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お前の声が聴きたい

青春ものです。
こういうのはあまり書かないので、ちゃんと書けているかドキドキが止まりません……!
「……くっくっくっく」
「またあいつ一人で笑い出しているんだけど」
「ちょっと怖いよね」

 周りからきもいだの怖いだのと声が聞こえてくるが、俺はそれどころじゃない。
 それはなぜか? そんなのものは簡単だ。
 俺は、とある小説サイトで小説を書き、投稿している。
 始まりはなんとなくライトノベルを中三の時に読んだのがきっかけだった。

 一瞬にして、はまってしまった。
 俺もこんな文字で感動を与えられる人間になってみたい。そんな些細な気持ちだったが、俺は小説サイトを見つけ、そこに登録。
 自分の考えた小説を毎日のように学校から帰ったら執筆し、投稿。
 昼休みになるとスマホで確認。
 家に帰っても確認。
 そして、続きを執筆。
 その繰り返しだ。

 自分の書いた小説が読まれている。
 感想が書かれる。
 評価される。
 それだけで、俺は気分がよくなり、もっと書きたいという衝動に動かされるんだ。

 今までは、自分で書いたものを投稿しようだなんて思っていなかった。
 ただ趣味で書いて、それだけで自己満足。
 興味のある、面白そうな、個人的に好きな設定のライトノベルがあれば、それを今まで買い食いにしか使っていなかった小遣いを今では、趣味のために使っている。

 昔は、俺もアニメや漫画を見ていた。
 でも、変わってしまった。
 まあ、今ではさらに変わってしまったけどな。
 さーて、今日の分を今のうちにノートに書いておくかぁ。
 そうすれば、家に帰ってそのまま入力して投稿するだけ。

「……ん?」

 鞄からいつものノートを取り出そうとした時だった。
 ふと、視線が隣の席ににうつ伏せになって眠っている女子生徒にいく。
 栗色の肩よりちょっと長め髪の毛。
 小柄な体系。
 うつ伏せだから顔を見えないけど、うつ伏せじゃくてもよく顔は見えないからあまり変わらない。

 こいつは、弓原ゆみはらみのり。
 この星峰せいほう高校に入学してからずっと気になっていた。ちなみに、恋愛関連ではない。
 だって、こいつはずっとマスクをしていて、声だっていつもいつもぼそっとしか喋らず、口数が少ない。

 風邪でもない。
 ましてや、何かの病気でもない。
 それなのに、いつもマスクをして昼食時もどこかへと消えて一人で食べているらしい。

 そんな生徒と俺、矢崎やざきひろは隣同士に。
 こんな不思議さが漂う人物に興味を待たないほうがおかしい。
 と、そこでゆっくりと弓原は顔を上げる。
 相変わらずのマスク姿だ。あ、でも花型の部屋ピンはしているな。俺は、すぐに視線を離してノートを広げペンを手に持つ。

「さーて、続きを書こうかなぁ」



・・・・・・・・・・



 その日の帰り道だ。
 俺は、新刊を買うために本屋に立ち寄っていた。
 今日も、創作意欲を増すような良いライトノベルを買えた。俺はさっそく帰宅して、ノートに書いた続きを投稿し、買ったライトノベルを読もう。
 うきうきな気分で、歩いていく。

 と、そこで。

「ほらほら、さっさと取っちまえよ!」
「いつもいつもマスクなんか付けてさ。どうなっているのよ!」
「ん?」

 本屋と隣の服屋の間。
 薄暗い細い道から声が聞こえた。
 言葉から察するに、虐めだろう。
 まったく、いったい誰が誰を……あれって。

 そこには、見覚えのある制服の生徒が居た。
 俺が通っている星峰高校の制服だ。
 クラスは違うからわからないけど、虐められている生徒はすぐわかった。
 あのマスク。
 そして栗色の髪の毛。
 抵抗しているけど、決して声を張り上げない。

