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07◇X01夜闇降臨1

☆☆☆


 いくらシーリンでも夜闇さまとの対面は荷が重い。

 うわあ……とシーリンは思った。


「うわあ…」


 声にも出た。


 当たり前だが、シーリンは心理障壁など上手に立てる事は出来ない。

 自慢では無いが、根っから怠け者故に、修行を全部サボったからだ。


 だから「うわあ」には色々な意味が含まれるが、その色々はガラス張りで夜闇神の視線に晒された。

 当然、その「晒されるなあ?」と知るからこその「うわあ」でもある。


 相手が夜闇の最高神セルストであると気付いたシーリンは、ズルッと身体が傾いだ。

 言葉にするなら「なんじゃそりゃ!?」であり「勘弁してくれ……」であり……端的に云うならば、「迷惑だ面倒だ怖いよ嫌だよ助けてよう」………と、なる。


「うわあ…」

『…………』


 すべてを晒して、シーリンは何も出来ない。と云うより、しない。

 成るようになれ。それもまた「うわあ」に含まれる。

 逃げたり謝ったりして助かると決まっているなら、それはもう頑張ってみるかも知れないが。それは無駄だよな?とシーリンは思う。

 普通に自分は信仰心がある「ツモリ」である。その信仰心と、自分が感じた「迷惑」や「面倒」は、どの程度の割合だろうか。そんな事を考えつつ、ソファーからずり落ちかけた身体を、ソファーの上に連れ戻して、神妙に沙汰を待った。


――死ぬかなあ。


 と、心を掠めた思いも、当たり前にガラス張りだろう。


 そして。

 夜闇さまはクックッと、それはもう愉しそうに、お笑いになったのだ。


――どっち?それ?


 これは助かったのか。

 それとも死刑宣告なのか。

 やはりガラス張りに不安と希望に揺れる心を晒した。




 その日。


 シーリンは死と隣り合わせの恐怖を知った。




☆☆☆


 シーリンは初めて創世の神に対面した。

 地球に来てから初対面が到来するのも不思議な感じである。

 神と謂えど、地球は不可侵の筈だった。

 とは云え、地球人である妻をシーリンに与えたのも神だから、そんな決まり事を云っても始まらないのだろう。




 シーリンはエリジュアスでは王族だった。フライサと云う星の、結構な歴史ある国の王だった。

 仕事は兄と引退した筈の父親がしていたが。

 玉座に座っていたのは確かだ。まあ座っていただけだなんだが。

 神々のお気に入りとして、怠惰と自堕落を許され、他国からも寄進がガッポリ、悠々自適な毎日であった。


 而して地球の奥さんを貰い、奥さんが地球で暮らしたいと云うから、シーリンは総てを捨ててやって来たのだ。この地球に………!!

 なんて堅苦しい感じでは勿論無かった。

 何故ならシーリンだからである。


「ああ。まあ、じゃあ行こうか?」


 くらいのノンビリ具合であった。

 奥さんが、他の妻なんか認めない!私だけのモノにならないと許さない!とエキサイトした時も。


「うん。なら、そうしよう。」


 と、実に呑気な口調であった。

 声も言葉も眼差しも。のほほんとして緊張感など何処にも無かった。

 奥さんは疑い深く「嘘だったら殺す!」と、実に物騒だったがシーリンは穏やかに笑って頷いた。

 別に嘘では無いから問題無かったのである。


 地球でのシーリンは庶民でしかない。何と、奥さんはそんなシーリンを養ってくれようとした。それも楽しいかもなあ、などとシーリンは考えた。

 地球への不可侵は、ある意味では絶対の掟だが、ユルユルの掟でもある。

 基本的に、ごく『普通』の原住民には干渉不可で有る。つまり、ノーマルタイプ以外の住民なら良い訳だ。

 エリジュアスの大使も地球には幾人か在住しているし、この日本にも存在する。そして、接触や取引が許された地球の住民も存在する。


 その一族は国も動かせる存在だから、例えばシーリンに国籍だの住民票だのを与える事も簡単で有る。

 シーリンは、適当な国の貴族の末裔であるお坊っちゃんと日本人留学生の、駆け落ちカップルから産まれた混血児と云う事にされた。


 何故そんな設定?

 別にアメリカ辺りのビジネスマンが日本に出向中に仲良くなった女性と……とか何とかの方が話が早いと思ったシーリンは、一応ある程度地球の常識を身に付けている。

 ある程度、でしか無いとも云うが。

 何にしろシーリンの疑問及び提案は


「財力も雰囲気も………一般人では無いので。」


 と、あっさり却下されたのである。

 はて?とシーリンは首を傾げた。

 セリカ皇家は貧乏……いやいや、富裕とは云えなかったから、王個人の蓄財などその多寡は知れているからである。

 しかし、王の蓄財には違いない。皇族としては些少でも、庶民とはレベルが違う。

 そして、皇族の中でもシーリンは、相当浮世離れしたタイプであった。


「財力あるの?」


 そんなシーリンは、生温い眼差しと微笑みを向けられ、それなりの住まいその他の案内や世話を受けた。

 財貨の一部を報酬として、また地球の貨幣とする為に幾らかは売却もしたが、その仲介もまた、その一族である。


「この時代はまだ裏で暗躍中だっけ?」


 本来この地球は過去だから、世界が違うとは云え、シーリンは未来人とも云える。

 しかし、そんな事を知っても動じない一族は笑って応じた。


「暗躍だなどと。我らはひっそりと静かな生活をしているだけですよ。」

「………」


 その一族の遣いの人間?は、一族に相応しい美貌と能力を有していたが、自分はシーリンほど人間離れしていないと云う。

 シーリンの場合は、その能力と人格に齟齬が有ると云うべきだろう。

 寧ろ、多少怠け者過ぎる嫌いは有るが、あまりにも普通過ぎて、却って違和感頻りなのである。

 やる気が無さ全開で、勿論能力の活用などは基本的にしないから、本当にチカラが有るのか怪しいとさえ云える。実際に「視る」人が「視れ」ば、確実に大した人間だと判るから、シーリンの異質さは付き合いが深くなればなる程強く感じられるものだった。


 それなりの屋敷はそれなりに気に入った。奥さんの趣味にも合うなら此処で良いかな?と住まいを決めた。

 奥さんは気に入ったと頷きつつ、虚ろな眼差しをしていた。


「色々あって疲れてるのかな。」


 呟いたが、もしかしたら自分の所為かも知れないとも、シーリンは思った。

 お前と付き合うと疲れる………と告げる兄たちの眼差しに少し似ていたからだ。


「まあ良いけど。」


 と放念したのは、本当に嫌だったり問題が有るなら、黙っている奥さんでは無いと知るからである。

 短い付き合いでしかないが、奥さんが乱暴者で烈しい女性だと云う事くらいは理解している。

 決して云いたい事を我慢する女性では無かった。


 故に、その屋敷に、居を定めたのだが。


 知っていたら、どうだっただろうか?

 その未来を知っていてさえ、シーリンは呑気に頷き決めただろうか?




 最高神が顕現すると知って、なお、この屋敷をシーリンは購入しただろうか?



☆☆☆




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