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第六章 勇者と魔王は世界をつくる件について(仮)

「うわあ、体中がいてえわ。シャルこれ持ってくれよ」

「いやよ。そんな重いもの。乙女に持たせないでくれる?」

「乙女って、お前、片腹痛いわ」

「痛くないわよ! それは負傷のせいよ!」

「うわ、両腹いてえわ」

「やっぱり、負傷のせいじゃない!」


 俺たちはあの洞窟でなんとか竜を討ち取ることができた。

 その首を持って、王都まで戻り、そして竜殺しの称号をオルバック隊長が授かった。

 直接討ち取ったのは俺だが、なんの家柄もない人間にそんな称号を授けるなんてことはできなかったようだ。

 まあ、俺としてはどうでもいいので、逆によかったのだが、それに反抗したのが共にいた貴族どもだった。それには正直驚いたが、いくら貴族といえでも学生の身。その訴えは取り下げられたらいしい。よかった。


「ヒカル! 休みはどうするの?」


 竜討伐の功績のおかげで俺たちは数日の休暇をもらったので、俺は今、家で鋭気を養っている。


「いやいや、どうするも何も、家でのんびりするよ。畑は村のみんながやってくれる予定になっているし、もらった土地はまた元気になってから開拓する予定だ」

「ええええええ、遊びに行きましょうよ!」

「お前、なんでそんなに元気なの?」

「なんか、回復力だけはあの頃のままらしいのよね」

「便利な体してんね」


 ユリスとミアは今回のことを、家に報告しなければならないとかで実家に戻っていた。俺にも付いて来ないか? と言ってきたがそれは丁重にお断りした。俺の危機察知能力が行くなといっている。


 トントン!