 弓原だ。
 俺の隣の席に座っている、いつもマスクをしていて、決して大声を上げず、ぼそぼそとしか喋らない女子生徒。
 その弓原が今まさにマスクを剥ぎ取られようとしている。

「や、やめて……!」
「えー? なんだってー? 聞こえなーい! もっと大きな声で言ってみなさいよ!」
「どうせ、マスクを取ると不細工だとかそういうのでしょう! ほら、早く剥ぎ取られなさいよ!」
「取ったー!」
「あっ」

 ついに弓原のマスクが剥ぎ取られてしまった。
 その素顔は……美少女じゃないか。まるで、二次元から飛び出してきたかのような、美少女だ。正直、虐めている二人より断然可愛い
 結構好みかもしれない。
 それなのに、どうしてマスクなんか? 弓原は、剥ぎ取られたマスクを取り返そうと、必死に手を伸ばしている。
 だが、届かない。
 そして、ついに。

「か、返して!」

 大声、とまではいかないが、しっかりと声が聴けた。
 その声は……一言で言うと、アニメ声だった。
 つまりは、アニメでよく出てくるちょっと高い声、ということだ。特徴的な声で、アニメ業界やアニメ好きな者達はそれをアニメ声と呼称している。

「うわ! すっごい耳障りな声だね~」
「あたしさ、こういう声をなんていうのか知ってる。アニメ声って言うんだよね? きもいアニメオタク達が好き好むって言うさ。でも実際にこういう声って…きもくない?」
「あー。だから、マスクで声を潜めていたんだ~。周りからきもいって思われるから!」 
「「きゃはははは!!」」

 あいつら……。
 このまま見過ごすことはできない。人間として、男として。
 俺は、数冊のライトノベルが入っている袋を抱えながら近づいていく。

「お前ら! 何してる!!」
「うわっ。誰か来た!」
「退散退散!!」

 そう言って、マスクを放り投げて逃げ去っていく。
 弓原は、黙ったままだった。
 俺は、すぐに地面に落ちているマスクを手に取り、汚れを払って……渡していいのか? マスクは口に付けるものだから、汚れたら……。

「ありがとう……」
「え? あ、うん。どういたしまして? て言うのもおかしいか。もっと早く助けてやれていればよかったんだけど」

 と、一言だけぼそっとお礼を言って、俺が拾ったマスクを受け取りそのまま走り去っていく。

「うーん。それにしても」

 走り去っていく後ろ姿を見ながらさっきの弓原の声をリピートする。 

「良い声だったなぁ」



・・・・・・・・・



 自宅に帰った俺は、さっそくノートを開き小説投稿サイトに続きをタイピングしている。
 その間、なぜか柚原のことを何度も思い出してしまう。
 あの声が耳に焼き付いている。
 なぜか、何度もリピートしてしまう。これはどういうことなんだろうか? 俺はライトノベルにはまってから、一気に二次元へと走っていった。

 アニメを観賞し、アニメソングを聴き。 
 そんな俺でも、ここまで耳に残るほどの声を聴いたのは初めてだ
 もしかすると、弓原の声に……魅了された?
 いや、だが、不謹慎だな。
 抵抗している声を何度もリピートさせるなんて……最低だ。

「だけど」

 やっぱり、気になってしまう。
 弓原。明日学校に来るだろうか。
 あんなことがあったから、登校しないだろうなぁ。それに、あの二人組み。絶対、弓原のことを誰かに話しているに違いない。
 同じ学校じゃなければよかったんだが。 

 そして、面白がった連中が集団で、虐めをする。
 こういうパターンになりそうだ。
 弓原もおそらくこう考えているはずだ。そう考えるからこそ、登校をしない。 
 もしかしたら……いや、もしかしなくても弓原は自分の声が周りの人とは違っているから「嫌われる」「きもい」と思われる。
 だからこそ、マスクをして、声を低くしていたんだ。

