17◇番外編1◇シーリンの趣味
シーリン日常の小話?です。
あ、私は北斎の風景画も好きですよ。
しかし、囲碁だの浮世絵だの……私のマイナー路線は修正が利かない気がします。
どうしたもんかな(-.-;)
☆☆☆
シーリンに趣味が有るとするならば、その日までは『退屈』がソレに当たるモノだったかも知れない。
何をするでもない暇な時間。怠惰で贅沢な時間の使い方。
退屈を愛でるかの様な、のんびりとした暮らしをシーリンは愛していた。
そんなシーリンに人並みの趣味が出来たのは、全くの偶然である。
たまたま点けっぱなしだった番組に、その映像が流れたのが切っ掛けだった。
「あれ?」
とシーリンは思った。
何やら心が惹かれた。
それは一枚の浮世絵だった。
直ぐに、その映像は他のものに切り替わった。
常のシーリンならば、じきに忘れた筈だった。
ほんの少し惹かれはしたが、特に執着を示す程では無い。………筈だったのだが。
シーリンは不意に思い出す。
綺麗な色彩。
その女性の眼差し。
浮世絵と聞いて、連想するのはどんな絵だろうか?
風景画?春画?役者絵?
シーリンが惹かれた浮世絵の作者は、葛飾北斎だった。有名どころである。しかし、シーリンの脳裏に映るその絵は風景画では無かった。
美人画である。
その短い番組の中では、美人画の大家も紹介されていた。
歌麿、春信、清長、親信、清親……絢爛たる時代の流れと、様々な絵師の様々な美人画が紹介されたのだ。
その中で、北斎の美人画が特に長く映された訳では無い。強く語られた訳でも無い。
その番組の中では、北斎は完璧に脇役だった。
シーリンはしかし、その北斎の美人画に魅了された。
肉筆画の艶やかな色彩に、心奪われたのである。
「ある意味、外国人らしい趣味ね。シノワズリを気取るなら、お茶やお花も身に付けてみたら?」
眠り姫が呆れて云ったのは、シーリンが聖野一族を介して、浮世絵蒐集に走り出した後だった。
北斎の浮世絵が欲しいと云われれば、普通は風景画を用意する。
シーリンは斜め上を行く嗜好で、地球を影から支配する一族を翻弄した。
「それは別にどうでも良いかな。まあ持って来たなら貰うけど……。」
微妙な反応に、シーリンが求める浮世絵が何で有るかを、やっと知ることが出来た一族だった。
最初から云えよ……と思ったとしてもオカシクは無かっただろう。
しかしシーリンは北斎の風景画も気に入った。
ウキウキと飾ったが、完全な洋館には微かな違和感を与えた。
洗練された文化を誇るセリカの皇族が、そんな違和感を見逃せる訳も無い。
調度品、壁紙、屋敷の雰囲気から何から何まで見直しが為され、和洋の美しい融合が目指された。
もちろん。
目指したのはシーリンに付いて来た侍従達であり、シーリン自身ではあり得なかった。
シーリンは珍しく、きちんと自ら「命じる」と云う仕事をしただけである。
そんな些細な「仕事」すら滅多にしない。
それがシーリンなのである。
皮肉を込めて、妻たる眠り姫が口にしたシノワズリと云う言葉は、日本人ならば中国趣味と受け止めるだろうが、シーリンは素直に東洋趣味と受け取った。
異世界から来たシーリンは、ある意味で勘違いな西洋人と同じ人種だった。
そして、やはり地球趣味と呼ぶよりは、東洋趣味に走っていた事は否めないだろう。
特に深く考えて発言した訳では無かったが、シーリンの妻は的確な表現を用いたのである。
当初はギリシャのイメージが垣間見えた館は、東洋と西洋と現代と古代が融合した、不可思議だが上品な屋敷になった。
流石は文化の発祥地とも謡われた、セリカの皇族の屋敷である。
この地球では知られる事のない事実の為、聖野一族プロデュースの「流石はオーストリア貴族の末裔」の屋敷、となるのだろうか。
何にせよ一般人の屋敷では有り得ず、聖野一族は自分たちの先見の明を自負する結果となった。
一般の育ちである眠り姫は、また屋敷に帰る足取りが重く遠退いたが、シーリンが彼女の理解者となる事は無かった。
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