 そのとき、部屋のドアが叩かれる音がする。来客だ。


「シャル」


 シャルは玄関へと向かう。


「はい、え? なんなんですか? キャ!!」


 まさにズカズカという表現が似合うような足取りで数人の人間が部屋に入ってきた。


「君が、ヒカル・ドゥンケルハイトだね?」

「そうだけど」

「私は聖騎士団、第一師団団長のマリス・フォーランドだ」


 3人が英雄の一人か・・・・・・。

 俺はやはり来たなと思った。

 英雄を当てにきたということは、ここらが本番ということか。

 俺の体は見事に今、力を半分ほど失っている。

 その理由はマリスが持っている発光石の影響だろう。


「君には――」

「国家反逆罪の容疑が掛かってるっていうんだろ?」

「話が早くて助かるよ」


 マリスは一瞬表情が固まったが、すぐに気を取り戻した。


「まあな。この先の展開は夢で見たからさ」

「ほう。つまり、自分がこの先どうなるのか知っているということか、だが、それを知っているところでどうなるんだね?」

「はは、そんなのは今はどうでもいいだろう?」


 俺は立ち上がって聖騎士たちに近づく。俺それによって聖騎士の体に緊張が走った。

 シャルは後ろ手に腕を縛られて、玄関で一人の女性に捕らえられている。

 俺は腕をマリスに差し出す。


「ほら、付けなよ。特性魔力制御装置を。そして、今から俺を連れて行くんだろ? シルバー学長の元に」

「ほう、先ほどの言はなかなか無視すべきものではないようだな」


 俺は腕に発光石付きの魔力制御装置を付けられる。それにより、俺の魔力はほぼゼロまで抑えられた。

 そして玄関まで連れられる。


「君がこっちの世界の魔王なんだろ?」

「気が付いていたの?」

「ああ、大分前にな」

「それでも、私から離れなかった理由はなんなのかしら? 力を封じられてもこんな困難なら切り抜けられるというの? 元勇者さん」

「はは、俺はただの農民だよ」


 俺はシャルを捕らえている女性に微笑みかけた。


「またな。魔王さん」

「あなたと会うときは、あなたの最後のときよ」


 そう言って、ミアはシャルを聖騎士に手渡した。

 今から、俺はシルバー学長の元に連れられて彼を殺害。そのことなどを踏まえてすべての記録を書き換えられ、俺は最終的にシャルと一緒に処刑される。

 それが、俺がこの前見た未来予知による最悪の結末だ。

 いや、正確には最悪は回避されていて、これは今から起こるであろう最悪の結果か。本来なら、俺たちはあの洞窟で捕らえられるはずだったわけだからな。

 まあ、それでもいいんだけど、畑がなあ……。


 ―仕方ない。切り抜けちゃおっかな。










「君とこんな形で対面するとは思ってもみなかったよ」

「俺は思ってましたけどね」


 俺は学長室にて、シルバー学長と対面している。

 ここには俺とシルバー学長以外には誰もいない。

 つまり二人きりだ。

 だが、俺の腕にはもちろん魔力制御装置が、そして壁にはもれなく発光石がきらびやかに用意されていた。


「まさか、わが生徒からそんな人間が出てくるとは思わなかったよ」

「一応聞いておきたいんですけど、俺の容疑の詳細ってなんなんですかね?」

「ふむ。そうだね。君は、あの魔物の拠点制圧の知らせを受けて、あそこに竜を配置した。そして、共に行く高級貴族とその従者、そして聖騎士として名を上げつつあるオルバック君を殺害することを企んだ。それらから考えられる被害を総括した結果、国家反逆罪となるわけだよ」

「随分と大胆な作戦ですね」

「私もそう思うよ。君がここまで大胆な行動をとるとはね。だが、なぜか君は竜を討伐した。その理由を聞きたくてね」

「どういう理由にするんですか?」

「ん?」


 俺はシルバー学長に対して不敵に微笑む。


「今から、俺はあなたを殺すことになるわけなんですけど、俺は一体どうやって、あなたを殺すんですかね? それをぜひ伺ってみたいんですよ。後学のためにね」

「いったい何を言っているのかな? 君が私を殺す? そんなこと無理に決まっているだろう。冗談が過ぎるようだね」

「ここまでの出来事が冗談が過ぎるんじゃないですか?」


 俺の言葉にシルバー学長の表情が一瞬固まった。

 そして、彼もうっすらと微笑んだ。


「まったく、驚きだ。ここまで優秀だったとはね」

「うすうす気がついていたでしょう?」

「ああ、彼女から魔王であることを見破られたと聞いたとき、もしかしたらと思ったよ」

「どちらかというとあっちに気が付くほうが時間が掛かりましたよ」

「私のことはいつ気が付いた?」

「ここに最初に呼ばれたときに確信が持てました。まあ、気付きでいえば、最初に見たときからありましたね。入隊式のときですね」

「ふっ、流石、元勇者だけあるね」

「あなたは最初から俺たちのことがわかっていたみたいですね? 俺たちが転生者であることを」

「ああ、私の眼はその人間のすべてを見通すことができる」

「流石、この世界の勇者様ですね」


 俺とシルバーは眼を合わせてお互いに微笑んだ。


 ―まさか、勇者と魔王が手を組んでいる世界に出くわすとはな。初めてだ。


「いつから俺たちのことに気が付いていた?」


 俺は面倒になったので丁寧な言葉遣いをやめた。

 そもそも同等の存在なので、いいだろう。

 シルバーは一度咳払いをして話し出す。


「あるときに、小さな村で魔力の異常な上昇を感知してね。それで見に行ったんだ。そこで、この眼で生まれたばかりの二人の赤ん坊の本当の姿と、そのすべてを視たわけだ。つまり、君たちの転生前の姿を視たんだ」


 まあ、生まれた瞬間は魔力制御が上手くできないのは決まっているからな。そこで見破られたなら仕方がないか。


「それで? どうして俺やシャルを葬りたいわけ? 俺たちなんか迷惑かけたっけ?」

「いや、迷惑はかけていない」

「なら、なんでだ?」

「これから迷惑を掛けるかもしれないからだよ」


 そこでシルバーの雰囲気が変わった。

 威圧するような態度になる。


「この世界は今、かなり上手く行っているんだ。つい千年前までは戦争に戦争を重ねていてね。それをこの千年間でなんとか、ここまでの世界を作り上げた。だから今更邪魔されても困るんだよ」

「その作り上げたっていうのは、勇者と魔王とでってことか?」

「ああ」


 シルバーは身の毛のよだつような表情をする。


「私たちはね。最初こそ敵同士だったが、この世界のために協力する道を選んだんだ。だが、私は人間、そして彼女も魔物としての寿命が迫っていてね。そこであることを思いついた。永遠の命があればこの世界を作り上げることができんじゃないかってね