「もう一度、あの声を聴いてみたいなぁ」

 タイピングを終えて、俺は小説を投稿。
 そこで、俺はふとあることを思いついた。
 それを実行するには、まず弓原と仲良くなる必要があるな。
 明日、弓原が学校に登校してきたら、話しかけてみるか。俺は、作戦実行のためにどうやって弓原と仲良くなるか。
 話しかけるタイミングはどうするか。
 どんな話題で盛り上げようか。
 などと、いつでも弓原に話しかけても大丈夫なように思考した。

 また、あの声を聴きたいから。



・・・・・・・・・・



 翌日の学校にて。
 弓原は学校に登校してきていた。俺は、学校に早めに登校して、一人静かな教室でノートに小説を書いていくのが日課だ。
 誰も居ない時刻。
 だけど、毎回のように俺の後に……そうだな。大体五分後くらいに弓原は登校してくる。

 次に生徒が教室に入ってくるのは十五分ぐらい。
 だから、しばらくは俺と弓原の二人きりになるわけだ。
 今までは、何も話さず、俺はひたすらノートに小説を書いていた。弓原も、すぐうつ伏せになって寝ている。

 今日も、そんな毎日が過ぎようとはしなかった。
 俺は、弓原にそっと声を話しかける。
 怖がらせないように。
 優しく。

「弓原。少し、話してもいいか?」
「……」

 だが、無言だった。
 それもそのはずだ。今まで喋ったことのないただのクラスメイト。いや、昨日の出来事があったから話し辛いのだろう。
 だけど、俺は一人で喋っていく。

「弓原は、声優っていう職業って知っているか?」
「……」
「声優って言う職業はな。声で相手に感動を与えたり、緊迫した状況を頭に想像させたり、テンションを上げさせたり。声だけで、色んなものを与える職業なんだ。その声優のほとんどが、自分の声を世の中に広めたい。声で関心を、感動を与えたい。そう思っている人なんだぜ? て、言っても俺が勝手に妄想しているだけなんだけどな。あはははは」

 これでは、ただ一人で喋っているだけ。
 静かな空気が流れる教室で一人、俺は語り笑う。
 他の人から見れば「なんだあいつ」と思われてもおかしくはない。だが、俺は喋りたかった。弓原のお前の声は耳に残るほど素晴らしいものだと伝えたかった。

 だから、こんな回りくどいことを言っているのだが。
 ここはストレートにものを言ったほうがいいのだろうか? 
 こういうのはあまり得意じゃないからなぁ。
 文字で表すなら何とでもできる。
 でも、実際言うとなると。

「えーっと……その……こほん。弓原。俺は、お前の声を……もう一度聴きたいんだ」
「……」

 ストレートに言ってしまった。
 でも、これですっきりした。
 すると、弓原は身を起こす。
 視線をこっちに向けて、ぼそっと反応してくれた。

「それは……笑うため?」

 やはり、昨日の出来事があったから余計に警戒されている。
 が、俺は屈しない。
 彼女のあの声を……もう一度はっきりこの耳で聴くために。

「違うって。俺は、お前の声に心を奪われた。昨日からお前の声をもう一度聴きたいと思っているんだ」
「なにそれ。冗談?」
「冗談じゃないって。俺は真剣だ。真剣と書いてマジだ。弓原の声には人を魅了するものがある。俺は一度聴いた時にそう思ったんだ。弓原は自分の声を……どう思ってる?」
「……正直、好きじゃない。幼稚園と小学校ぐらいまでは、あまり気にならなかったけど。中学になってから友達に言われて、気づいたの。この声は他の人とは違うって」
「それから、ずっとマスクを付けているのか?」
「そう。声のトーンも低くして、あまり目立たないように工夫をした。そのせいなのかな。暗い子だって思われたのは……。まあ、そっちのほうがあまり目立たないから私はいいんだけど。でも」

