくたって良いでしょう!?」
「しかしアナスタシアも見た――ではなく、食べたいだろうと思い」
「食べた――見たいです」
「逆だ、アナスタシア」
「うぐぐ……」
あまりにからかうものだから、ライヤーの顔が真っ赤になる。
賑やかに話すアナスタシアの隣では、ユニコーンも楽しそうに鼻を鳴らしていた。
その音にライヤーはハッとしてユニコーンの方へ顔を向ける。
「そんなことより! ユニコーン待たせてるんですから! ほら、呆れられてますよ!」
半ば自棄っぱちになって言いながら、ライヤーはシズから手を離し、ブレスレットをはめる。
解放されたシズは楽しそうに笑いながら、自身も同じようにブレスレットをはめた。
するとアナスタシアにだけ聞こえていたユニコーンの声が、彼らの耳に届く。
『なかがよいのは、よいこと』
「そうですねー」
ユニコーンに同意するアナスタシア。
ライヤーは「くう……」と何とも言えない表情をしている。
それを見てローランドが小さく笑って、直ぐに真面目な顔に戻った。
「待たせて申し訳ない。それでは早速だが、いくつか質問をさせて貰っても良いだろうか?」
『かまわない』
「ありがとう。それではまず、君はどうしてここへ来たんだ?」
ローランドの問い掛けにユニコーンは頷く。
『のろい、つかったやつに、ここまでつれてこられた。あなたたちのことばでいうなら、しょうにん』
「商人?」
商人と聞いて、アナスタシアの脳裏に馬車で見た商人が二人浮かぶ。
まさかあれかなぁ、なんて思いながらアナスタシアは話を聞いていた。
『そいつ、のろいをつかったあと、わたしをはなした。もりのみんな、くるしんでいるこえ、きこえた。だから、たすけたかった』
「なるほど……」
「つまりその商人は、ユニコーンを売ろうとしていたわけではないと言うことでしょうか?」
「ああ。その商人は自分で呪いを仕掛けて、ユニコーンに浄化させようとしたのかもしれない」
「……なんだか、ずいぶんと回りくどいやり方なんですね」
アナスタシアが不思議そうに首を傾げた。
シズも同様の感想を抱いたようで、不可解そうな顔になる。
「だけどユニコーンは呪いの解呪はできなかったんですよね?」
『どくなら、なんとかなる。でも、のろいはべつ』
「ふうむ……それなら、商人はそのことを知らなかったということでしょうか?」
「そういうことだよねぇ。しかし……ユニコーンを商売に使うより、利益が出ることとは何だろう?」
シズの疑問を聞いて、アナスタシアは腕を組んだ。
ユニコーンより利益がでること。
『今』お金になるよりも、ずっと利益がでること。
なんだろうかと考えて、アナスタシアは一つの可能性に辿り着いた。
「……恩ですかね?」
「恩?」
「ロンドウィックは綿花が枯れて困っていますよね。綿花が収穫できなければ、ロンド布が作れない。生活に直接影響があることです。それで生計を立てているならば、なおのこと」
アナスタシアはそう話しながら、ユニコーンの身体を撫でる。
「ローランドさん、ロンド布は貴族が好むくらいに質の良いものですよね。でも、それでも、その年に出来上がったロンド布を全て売り切ることは可能でしょうか?」
「ふむ。そうだな……出来の悪いものは、多少なりとも売れずに残っているのではないか? 貴族は質の良いものしか買わないし、出来が悪くてもロンド布は平民が買うには高いからな」
「例えばその布を、多少の色を付けて買うと言ったら?」
「喜ばれるだろう。ああ、つまり――恩を売る、と」
「そうです」
ローランドの言葉に、アナスタシアはこくりと頷く。
そして人差し指をたてて、言葉を続ける。
「恩を売る代わりに、来年のロンド布の取引を優先してもらいたいと約束をする。出来が悪くても使い道はあるし、先行投資と考えるなら十分だな……」
「それにロンド布が作れず市場に回らないと、品薄で値段も跳ね上がりますし。手に入らないと言われたら、より欲しくなるのが人のサガって奴ですからねぇ」
「君はどこでその辺りの知識を学んだんだ?」
「馬です。人の言葉を話さないと安心して、馬や動物の前でペラペラ色々しゃべってくれるって、皆が言っていました」
アナスタシアの発言に、ライヤーとシズが勢いよく手で口を押えた。
二人とも「こいつはやべぇ」という顔をしている。
おそらく、馬の前で色々と話していたのだろう。
だらだらと冷や汗を流す二人の横でローランドだけは、
「ひょっとして馬は……諜報員として有用なのでは……?」
などと真顔で考え込んでいた。
馬を諜報員にするなどと、突拍子もない話だが、アナスタシアは「それ良いなぁ」なんて思っていた。
「そ、それはとりあえず置いておいて……監査官、まだ町にいると思いますか?」
「そうだな、その可能性は高いと思う」
ライヤーがズレた会話を元に戻すと、ローランドはちらりとユニコーンの方を見た。
「彼の協力が得られたら、見つけるのは容易いだろう」
「彼女ですよ、ローランドさん」
「「「えっ」」」
大事なことだろうと訂正したアナスタシアの発言に、三人は再びぽかんとした顔になった。