 」

 永遠の命、それを可能とする魔術は唯一つ。


 ―黒魔術か。


「我々は残された時間を使い、転生するための黒魔術を開発した。それでこの千年、生まれ変わりを続けてここまで二人で世界を作り上げてきたんだよ。それを今更……」


 シルバーは俺に対して憎悪の目を向けてくる。


「他世界の人間がのこのこと土足で私たちのエデンに踏み入ってきてもらっては困るんだ」


 うわあ、こいつも大分こじらせてるなあ。こりゃシャルと同類だと思うわけだわ。


「だから俺たち、少なくとも俺は何もするつもりはないって」

「ふざけるな! あの竜での戦闘! あれはなんだ! せっかく私が研究に研究を重ねて貴様たちの力、加護と畏怖の力を抑える物を開発したというのに、貴様たちはその力で竜を殺して見せた! その力は危険だ! もしも、今何もするつもりがなくとも、将来何もしないとは限らないではないか!! なら今、その芽を摘んでおくべきなのだ!」


 シルバーは机を勢いよく叩いた。高級そうな机なのに。


 ―イレギュラーはできるだけ排除したいわけね。


 まったく、おもちゃを取り上げられそうになったこども見たいな怒り方だな。大人になってここまでこじらせるとこんなにも面倒なのか。やはり子供の反抗期はあるほうがいいな。大人になると手がつけられなくなるわ。

 漸くすべての全貌が見えてきた。

 この勇者、そしてあの魔王は最初から俺たちを消したかったらしい。だけど、俺たちの力を抑えるための研究に数十年要したというわけか。そしてその結果がこの発光石ってわけね。


「私たちが開発したその発光石は、すべての特殊能力ユニーク・アビリティを防ぐという代物でな。これを使えばどんな力も封じることができるものだ」


 シルバーは得意げに話しだした。


 ―これだから年寄りは嫌なんだ。話が長い……。


「私は、最初あの竜との戦闘でお前たち二人にもっと重傷をもたらすつもりだったわけだ。そして、そこで――」

「俺たちを捕らえるつもりだったんだろ? 話長いよおじいちゃん」

「お、おじいちゃん?!」


 俺は一つ大きなため息を漏らした。


「つまりは、あれだ。あそこでお前が俺たちを助けにきて、そのときに俺に化けたミアがあんたを後ろから刺して殺害する演技をする。あそこには、高級貴族という承認がいるからちょうどいいわけだ。そしてあそこで、力を使い果たしている俺らを捕らえて裁判にまで持ち込んで処刑。だろ?」


 俺は面倒くさそうに早口で言った。

 そして矢継ぎ早に続ける。


「でも意外に俺たちが協力して竜を討ち取り、しかも俺はともかくシャルにはまだ余力があったから、計画を変更して、ここに俺を連れて来た。もし俺が指示に従わなかったら畑でも人質に取るつもりだったんだろう? そのためにわざわざミアが俺の畑に来たわけだからな」


 ユリスとミアが畑に来たという情報をクロスフォードに流したのはミアだ。

 そして、俺がクロスフォードとの戦闘に入っている間に畑に魔術式を組み込んでいた。流石は現魔王。シャルでも気が付かないほどの繊細な作業を行っていたんだから褒めてやってもいい。まあ、俺にはバレバレだったけどな。最後ガチガチだったしね。多分その作戦は、俺が畑を盾にされてシャルの言いなりなっているところを見て思いつきでもしたんだろうな。ってことは全部シャルのせいじゃね?


「まったく、俺の畑愛を利用しようとするなんて最低だな!」

「そ、そこまでわかっておきながら、どうしてまんまとここまで来たんだ?」

「え? そんなの決まってるだろ? 畑に異物を流し込んだからだよ!」


 俺は今日一番の声量をそこで使う。


「……ふん。ははははっははっはははは」


 そこでシルバーが大声を上げて笑う。


「まったく。とんだ馬鹿だな。そこまでわかっておきながらなんの対策をしていないとは、これだから力を持ちすぎたやつは駄目なんだ」

「この部屋が本当に特殊能力を封じる部屋だとしたら、お前も使えないんだろ? だったら、ほとんど五分だろう?」

「君も言っていたじゃないか。私はここで君に殺される予定なんだよ。だから私が勝つ必要はないんだ。それに、単純な戦闘という意味では私は無敵だ」


 ―はい。フラグ立ったあ、こいつの敗北決定!!