 と、急に黙りスカートをぎゅっと掴み、視線を落とす。
 おそらく、昨日のことだろう。
 今まで、あまり騒がず、目立たずやってきたのに昨日の出来事で自分の地声が他の人にばれてしまった。
 それも、確実に周りに広めそうな人物に。
 このままだと、確実に声のことで虐められる。
 そう思うと、怖くなる。 
 俺は、怖がっている彼女の肩に力強く手を置いた。

「な、なに?」
「大丈夫だ。お前の声はすごい! そして可愛い!! 自信を持ってもいいぐらいだ」
「か、かわっ!? そ、そんな無責任な励ましよく言えるね……!」

 いきなり、可愛いなどと言われて動揺したのか視線を逸らす。
 一瞬だったが、声が上ずってあの声を聴けた。 

「お? さっきちょっとだけどあの声が聴けた! うーん。やっぱり、いい声だよ。もう一回聴かせてくれ!」
「やだ」
「可愛い声を聴かせてくれ、みのり」
「……」
「あれ? 反応なし? 急に名前を呼ばれたから反応するかと思ったのに」
「君、女心わかってないね」

 すごいジト目で俺は指摘される。

「女心。ということはさっきのではトキめかなかった?」

 おかしい。
 こういう展開では、名前をいきなり呼んだり、可愛いと言ったら初々しい反応をするはずなのに。
 やはり、ライトノベルみたいにはいかないか……ま、当たり前だよな。
 現実は厳しいぜ。

「本当に、君は何がしたいの? 私を馬鹿にしたいの?」
「いいや。俺は、お前の声を聴きたいんだ。ただそれだけなんだ」
「……変な奴」

 変な奴。
 そんなことは何度も言われているから慣れている。
 だが俺が気になったのはそこじゃない。
 さっき、マスクで少し聴き取り難かったけど、確かにあの声で言われた。

 これは……うまくいったのかな?



・・・・・・・・・・



 とまあ、それからというもの。俺の毎日は、小説を書きつつ、しつこいほどに弓原の声を聴くべく奮闘する日々が続く。
 ストレートにきもいと言われる時もあった。
 完全に無視されることもあった。
 周りから、弓原のことが好きになったのか? と誤解されることもあった。そんな毎日が続いて、ようやく大きな一歩を踏み出せたかもしれない。

「お邪魔、します」
「おう! 入ってくれ!! 俺の両親は両働きだからさ。今は誰もいないんだ」

 弓原が俺の家に遊びに来てくれた。
 その目的は、試したいことがあるからだ。家に入るなり、マスクを少しズラす。多少は、俺のことを信用してくれているって証拠でいいのかな?
 すると、次はヘッドホンを鞄から取り出しいきなり耳に取り付けた。
 どうやら音楽を聴くようだ。
 趣味と言う趣味がないとのことで、俺が音楽なんてどうだ? と言って、いくつかアニソンを進めたんだ。しかも、音楽用の機械を一緒に選んで。

 最初はいやいやだったが、試しに聞かせていくにつれて、気に入ってくれたのか暇があればヘッドホンを耳にして一人でアニソンを聴いている。
 俺的にヘッドホン女子っていうのは中々いいものだと思うんだ。

「そんなことしなくても、俺の部屋で」
「いいの。一人で聴きたいの」

 相変わらず、声のトーンを低くしているけど最初の頃よりはあの声に近くなっている。スリッパを出し、弓原に履かせて俺の部屋がある二階へと上っていく。

「さ、ここが俺の部屋だ!」
「……」

 しかし、俺の部屋には興味がないかのように静かに足を踏み入れベッドの上に座り込んだ。
 ま、別に良いけどさ。
 俺は、無視されることには慣れたのでそのまま鞄を置き機材を取り出す。取り出したのは、マイクだ。

