16◇☆02◇香苗2◇呪いに捕まった
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しかし。
うちの会社は呪われてるのかな?
私は高卒で此の会社に入社したから、かれこれ6年になる。
当時、総務部の部長は女性だった。
仕事は出来るけど、男癖が悪くて、部下に手を出すのは非常に宜しく無かったと思うな。
部長ご自身が反省して、目撃してしまった私に、つい勢いで……と愚痴って落ち込んでいた。
入社してすぐのハプニングだった。
2ヶ月しか、一緒に居られなかったけど、私は部長が大好きだった。
さて。
6年後の今日。
現在の総務部部長は男性である。
淫乱な男好きと呼ばれても平然と笑い飛ばした、あの部長と同じくらい豪快な面がある。
私はこの部長も大好きだが………如何せん、この部長もハードな噂が流れる御仁だ。
しかも……前の部長と同じ類いの噂。
男なのに淫乱な男好きって………と思っていた。
前部長のお墨付きとは云え、新卒でイキナリ経理責任者任せられて。
6年経たずに部長である。そりゃ嫉妬による噂も立つだろう。
営業二課の課長とか。
かなり根強い噂がある。
で。
総務部で。そう云う事になってるのは。
その噂相手では無くて。
主任だった。
この会社。
呪われてるのかな。いや……二度に渡って目撃した私が呪われてんのか?
結局。二人が帰るまで。私は更衣室に戻って、悩んでいた。
一応営業が誰か戻って来るみたいだし。
その時、帰らせて貰おう………でも、後で残ってたのバレたらバレる?
じゃあ、部長か主任のどちらかに連絡して、誰にも云わないからと告げて…………それ、下手したら脅迫と間違われる。
悩んでたら、誰かが帰社した気配がして、もう良いやと更衣室を出た。
「み……っ……」
見てませんなどと云うなら、それは見てましたって事になる。
しかし、言葉に詰まっても問題だ。
部長は困ったように小さく笑った。
「悪いね。忘れて。」
「はい………すみません。」
「いや。会社でってのが悪い。しかも部下ってのが最悪だ。」
「ああ、自覚はお有りなんですね。」
「………まあね。取り敢えず無かった事にしてくれると、非常に有難い。」
気まずそうに云われ、私は了承した。
「私からも。今後は会社ではしないで下さると嬉しいです。」
「………そうだね。」
私は総務部の自席から、携帯を回収して、部長と一緒に裏口から出た。 総務部側のドアは施錠されて、シャッターも下りている。
「お疲れさまでした。」
「お疲れ。」
私と殆ど年も変わらない癖に、何だか色々経験豊富そうな部長は、いつも通りの態度である。
主任だったら………こうはイカナイだろうなあ。
年齢は部長が下だが、やはり役者が違うと云うべきか。
部下に押し倒されてるところを、別の部下に見られても平然としてるのが凄いと思った。つまり部長にとって、これは恥ずかしい事では無いと云う事だろう。
ゆっくりと、駅に向かって歩き初めてすぐに、アイツの姿が見えた。
「アマノは反対側だ。」
「メールしたでしょ。」
私たちは睨み合った。
部長。
やっぱり会社でしたら駄目ですよ。
待ち伏せ食らったの、部長の所為にして良いですか?
内心で、既に帰宅した上司に訴えては見たが。
部長の所為に出来ても、何のプラスも無いのは確かだ。
「とにかく顔貸せ。ちゃんと説明して貰おうか。」
「だから。メールしたじゃないのさ。一昨日別れた後で初めて逢ったんだもん。」
「はあ?ふざけんなっ!」
生憎ふざけて無い。これがマタ事実なんだよね。眠ってた以外は。
「一目惚れよ。悪い?すぐにプロポーズされて、昨日親に会わせて、今朝入籍したわよ。」
「………マジかよ。おま……だって。」
私が嘘を云って無いと気付いたらしい。
うん。付き合い長いからね。私たちは相手の手の内を知りすぎていて、絶対に相手の嘘に騙されないんだ。
「でも。お前、俺の事……好きだったじゃねえか。」
「だから、簡単に縒りを戻せると高をくくってた?」
「………」
図星の様だ。
まあ、その見立ては誤りでは無い。
私が、夫に出逢いさえしなければ。眠り続ける間に、魔法に掛からなければ。
私はまだ、あなたに振り回されていた。
「彼に逢わなければ、あなたの事、マダ好きだったかもね。」
そう云って笑った。
茫然と見つめられた。
もう好きでは無いと云う言葉が、強がりでも何でも無いと、気付いた様だった。
実際。
何でこんなに。
あなたが色褪せたのかしら?
あなたに対する気持ちも、あなたに感じた魅力も、全然………欠片も感じない。
恋の魔法にかかって以来、私は夫以外どうでも良いとさえ思いかねない状態だ。
一昨日まで……私の体感では十日前まで。
私は確かに、この男を愛していた。
なのに、今は全く心が動かない。
つまらない男にしか、見えない。
部長は、其れなりに魅力的に見えたのに、こいつには全く感じないのは何故かしら?
「どんな……ヤツだよ。」
「知らない。」
「は?」
「逢ったばかりだもの。知る訳ないじゃない。優しい人よ。それくらい。仕事もしてるかどうかも知らないわよ………つうか、多分してないわよ。」
「な………。」
まくし立ててやった。まあ、これも事実だ。しかし無職だろう……あの人。財産あっても。と、云う事で、最後の言葉だけ訂正した。
つまらない嘘は、破綻の元だからだ。
アイツはブルブルと肩を震わせた。
「ふざけんな!仕事もしてないだと!?」
「だから何?別に最初は私が養うくらいに決意したから良いのよ。」
「おまっ!………最初は?」
「……………何か金持ちで。」
金目当てみたいに思われるのは嫌だが、これ以外にどう云えば良いのだろう。
思わず、目を逸らせてしまった。
「………認めないからな。」
「は?」
「絶対俺は認めない。そもそも俺は、まだ別れ話も認めてない。」
「……いや。あんたが認めなくても別れてるから。」
「邪魔してやる。」
「………ちょっと?」
何だか据わった目付きに怯んだ。
アイツは静かに冷えた声で、宣言するように告げて帰って行った。
「どうやって邪魔するんだ?」
取り残されて、私は呟いた
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