「マジで、俺がお前を殺しちまったら話しは変わってくるだろう?」


 俺は立ち上がった。


「だから、単純な戦闘でも私が勝つと言っただろう? 私はね。相手の特殊能力を奪えるんだ」

「は?」


 こいつ何言ってんだ?

 ここではそもそも特殊能力が使えないはず。

 それなら、そんな能力を持っていようが無意味だ。


「ははははははははは! すべて私たちの思い通りだ!」

「は?」

「貴様の未来予知はすでに折込ずみだ。だから、彼女の能力、淫夢でニセの未来を見せた。そして、貴様はその罠にまんまとはまったのだ!!」

「何?!」


 俺は自分の鼓動が早くなるのを感じる。


「そもそもこの発光石は、なんの力もないんだよ。君たちの力が使えなくなっていたのは、私の能力で君たちの力を奪っていたからだ!」

「なん……だと……?」

「私の特殊能力はね。ある範囲の中にいる指定した人間の特殊能力を一定時間奪うというものなんだ。寿命と引き換えにね」


 大きな代償があるかわりに、多大なる恩恵がる能力。

 特殊能力の中でも特殊な力……。


 ―魔神のデビル・アビリティーか!


「君たちの力は巨大だから、私一人の寿命でやっと奪うことができるレベルだよ。だから、わざわざミスリードを誘うことをして、気づかれないようにして、ここまで連れてきたんだ。あの洞窟でのことも、この力が君たちに本当に効くのかどうか確かめるための予行練習だったんだよ。まんまと嵌ってくれて私は今少し感動しているくらいだ」


 まんまとね……。


「なんとも、えげつねえもん持ってるな。それはあの魔王も持ってるのか?」

「ああ、私たちはすでに魂を密合させて一つの魂だからね。すべてを共にしている」


 禁忌も犯してるってわけか。


「これでわかっただろう? 君もあの元魔王も私たちには勝つことができないんだよ」

「正直、そこまでの力を持ってたとは驚きだ。つまり、転生できるお前は寿命を使いまくっても大丈夫ってことだろ?」

「ああ」


 ―はああああああ


 俺は心の中でため息を付く。

 まったくめんどくさいこと甚だしい。


「それにしても君の加護の力はすばらしいな。力が体からあふれてくるよ」

「畏怖の力はミアが持ってるのか?」

「ああ、やはりあれは魔王が持つべきものだろう?」


 俺がこの世界に転生した理由はこれか、この馬鹿な二人をどうにかしろってことですかね神様? 


 ―仕方が無い。やるか……。


 俺は静かに席を立った。


「それでもやると?」

「まあね。まあなんだ。なんかごめんな」

「別に謝らなくて――」

「いや、そういうんじゃなくてさ。リミット2」


 ガゴン!