「それで? 何をするの?」
「お前の声を録音したい!」
「……どうせそんなことだろうって思っていたけど。君って、退屈なんだね」

 と言いつつ、ヘッドホンを取って首元にかけた。

「お? やる気だな」
「やる気じゃない。これに協力すれば、付きまとわないって言ったからやるだけ」
「確かに言った。だが、こうも言ったはずだ。これを動画投稿サイトに投稿して、もし! もしもだ。最整数が五百……いや千を越えたら、もうちょっと付き合ってもらうって」
「まあ、いくわけがないだろうし。それでいいよ」

 自分の声なんて、誰も聞きたくはない。そもそも、うまくいくわけがない。そう思っているんだろう。だが、俺はうまくいくと思っている。
 弓原はまだ二次元に生きている奴らのことを知らない。
 アニメを観ていて、アニメ声に慣れてしまっている者達にとって弓原の声は絶対うけること間違いない。そう思った俺はさっそく弓原にとある用紙を渡した。

「なにこれ?」
「台本だ。俺が考えた。今から、このマイクに向かってここに書かれている台詞を読んでほしい。ちゃんと! 気持ちを込めてな」

 それを受け取った弓原は、流し程度に読んでから目を細める。

「可愛い後輩らしくって……」
「そのほうが良いんだ。今の低めの声じゃなくて高めの声でな!」
「……はあ。わかった」

 これをやればやっと解放される。そう思った弓原はさっそくマイクの前で……台詞を読まない。録音もしようとしていない。
 どうしたのかと首を傾げているとキッと俺のことを睨みつける。

「出て行って」
「なんで?」
「君がいると言い辛いの。じっと見てくるし。集中できない」
「お、おう。そうか」

 弓原が全力を出せるように俺は部屋の外へ。

「ドアの前にいてもだめだよ。ちゃんと、一階のリビングにいて」
「……はーい」
「それと、こっそり着ても無駄だからね。私、かなり耳がいいから。こっそり上がってきてもすぐ気づくから」

 ……本格的に聴かれたくないという気持ちが言葉から滲み出ている。俺は、ぐっと堪えリビングへと向かっていく。
 そして、一分ほどが立ち弓原からおっけーというラインが送られてくる。
 再び部屋に入ると、途中で買ってきたポッキーをぽりぽりと食べて休憩していた。

「聴いてもいいか?」
「……」

 返事がない。ということは良いってことだな。大抵、返事をしない時はいいということが多い。まだ付き合いは浅いが、それぐらいはなんとなくだがわかってきている。
 俺は、ヘッドホンを耳にあて、録音した弓原の声を聴く。

『やっほー! おかえり!! ……あれ? なんだか元気がないね。え? ……うん……うん。そっかぁ。それで元気がないんだね。……うん! わかった。私が元気付けてあげる! 頑張れ~! 頑張れ~!! ファイトー!! ……どう、かな? 少しは元気でた? もし、元気がなくなったら私を頼ってね。私は、いつも応援しているから!! えへへ』
「……くぅ!!」

 思わず、俺は拳を握り締める。
 予想通り! いや予想以上だ! しかも、弓原の演技力が半端なくすごい。もうこれは立派な声優って言っても誰も文句は言わないだろう。

「なに? その目。やれって言ったからやっただけ……中途半端は嫌いだから」

 目を輝かせ弓原を見詰めたが、すぐにそっぽを向かれてしまう。

「その気持ちを聞けて嬉しいぞ、俺は。これなら千なんてあっという間に越える!!」
「どうだか……」

 そして俺はそのまま動画投稿サイトに登録し、さっそく投稿。タイトルは可愛い後輩が元気付けてくれるそうです、だ。
 とても短い動画……というかボイスだが。
 今から楽しみだ。



・・・・・・・・・・



「弓原!!」
「朝は静かにして……」

 相変わらず俺達の登校は早かった。そのため、今は教室に誰もいない。だからこそ、大声を上げてもまったく問題はない。
 いつものようにマスクをして、うつぶせになっていた弓原に俺はスマフォを突きつける。

「これ! これを見てくれ!!」
「……え?」

 さすがの弓原も驚いているようだ。それもそのはずだ。あの動画を投稿してから翌日。俺が朝起きてさっそくどれだけ再生されているか確かめたんだ。
 いきなり百は超えないだろう。
 そう思っていた。しかし、蓋を開けてみれば!

