旅立ち
旅に出ることにしました。私を捜さないでください。
そんなベタな内容の手紙を机に置いてきたからか、やはり彼が駅に姿を見せることはなかった。
どうしてそんなことになってしまったのかを説明すれば、きっとそれを聞いた全員が「お前のせいである」と私を指さすだろう。ただ、それを振り返る時間も私には惜しくて、どうせなら彼との思い出に浸ろうと、我ながら乙女チックな発想に至ったのだ。
思いついたはいいものの、どうしてかすぐにそれらしい記憶が蘇らない。
彼のことを考えるあまり、それすらもできないほどの馬鹿になってしまったのだろうか。
だから、過去を振り返るより未来に目を向けることにした。
この旅は、いったいいつまで続くのだろう。もうここに帰ってくるつもりはないし、だからといって明確な目的地があるというわけでもない。
私はきっと、この旅の途中で偶然彼と出会えることを心のどこかで期待しているのだろう。
そう思うと、不思議なことに私は私自身を俯瞰しているような感覚に陥った。
こんな結果に至ってしまった後でも、まだ彼のことを思い続けている私のことが、私にはとても愛おしく感じられたから。
そのせいか、私は私の身体が恋しくなった。
と、そろそろ脳に残っていた血液がみな出て行ってしまったらしい。
痛みを感じる前に終わらせられると思っていたけれど、その考えは甘かったようだ。そうは言っても、私を俯瞰している朝の喧騒にとってはほんの刹那だったかもしれないけれど。
まあどんな終わり方であれ、これで私は旅立てるのだ。
長い、長い旅へと。
線路の上に一つ。
電車に撥ね飛ばされた女の首が転がっていた。