 俺の手にある魔力制御装置が音を立てて外れた。


「ふん。それくらい予想はついていたさ! 一瞬で終わらせてやる! くらえ! 貴様の技だ!」


 シルバーは腰から剣を抜き構える。

 剣の剣先に小さな光の塊が出現する。そして、それを俺に向かって突き出した。


「お前があの元魔王との戦闘で使った威力の数倍あるぞ! スター・ショック・バーストー!!!!!」


 ものすごい閃光が俺に向かって放たれた。


 ―スター・ショック・バーストーって、今思うとなんかダサいな。


「リミット3」


 俺はその閃光に向かって片手を突き出した。

 俺の出した手の平にスター・ショック・バーストーがぶつかる。

 俺はそれを文字通り握りつぶした。

 一瞬で閃光が消え、先ほどまでと同様の風景となる。

 シルバーは、剣を突き出した形だ。


「え?」


 そんなシルバーを見て、俺は単純にその格好がダサいなと思った。自分もシャルとの戦闘のときあんな格好になっていたかと思うと、恥ずかしくなる。


 ―やっぱり勇者なんかになるべきじゃないな……。


「いったい、何が起こったというんだ……」

「簡単な話だ。ただ手で握りつぶした。それだけだよ」

「は?」


 まあ、シルバーの気持ちもわからなくはない。

 相手から奪った力で渾身の一撃を放ったのに、それが片手で止められたんだからな。想像すらしていなかった出来事だろう。

 しかたがないから、俺は説明をしてやることにする。


「お前が千年のときをいきる勇者なら、俺は百の世界を転生してきた勇者なわけだ。つっても、俺は常に勇者だったわけじゃないんだけどな」

「百の世界……だと……?」

「ああ、そして、お前が奪った力は俺の前の世界の分、つまり一つの世界の分だけってことだな」

「っということは…、後九十九もこれほどの力がるというのか……」

「まあ、そうなるな」

「ふふふふふふ、はははははは、ならそれだけの力も奪わせてもらおう!」


 シルバーが右腕を突き出してくる。


「それはお勧めしないな。死ぬぞ? まあ、その前に無理だけどな。リミット1」


 俺の魔力は急激に下がる。


「いったい、何が……」

「俺は万が一お前みたいな敵と遭遇したときのために、自分の力にリミットを掛けててな。だから、そのリミットが掛かってるとそれまでしか力が使えない。つまり、お前も奪えない」

「ならば!」


 シルバーが、俺に向かってくる。

 そしてシルバーが斬撃を俺に飛ばしてきた。どれも加護の力を最大限に利用したもので、この学園を一振りで破壊するほどのものだ。

 それを俺はすべて寸でのところで交わす。


「その状態で始末するか、力を出現させた瞬間、また強奪すればよかろう!」

「いやいや、強奪とか勇者が言ったらだめだって」


 俺は気の流れを読み切り、シルバーが飛ばしてきた斬撃を逆に腕にまとって、放つ。

 シルバーが飛ばしたものと、俺が放ったものがぶつかり、衝撃波と共に相殺された。 


「何!?」

「こういうのは別に能力じゃないからな。体に染み付いたもんは奪えねえだろ?」

「ならば!」


 魔力系を飛ばすのは不利と見て、シルバーが近接戦闘を仕掛けてくる。

 これなら、自身を魔力で強化できない俺に不利とみたらしい。


 ―甘いな。


 俺は気を操り、高速で重いシルバーの攻撃を軽く流し、シルバーを子供のようにあしらってやる。


「いったい、どうなっている!」

「千年生きて来ても、歩んできた死地の数が違うんだよ」


 俺が最初転生させられた場所は百年続く戦争が続いている世界だった。

 その世界では俺が前世で獲得した力など無に等しく。一から鍛えてその世界を救った。それこそ毎日が死と隣り合わせの世界だ。


 ―今思えばあの世界が一番つらかったなあ。


「くそう! こうなったら、王都を消し去る規模の攻撃を放てば、流石に受けきるしかあるまい!」 


 まったく、えげつないことを考えるもんだ。自身が作ったエデンとかいうのを破壊する危険性がある攻撃を放つなんて、すでにお前がこの世界の害だよ。ほんと、勇者が老害になったら駄目でしょ。


 ―はあ、仕方ない。すぐ終わらせるか。


「リミット10……」


 俺は世界を十個開いた。

 俺の体に無限といってもいいほどの魔力が流れ込む。


「はは! 無駄だ! 奪わせてもらう! ハック(強奪)!!」


 だが、その瞬間シルバーが血しぶきを吐き、床に膝を着いた。


「だから言ったろ? 死ぬぞって、お前じゃ受けきれねえよ。お前の魂じゃな」

「くそ……。だがいいのか? 貴様はそれほどの力を持っているかもしれんが、向こうの元魔王は今頃、彼女が殺してしまっているかもしれないぞ?」

「それはねえよ」

「何?」


 だって、あいつは俺に世界を三十も開けさせたやつだからな。一世界であれほどの力は異常だ。本当に化け物だよ。


「あいつも、力隠してたからな。それよりも自分の心配しろよ。もう詰みだぜ?」

「ふん。私はここで死のうともまた転生できる。いずれまた貴様を倒すために姿を現そう」


 俺は心の中で頭を抱えた。


 ―お前の生きる趣旨変わってもうてるやん! ってか、もう姿みんでええわ!


