06◇媛?2◇地球でも結婚しますか?
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結婚てタイミングだと思いませんか?まあ私の場合は寝てる間に、いつの間にかしてたので参考にはなりませんが。
というか、私は何故それを受け入れたのでしょうか?
あの日。
いま私は、あの日の夜に居ます。
空を見上げても、月はひとつしか有りません。明日の朝には太陽が昇るでしょう。
「………。」
物珍しげに周囲を見回す夫は、地球上には有り得ない色彩を隠し、眸と髪の毛を普通の焦げ茶色に染めました。染めたと云うより、魔法で「変化」させたように見えます。
此処は、私のよく知る世界です。私は、この人を拒否して、日常に戻る選択肢が有るのでは無いでしょうか?
ふと目が合いました。夫は倖せそうに笑います。………何故でしょう。夫は確実に私を好きですね?私はずっと眠っていたから、つい最近まで話した事も無いですよ。
意識の無い相手に惚れるって…………ちょっと気持ち悪いんですが。
しかし、どうしても嫌悪感が湧きません。それどころか惹かれます。
奇妙なまでに心が牽引されます。もはや力業ですよ。ガッツリ引っ張られてますよ。
「………。」
そして、多分。夫も同じなんだと思います。私としては「今夜」帰宅途中に、月を見上げた。
その「瞬間」は記憶に新しい。その後、あの世界で神様が夫に私を与え、妻にしろと命令したと云う。
私はそんな時間を一切知らない。私が知るのは、一週間前に目覚めてから、遠慮せず暴力を奮っても、避けもせず怒りもせずに受け止める、少しへたれな夫だけだ。
「………。」
しかし。私はやはり此の世界で暮らしたい。そうすると、今は一見まともそうな格好をしていても、この人はヒモだよね?少なくとも就職は無理な気がします。
「………」
一週間の夜。
いいや。現時点では「今夜」。先ほど、と云うべきだろうか?私はプロポーズを断りました。
何で断ったのかな?結婚したら私が当たり前に仕事を辞めると思われてたから?それとも、あいつが浮気してるからかな?
あの日、そんな事を考え乍ら、私は夜空の月を見上げたのです。
「………」
見つめると、夫が首を傾げました。
この人は、あのロクデナシよりずっと誠実そうに見えます。けれど、王様だからなのか、あの世界の常識なのか………私以外にも奥さんが居ます。
「………」
私はそういうのは許せないんですよ。やはり無理なんですよ。
何故だが、と云いましたが、そんなのは決まってますよね?
神様の所為ですよね?
神様が何やらしてくれちゃったから、普通なら変態でも何でも無さそうな夫が、眠りこけた女に惚れちゃったんだし、私も、眠ってる間に何してくれてんだ?と思いつつも、夫に惹かれて止まないのでしょう。
「……やっぱり無理だと思いませんか?」
「………」
絞り出すように、私は云いました。やっぱり無理ですよ。文字通り世界違いますしね。
それとも、此方の世界で暮らしてくれますか?
無職ですか。ヒモですか。いや。我慢しますよ。稼いで見せますよ。
でも「奥さん達」はどうするんですか?
そう。
ああもう。云い訳ですよね。他の事なんかこの際どうでも良いですよ。
私は、アナタヲ独占したいです。
私だけのモノにしたいんですよ。
「なら、そうしよう。」
倖せそうに笑って、王様の癖に、夫は呑気に請け負いました。
「……後で嘘だとか云ったら殺すから!」
「いいよ。嘘では無いから平気。」
有り得ないでしょう?
それってどうなんですかね?色々葛藤とか無いんですか?生活どうするんですか?まあ私が養いますが、女に養われる事になりますが、それに抵抗も無いんですか?
「ああ……と。別にそれでも良いけど。戸籍や仕事は一応何とかなるよ?」
「………何で?」
割と、異世界人口は地球にも多かったようだと知りました。ビックリですね。
思ったより葛藤少ないだろうとは思いますが、別に良いですよ。総てを捨てて欲しい訳でも有りません。
ただ。
私以外の女性との「縁」だけは捨てて下さいね?
もしも。
その誓いを破るなら、私は本当に何をするか解りませんからね?
「………君が生きている限り、君だけを愛すると誓うよ。」
少し、怯みましたね?私は見逃しませんでした。でもまあ、見ない振りをしてあげますよ。
浮気さえしないなら、私は煩い事も云わないし、良い奥さんになれると思いますよ?
ただ。
私に「今夜」プロポーズを断られた彼氏はどうしたもんかな、と思います。
私は二股かけてたと云われるんですかね?
まあ、お互い様と云う事で許して貰いましょうかね。
「取り敢えず、住まいどうする?」
私は親元で暮らしてるから連れては帰れません。
しかし、異世界移住の世話役やマニュアルは、割と充実してました。
ビックリする程の異世界美形が迎えに来て、普通にセキュリティ完備のマンションに案内されました。
「急な事で用意が整いませんで、手狭で申し訳ありません。」
手狭ですか?そうですか。夫は「構わないよ」等と応じています。
へえ手狭なんですね?
手狭なこの部屋は20畳以上のLDKを中心に八畳八畳六畳の3LDKですよ。お風呂も広め……いや手狭なんでしょうね。
ええ。
アナタタチニハネ。
そう云えば夫は王様でしたね。
そう云う訳で、私は何食わぬ顔で日常に戻りました。
そして、恋人と別れて、夫をコチラでも夫とする為に、結婚したのです。
うん。
恋人と別れるのが一番面倒でしたね。ウザイわアイツ。
今回得た教訓が有ります。
社内恋愛は止めましょう。
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