イギリスEU離脱、その後のまとめ的な何か
さて。
イギリスが国民投票でEU離脱を選択してから数日経過しました。
イ ギ リ ス の 株 価 が 回 復 し て る ん で す け ど ?
イギリスの経済力は強く、難民問題という不安要素を排除できるという事で、国際的な信頼を勝ち得たという事ですね。
逆にEU諸国の株価は下がったまま。多少回復の兆しはありますが、兆しがあるだけです。イギリスのように1週間で回復したわけではありません。
つまり、
「EUから離脱したイギリスの判断は(大きく)間違っていなかった」
「イギリスに逃げられたEUは間違った判断をし続けている」
と評価されているわけですね。投資家からは。
これだけでイギリスが間違っていなかったとみるのは早計ですが、結論は「イギリスの判断は間違っていなかった」というものです。
それらの理由について、順番に説明していきます。
・ イギリス対EU、感情論で喋っているのはどっち?
EU側は、イギリスに裏切られたことで冷静さを失いました。
これを端的に表すのがルクセンブルクのユンカー(ユンケル)欧州委員会委員長の発言の数々。「イギリスは28日までにEU離脱の願書を出せ」、イギリスの独立党(EU離脱を推進していた人達)の議員に対して「英国民はEU離脱を宣言した。なのになぜここにいるんだ」といった発言をして、話し合おうとしていない。
簡単に行ってしまえば「さっさと出て行け、この裏切り者」と言っているわけです。
イギリスによるEU離脱はEU始まって以来の、前例が無い話であるのにもかかわらず、ろくに議論もしたくないのですよ。これを感情的と言わず、何を感情的というべきでしょうか?
「イギリスによるEU離脱申請が行われるまで公式・非公式を問わず交渉は行わない」とドイツ・フランス・イタリアの3国が厳しい姿勢を見せていることからも、「話し合ってどうにかしよう」などと理性的な行動をとる気が彼らには無いのです。
当たり前ですが感情論で動く政治家に不信を抱くのは珍しい事ではありません。理性で実益を選べる政治家の方が信用されるのです。
現状、EUはイギリスよりも信用がありません。
・ イギリス国民は国民投票に納得している
イギリス国民は感情論だけで動いたのでしょうか?
いいえ、そうではありません。彼らはちゃんと、理性で動いています。ですから国民の大半はあの投票に納得しているのです。
一部メディアでは再投票を求める声が集まり、400万近い署名が集まったと報じています。これを聞いた人は「一度は離脱を選んだんだけど、やっぱり後悔しているんだ」と勘違いしたかもしれません。
が、キャメロン首相は「再投票は無い」と宣言していますし、そもそも「再投票を望んでいるのは一部の人たちだけ」なんですよね。
イギリスの人口は6410万人。そのうち、EU残留を望んだ有権者の数は1600万票以上ありました。
そのうちの400万人が望んでいます?
本当に覆せると思っていますか?
400万というのは、「少なすぎる」のです。
つまり、EU残留を望みながらも、離脱が決まったことに多くの人は「納得している」という、分かりやすい結論なのですよ、これ。
ちなみに離脱に投票したのは1700万票以上。
EU残留を目指すならこれを覆すところからスタートしなきゃいけませんが、何か不明点はありますか?
せめて半分の800万人分の署名を集めていれば、まだ再投票をする意味が……たぶんありませんけどね。結果は変わらないでしょうから。
・ EUはイギリスを切り捨て、排除できるか?
できません。
イギリスはEU抜きにしても強国であり、ユーロよりもポンドを選んでいたことから、元よりイギリス独自の経済能力、民主主義的経済圏を勝ち得ていたのです。
ですからEU離脱による被害は最小限であり、あまり弱体化していません。
以前のエッセイで私は「EU離脱は経済的に見て最悪の一手」と書きましたが、実はそんな事は無かったと、7月2日までに理解させられました。
新しくまとめられた情報をみてきましたが、対EU企業はイギリス企業の6%しかなく、逆にEUの経済圏から離脱してもあまり関係の無い企業が94%だといいます。実際には6%よりも多い気もしますが、それでも10%を超えないでしょう。
それにEU法で規制されているいくつもの事例は馬鹿げていて、守るべきではないとする動きも根強く存在しますし、そういった企業の業績が伸びる事も予想されます。
例えば、車の事故を減らすような窓の形を考案した車メーカーに「EU法でアウト」と突きつけるなど、「交通事故を減らすよりEU法を守る方が大事」とのたまう話もありまして。私などは交通事故を減らす手法があるなら前向きに検討すべきだと思うのですけど。
そうやって独自の経済圏を持つイギリスには多くの選択肢が存在し、例えばアメリカ側の経済圏(NAFTA)に加わるといった選択肢も出てきました。イギリスというマーケットを見た場合、これは不可能な話ではありません。
これはEUに残留してはできなかったことで、EU離脱が新たな道を照らしているという事例の一つです。
ポンド下落は海外観光客の呼び水となり、中国観光客が「円高の日本よりも今はイギリス」と殺到しているという話も聞きますし、イギリスの未来が暗いという話はあまり聞きません。
ここまでイギリスの経済的な強さを説明してみましたが、そんなイギリスを排除して、EUに何が残るか。
デメリットだけが残ります。
懲罰的関税でイギリスにデメリットを与えようとした場合、報復的関税で「EUはイギリスより多くの損失を被る」事になります。
イギリスはEUに対し1000億ポンドの貿易赤字を出しており、EUに関税を掛けられてもそこまで痛くないんですよね。
かといってイギリスに物を売らないという選択肢は無く、ドイツの車メーカーは「イギリスは最も重要なマーケットの一つ」としていますので、そこから手を引くことは「ドイツ車業界への大打撃になる」訳です。
これは他の分野にも言える事で、結局「イギリスを無視できない」のがEUという訳です。
締め出すことはできず、過度の関税をかける事もできない。下手なことをすればイギリスがヨーロッパ圏から飛び出してしまい、将来的により多くの損失を出してしまう。
難民問題は未だ解決せず、ドイツなどが主導するトルコのEU加盟は新たな火種としてくすぶり続け、ドイツに次ぐEU拠出金を払っていたイギリスが抜けたことで経済的にもピンチ。
これがイギリスとEUの関係です。
イギリスが離脱したことでEUにメリットがあるという方がいましたら、何か感想欄に書いていただけると嬉しいです。私はデメリットしか考えつきませんでした。
・ 未来予想
結局、EUという組織そのものが腐敗したのが今回の騒動の結果を招いたようです。
EU法を諸国に押し付け、自分たちがヨーロッパ全土を支配していると勘違いしてしまった。
各国独自の判断を許さず、国を下に見て横暴に振る舞ってきたツケが支払われただけなのです。
泥船から脱出したイギリスはむしろ「勇気ある最初の一歩」を踏み出した紳士であり、後に続く国の前例になりました。
イギリスがEU離脱後も元気なことから、「離脱したいけどEUから締め出されるのは怖い」という国に勇気を与えるでしょう。イギリスとは前提が違う事も考えずに。
今後もEU離脱を考える国が増え、EUは崩壊するでしょう。
そしてEUを悪例として、EUとは違う新たな枠組みが誕生する。
もしかしたら、その盟主はイギリスなのかもしれません。
イギリスのEU離脱は、イギリスの一人勝ちなのです。
……日本は大打撃を受けましたけどね!(円高で)