俺の身体どうなるの?
無意識に出たその一言が固まる思考から唯一出来た行動だった。体がどうなっているかを把握するのに対して時間を取らなかった。今なら一言で体の状態を説明出来る。一言でだ。
「身体透けている。ですか?」
静まり返った空間に俺よりも先に誰かが答えた。咄嗟に辺りを見渡す。今日の俺は疲れているのだろうか誰もいないし身体は透けていない。
「後ろです♬」
ここは普通ゆっくり振り向いて『だれだ』と尋ねるのがお約束なのだが、心が極限状況に達している俺にそんなゆとりはない。慌てて振り返り『だれだ!?』と尋ねた。やっぱり疲れているのか。振り返ってもそこには誰もいない。いつも通りの屋上。ため息を付きながら前へ向き直った俺は思わず尻餅を付いてしまった。
「やっぱり前です♬」
誰もが今の尻餅をダサいと笑うだろう。しかし向き直った自分の顔のすぐ目の前に顔があったら誰もが今の俺みたいに尻餅をつくだろう。中には尻餅では済まない人もいると思う。転入生といい今日は美少女祭りなのだろうか。いつの間にか夕方に差し掛かった太陽が少女を照らす。その光景は例えるならどこぞの恋愛アニメの放課後告白シーンだった。彼女を見ていると、少し前までの明るくて無邪気な妹を見ているようだった。何故だろう見た目は似ても似つかないのに。そもそも瞳と髪の毛が薄い空色って何人なんだ。服装は、メイド。ちくしょう!こんな美少女メイドを雇っているなんてて何処のどいつだ!羨ましい。
「でこんな俺に何のようだ?」
美少女の前で少しでも印象に残ってもらうためにクールを装った。
「はい♬私はソティス・パルヴァレン先日配信を開始し、あなたがダウンロードしたアプリ『アナザーワールド』に貴方様を迎えにまいりました。」
落ち着け童貞16歳の俺。こんな誘惑に負けてどうする。今ここで誘拐されホテルにでも連れてかれ手を出してしまったなら、ここまで学校に通わせてくれた妹の行動が無意味になってしまう。アニメの美少女を眺め続けた俺なら耐えられる。それよりもアプリに迎えきたとか言ったか?コイツいかれてる。
「いゃあ、お誘いは嬉しいんだけれども今は忙しくてねまた今度誘ってほしいなぁ〜」
残念そうに答えると、ソティスは少し困ったような顔をして平然と告げた。
「ん〜死にますよ?」
こんな死の宣告を唐突に告げられ人がまず考えつく先は……
「馬鹿馬鹿しい。そんな演劇他所でやってくれ。あとせっかくの可愛い顔が台無しだぞ?あ〜疲れた今日の晩飯何かな〜?」
「そうですか……残念です♬」
残念と言いながら何で笑顔なんだとつっ込みたくなる。やはりコイツ俺を馬鹿にしている。
「まぁ一応気が変わったら気軽に声をおかけください。では」
塞いでいた耳に大量の音が入ってくる様に街や人の話声が流れてくる。先程のソティスを思い出し正面を見るがフェンス越しに背後から街を照らす綺麗夕日が見えるのみ。幻想を見始めるまでに今日は疲れたのだろう。
「とうとうやばいな俺……」
行動だけでは飽き足らず心までもが、現実から逃げ出したらしい。ふとポケットで再び携帯のバイブ音がなっている事に気づき確認する。
「ただいま……」
「おかえり!メール見てくれたんだ。頼んだ食材買ってきてくれた?今日はたこ焼きパーティだよ!」
夕食を作っているのだろう姿は見えないが奥から妹が久しく聞いていないセリフを返してきた。どれぐらいぶりだろう、俺の言葉に返事が帰ってくるなんて。例え妹でもかなり嬉しい。けど。
「あれ、俺が言うのもなんだけど今日夜勤は……」
靴を脱ぐために壁を押していた手が目に入り言葉が止まった。さっきは暗かったせいか気付かなかったか、昼間見た夢の様に透けている。だが昼間見た時よりはかなりマシだ。よく見ないと気付かない。慌てて鏡を見る。顔は至って普段通りの顔だった。どうなってんだ……。ふと昼間のソティスとか言った変な名前のおかしい少女が頭を過ぎった。普通じゃない。でももし本当だったら、このまま俺は……消えて死ぬ。
「タコ買ってくるの忘れたちょっと行ってくる!」
それだけ言い残し手に持っていたスーパーの袋を投げ捨て外へ飛び出してった。『気が変わったら気軽に声を掛けてください。』……そういったのは良いが、そういやアイツ何処に居るんだ?やっぱりこの展開は学校の屋上で待ってた的な?なら向かう場所はただ一つ!