「ふう。こんなときのために覚えておいてよかったかな」


 俺は、シルバーに手の平を向けた。


「我、安らかな眠りを汝に与えなむ」

「貴様……何を?!」

「うん? ああ、魂を行くべくところに送る魔法、俺修道院にいた世界もあってさ。神父さんやってたんだ。これは全世界共通の力だろ?」

「や、やめろ!!」


 先ほどまでの威勢はどこへやら? シルバーが急に焦りだす。

 シルバーの周りに全方位魔法が現れた。


「わ、私は!」

「まあ、向こうで神様にキツイお説教でも受けてくれよ。な? あの人結構怖いけど、ガンバ」

「う、うわああああああ!」


 魔方陣が発光して、シルバーを光が包んだ。

 シルバーが一頻り苦しんだ後、彼の体から、白い魂が抜けて、それが天に昇っていった。


「さてと、シャルのほうにも行ってみるか」


 俺は、シャルの魔力を感知する。


 ―なんだ。下か。


「アクティベート」


 俺は、時空間転移魔法を使ってシャルのところに飛んだ。


「って、お前やりすぎじゃね?」

「あれ、ヒカルじゃない。そっちは終わったの?」

「ああ、まあな。勇者様は天に召されていったよ」


 俺はシャルの対面に目をやる。

 そこには、壁にめり込んだミアがいた。なんとも無惨な姿である。


「上手くリミットはずせたみたいだな」

「うん! まあ、私はまだリミット2までしかないけどね」


 シャルが今まで使っていたものはあくまでもこの世界で鍛えたものだ。

 だから前世で使っていた魔力などはまだ使っていなかった。つまり、いくら畏怖の力を奪ったところでシャルの力が弱まることはほとんどなかったわけだ。


「それにしても、ヒカルの思った通りだったわね。相手の能力も全部言い当てるなんて流石じゃない」

「別になんでもないさ。俺もシルバーと同じなんでも見る眼があっただけだ。しかもこれは魂に刻まれた能力だからな。あいつの能力でも見ることも奪うこともできない」


 まあ、まさかの未来予知に入られるとは誤算ではあった。

 でも、対面してそれは全部視ることができたので、問題はなかった。

 千里眼の本当の能力を使うにはリミットを3は開けないといけないので、それまでは気が付かなかったというわけだ。

 だから、俺は相手に気づかれないように、魔力を使わない世界を開いてリミットを3にして相手の中身を視たわけだ。魔力さえ上がらなければ向こうにはリミットをはずしたことはばれないと判断したからなわけだが、見事にそれが上手くいった。


「それで、どうするの?」

「この魔王さんにも行くべきところに行ってもらうよ。ミアは返して欲しいしな」

「え? ミアが魔王じゃないの?!」


 俺はミアに近づく。


「こいつらの転生の黒魔術は不完全なんだよ。本当は転生してるわけじゃなくて、人格を乗っ取っているだけ、つまり精神作用系の魔術だ。だから、ミアとしての人格は残っているし、普段は本当のミアが表に出ていたみたいだからな。特にユリスの従者のときはそうだと思うぞ」


 俺はシルバーに行ったときと同様のことをする。

 ミアの体光に包まれ発光しだした。

 そのとき、ミアが意識を取り戻した。まだ人格は魔王だ。


「あの人は……?」

「綺麗に天に昇ってったよ」

「そう。私は地獄かしらね」

「さあ、向こうが地獄で、あんたが天国かもよ?」


 それを聞いて魔王は微笑んだ。

 そして、ミアから黒い魂が飛び出し天に昇っていく。


「さてと、いっちょ上がりかな」


 俺はミアの体を起こしておんぶした。


 ―多分ユリスが心配してるだろうな。


 まあシルバー学長のほうは、大丈夫だろう。ただ、あの人は普段から勇者だったみたいだから、実際の人格がどんななのかはわからないけどね。



 俺たちはその後普通に家に戻ったのだが、後日、また聖騎士たちが家にやってきた。

 そして、俺は裁判に掛けられることになった。

 あの名もなき勇者、(聞き忘れたため)たちが残した偽装により俺は窮地に追い込まれるが、ユリスや復活したミアの尽力、決定的な証拠がないことなどから、不起訴となり無事に開放された。


お読みいただきありがとうございます!!

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