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馬小屋暮らしのご令嬢  作者: 石動なつめ
第七章 領都の星辰と騎士の清濁
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第十六話 時計塔に隠されたもの


 領騎士団の詰所を出た後。

 アナスタシアとシズ、それからフラワーホースの二人と一頭は時計塔へ向かって歩いていた。

 施錠魔法(マジックロック)が解けて嬉しそうなフラワーホースとは逆に、アナスタシアとシズの表情は少しばかり複雑だ。

 理由は先ほどのテレンスの言葉である。


「思わぬ情報をいただきましたねぇ」

「そうだねぇ。……それにしても、あいつ気にしてたんだなぁ」


 ナイトメアを作り出し、領都を夢魔の霧で覆った時の事だ。シズはそう言いながら指で頬をかいた。

 あの事件の時、ヴァルテール孤児院の者達も何とか無事ではあった。しかしまさか、その事をテレンスが気にしているとは思わなかったのだ。


「……あ、しまった。体調について尋ねるのを忘れていました」

「ああ、そうだ。それがあった。あんまりにも普通に話すから……だけど顔色は特に悪くなかったね」

「はい」


 アナスタシアが頷くと、フラワーホースが不思議そうな顔をする。


『体調? アナスタシア達が会った人は具合が悪いの?』

「ちょっと魂に夢魔の霧が混ざっている可能性がありまして」

『そう。人間は変な事をするんだね。なら、これをあげる』


 不可解そうに言うと、彼女の足元からたくさんの花弁が舞い上がり、アナスタシアの目の前でポンッと弾ける。

 するとそこから一輪の花が現れた。中央から花弁の外側に向かって、空色と金色のグラデーションがかかった美しい花だ。

 アナスタシアは慌てて両手でそれを受け取る。

 まるで夜明けの色を閉じ込めたようなその花を見て、アナスタシアは「あ!」と目を瞬いた。


「黎明花!」

「黎明花?」

「はい。花弁も蜜もすごく甘い、珍しい花です。これを食べると一次的に、毒や呪いに対しての抵抗力を得られるんですよ」

「へー!」


 両手の上の花を見ながらアナスタシアは、やや興奮気味に説明する。

 するとフラワーホースもフフ、と笑って、


『夢魔の霧なら、ナイトメアの呪術でしょう? 少しは効くと思う』


 と言ってくれた。


「ありがとうございます、フラワーホースさん。何かお礼をさせてください」

『お礼?』

「はい。世の中はギブアンドテイクです」

『そう、じゃあ今度ブラッシングして。上手ってウワサで聞いた』

「私のブラッシングが、馬の皆のウワサに……!?」


 ピシャーン、

 とアナスタシアは雷に打たれたのような衝撃を感じた。

 感動に打ち震えるアナスタシアは、バッとシズを見上げる。

 その勢いにシズが若干仰け反った。


「シズさん、聞きましたか! 私のブラッシングが! 馬の皆さんに!」

「う、うん、聞いた聞いた。良かったね?」

「はい!」


 アナスタシアは元気に返事をする。

 これは頑張らねば。

 ふんす、とアナスタシアは気合を入れながら歩く。

 そうしていると、目的地である時計塔が見えてきた。




◇ ◇ ◇




 時計塔の施錠魔法(マジックロック)は、そこの頂上にあった。

 アナスタシアも何度か来た事がある場所だ。

 あの時は何の反応もなかったが、三つの施錠魔法(マジックロック)を解除したためか、天井に同型の魔法陣が見えるようになっている。

 ただ今まで見てきたものよりもずっと大きい。

 おお、とアナスタシアは見上げながら、


「触れるにしても、これはちょっと届きませんねぇ……っと、おや?」


 そんな事を思っていると。

 その魔法陣のちょうど真下――そこにあった円形のベンチ、と思っていたそこにも天井とまったく同じ魔法陣が光り出した。

 それを見てシズが近づき、魔法陣を調べる。


「……うん、上と連動してるタイプだ。ここに魔力を注ぐと上にも入るとはずだよ。起点はここだね」

「なるほど、分かりました! では失礼して……」


 アナスタシアはシズが教えてくれた箇所に指を触れる。そして同じ様に魔力を注いでいくと、魔法陣のつぼみが花開くと同時に、天井の魔法陣のつぼみも咲いた。

 これは何だか面白い。そんな感想を抱きながらアナスタシアは魔力を注いでいく。少し大きいので移動しながらつぼみを咲かせていくと、次第に魔法陣の光が強くなり、光で出来た鍵が現れた。

 これも大きさは違うが、流れは一緒だ。

 そう思いながら鍵を手に取った瞬間、今までとは違って空中に新たな魔法陣が現れた。


「シズさん、鍵はここで良いんでしょうか?」

「うん、大丈夫だよ」


 シズが頷いてくれたので、アナスタシアは鍵に魔力を注ぎながら、現れた魔法陣に差し込んで開錠する。

 そしてパァ、と不思議な音が響いたかと思うと、上の魔法陣から突然、光のカーテンが下り始めた。

 何が起こるかじっと見つめていると、程なくしてアナスタシアの目の前に、一本の白く輝く槍が現れる。

 キラキラ、キラキラと。

 思わず「綺麗」とアナスタシアは呟いた。

 これがフラワーホースの言う『預かりもの』なのだろうか。


「まさか、これ……アーサー卿の『星辰』……?」


 シズの驚く声が聞こえる。

 おや、と思いながら、アナスタシアは槍を握る。

 その瞬間、握った手の近くに文字が浮かび上がった。


『アーデンに気を付けろ』


 思わず目を見開く。

 そうしている内に魔法陣の光は収まり、同時に槍の光も文字も消え。

 気が付いた時には、手の中で白く輝いていた槍は、錆びた槍へと変化していたのだった。


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