「お、おーー、あー……」
その時当の少女はゲームセンターのクレーンゲームと対決していた。
「ふむ、なかなかしぶとい奴ですね……せっかく私がこの狭い牢屋から救い出して上げようとしているのに。あっそうだ牢屋を破壊してしまえば良いのですね♬私ったらばか♬」
「本当にばかだなお前!何するつもりだ!?」
少女は俺の背後からの声にビックリした少女は振り返りため息を付きながら説明してきた。
「はぁ、なにってこの可哀想な子グマを救ってあげるのですよ。そして私のペットに。」
「でこのyouforキャッチャーを破壊しようとしたのか?。」
「…………」
普通に黙って立っていれば誰もが羨む美少女なのに行動と言っている内容が。ため息を付きながら頭をかいた時その腕を見てな俺は今置かれている現状を思い出した。
「大分透けてきていますね。そろそろ7時を回ります。タイムリミットはあと12時間と言った所でしょう。」
少女はyoufourキャッチャーに向き直りクマさんの救い作業に取り掛かった。
「俺はどうすれば……」
「昼間言ったら通りアナザーワールドに行けばここでの貴方の残り12時間は進みません♬」
クマ救出作業をしながら説明をするなんて器用な少女だと俺は内心呟いただが、youfourキャッチャーは至って初心者らしい。あれではいつまで経っても取れないだろう。少女は淡々と話を続ける。
「このアプリはオンライン型MMOゲームで、アナザーワールド、文字通りもう一つの世界が存在し、これから貴方様が生きていく世界です。」
「全く話がよめないんだがそれよりも身体が透けていくのとさっきお前が言った残り12時間ってのと俺が死────」
パニクった頭を生理しようと片っ端からした俺の質問に少女が話はまだ終わってないと言わんばかりに遮った。
「貴方様はアプリの利用規約に同意した時からこの世界から拒まれたのです♬この世界での活動許容時間は、身体が消える瞬間大体24時間です。沢山の意見では、『その世界では助けたままなのか?』いえ世界に戻ると身体は元に戻ります。『アナザーワールドに返ったら透けていくのリセットされるの?』されません♬簡単に言うとアナザーワールドにいる間、こちらでの貴方様のタイムリミットは一時停止、戻って来ると再開されるってことです。分かりやすく言うと死ぬ直前に愛する人と別れ話が出来るってことです♬納得出来ました?」
「あぁ、」
「それは良かったです♬あとこの間にも時間は進んでますからね♬」
そうだった。すかさずポケットにあったスマートフォンで妹にメールを打つが、何て送ればいいのか分からない……あーもう!これでいいアイツならきっとある意味理解してくれるはずだ。『ちょっと異世界転生してくる。』う……嘘はない。
「はぁ、じゃあ時間が勿体ないから俺をそこまで連れてってくれ。」
「嫌です♬」
────は?え?ちょっと理解出来ない聞き間違えだろう。
「じゃあ俺を────」
「い・や・です♬」
え?俺はこのまま消えて死ぬの?
「だって昼間迎えに行ったのに貴方様は断られたではないですか?それにわたしは今忙しんです!あっ、あーー」
チャリンとまた一枚
「お前お金何処で手に入れたんだ?」
「失礼ですねちゃんと働いたお金ですよ。それと連れて行って欲しいなら……」
前を向きながらコンコンと操作ボタンの横を爪でつついた。
そう言う事か。