「再生回数……百五十!!」
「まだ丸一日も経ってないのに……」

 大体、初めて動画を投稿する時って苦労すると思うんだ。小説もそうだ。まあ、小説はある程度人気のある設定を詰め込めば回覧数は稼げる。
 だが、動画はそうもいかない。
 色々と動画サイトを探してみたが、再生回数が一桁のものなんてかなりあった。それも、初めて投稿している者達だけではなく、何回も投稿している人達も結構含まれていた。
 だからこそ、いきなり百五十再生はすごいと言ってもいいだろう。しかも、一分も満たないボイスだけの動画が、だ。

「それだけ、お前の声がすごいってことだよ! しかも見ろ! コメントまであるぜ!!」
「こ、コメント? わ、悪口とかじゃ……」
「違う違う。まずは……これだ。すごく可愛いお声ですね。それに演技力も半端ないです! もしかして声優さんですか? だってさ!」
「……」

 どう反応していいのかわからず、硬直している弓原。
 そんな彼女に、俺はまだまだコメントを読み上げていく。

「仕事で失敗していて、元気がなかったんですが。あなたの声を聴いて元気が湧いてきました。できれば、これからも動画を投稿して頂けませんか? だってよ!」
「うぅ……」

 お? 今度は、恥ずかしくなって視線を逸らした。まあ、ここまでにしておこう。もうちょっとコメントがあったんだけど……あまり、読み上げると弓原が恥ずかしさで悶え死んでしまうかもしれないからな。スマフォをポケットにしまって、俺は自分の席に座る。

「な? お前の声はすごいだろ?」
「で、でも。今は、良い人達だけでも、後になってきもいとか言われるだろうし……」

 もっともな意見だ。
 確かに、動画や小説を投稿するにあたってこういういいコメントばかりがあるわけじゃない。指摘から悪口。時には死ねだのなんだのと暴言を吐く者達も出てくる。
 俺もそうだったからな。
 最初は人気を出そうと、その小説投稿サイトで人気な設定ばかりを詰め込んだ小説を投稿して、よくただ詰め込んだで中身がないだの、パクリですか? なんて疑われたりもしたっけなぁ。
 ま、それでも俺はめげずに小説を投稿し続けた。
 最初はどうあれ、今の俺は自分の考えた小説を投稿して、たくさんの人達によかった、面白かった。また続きが見たいです、と言われている。

「だけどな、弓原。お前は、自分の声が誰にも受け入れられないって思っていただろ?」
「……うん」
「だけど、ほら! 受け入れてくれる人達がいるじゃないか! 確かに、全員がお前の声を受け入れてはくれないと思うけど。少なくとも! 俺が! そして、この動画を再生してコメントをくれた人達が! お前の声を受け入れてくれている!!」

 それに、世の中には弓原と同じようなアニメ声を持っている人達がたくさんいる。そんな人達は、今では声優という職業について、声で皆に幸せや元気を送っている。 
 だから……。

「弓原。もう一度……お前の声を聴きたい」
「…………はあ。しょうがないなぁ」

 俺の真っ直ぐな目と真剣な言葉に、弓原はゆっくりとマスクを外し、小さく笑った。

「ありがとう。しつこい変態さん」
「おう!!」

 ははは……まあ、当然だな。変態って言われるのは。だけど……最高にいい声だ。
人気があれば連載とかも……うーん。でも、まだ投稿している小説はあるしそっちを完結させてから……むむむ。

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