13◇X07夜闇降臨4
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夜闇神が、シーリン個人に興味を持ったのは、多分つい先程の話である。
ずっと、己の愛し子と呼ばれていたのは、知っている。
実際に、大切に、管理していた。
リア・リルーラが欲しがっている、トウゼ王を誕生させる為の材料だと思っていた。
トウゼ王が生まれる為に、一番確率が高いのが、シーリンと眠り媛からの誕生だった。
原初の神々までは、先ず間違いなく生まれる。その自我も魂魄も、余り大差は無い。
記憶を抱えた、セルストばかりが惑い………時に正反対の『道筋』に誘うが。
それは月神最高神でさえ、有り得ない事だった。
普通は、同じく目覚め、同じく見つめ、同じく語りて、同じく為す筈なのである。
セルスト神は時を内包した闇でも有る。
時闇に勝つは時軸の神のみ。
冥王だ。
しかし冥王は必ずセルスト神よりも後に生まれる。
セルストがリルーラに生み出される瞬間に干渉出来ない様に………冥王がセルストに生み出される瞬間には干渉は赦されない。
ならば。
イマサラ………と。
冥王が思っても仕方なかっただろう。
既に。
冥王が生まれる時には決まっている。
少なくとも。
リア・リルーラとセルスト神が生まれ、冥王より強い。
その場に存在する、もう一柱のみは、冥王にも滅する事が出来る可能性を秘めていたが。
それはそれで…………創世を『実行』する神が纏う『力』が、冥王を滅ぼす可能性でもあった。
故にこそ冥王は、最初はトキメキさえしたのだ。
それが『賭』に見えた時には、と云うべきか。
実際には、その創世創造の『力』の『塊』は。
器が壊れると共に、リルーラとセルストに分散されて吸収される。
ニヤニヤと、セルストが教えたから。
冥王は。
妄想を抱いた次の瞬間には。
諦め『いつも』のパターンに流されたのだ………。
ある意味。
それは。
冥王がセルスト神と同じように、創世の記憶を持つと、白状したも同然の出来事だった。
大神辺りまでは、実際同じ映像が幾つも繰り返す。
たまに。
些少のズレを見せても。
後暫くの神々までは。
そうそう揺らいだりはしない。
だが。
たった一度でも。
違う『声』をセルスト神は聴いて。
気付いた。
気付かれた事を、冥王も知っている。
だが。
セルスト神の『代行者』は何もしない。
だから無論。
冥王の『代行者』も。
何もしない。
冥界の小さな妖物達は、小者故に有り得ない揺らぎを見せたりもする。
特に『今回』は。
冥王が忘却の川に流される等と云う、セルスト神をして愕然とする出来事が発生した。
冥王はもしかしたら『次』の時には、弱体化を演じないかも知れないとさえ、想像した。
セルスト神では有るまいに、そこまで違う行動を選択したりはしないだろうけれど。
想像すると、楽しめた。
上位神に『相違』を見つけるのは、ある意味では有り得ないだけに、大層愉しい遊戯である。
通常は変化など有る訳も無いから、セルスト神は寧ろ上位の神を視る価値を認めない。
リア・リルーラは例外としても。
そして。
今や冥王も例外だったが。
そう考えるならば。
シーリンは、セルスト神から見ればちっぽけな存在である。
故に見る価値も有ると云える。
だが。
高々下級の神に列なる予定の『人間』が、夜闇を楽しませる事など出来よう筈も無い。
少なくとも。
セルスト神が『視る』価値を与える小さなモノ達は、通常遠くから眺めるべき『事象』だった。
セルスト神を前にすれば下手をしたら発狂するか、狂わないまでにも『オモシロイ』反応などしてくれる筈が無かったからである。
トウゼ王が生まれる可能性が一番高い皇族。
シーリン。
この辺りの存在になると『以前』と『現在』が、全く違う人物になる可能性も高くなる。
トウゼ王やシーリン自身は『同じ』程度の存在を保つが、親や兄弟が違ったりするのだ。
だから。
シーリンの存在は知らないでは無かったが、そう云えば『身近』で『視た』事は無いと考えたセルスト神だった。
繰り返す『神話』。
その『創造』と『日常』。
神話さえも何度も繰り返し、並列した世界も全て『記憶』に納めて。
リルーラとセルストと冥王は、主月神さえ割り込めない孤独と永遠を知る。
冥王の存在は、神話には描かれない。
それはセルスト神の『代行者』だからだ。夜闇の黄泉神。セルストが消えたなら『次』に『蛇』としてリルーラを誘惑するのは冥王の役目になるのだ。
神話は当たり前に語る筈だった。
夜闇の最高神。冥王黄泉………と。
故にか。
無意識にか。
黄泉の名を、夜闇の配下達は存在せぬかの扱いを………する。
リア・リルーラにも。
主月神シエンにも。
代行者は存在しない。
創世の神の内。
セルスト神のみ『スペア』が在るのは何故なのか。
それは。
誰も知らない。
ただ。
冥王を生んだのはセルスト神。
それだけは『現在』のところは『いつ』でも変わらない『事実』だった。
シーリンは発狂しなかった。
シーリン自身は知らないが、後年神に列せられる存在でもある。
流石に狂う筈は無いと思ってはいた。
ただ、何となく、顔を『視て』みようと、そう考えただけだった。
たまたま。
そこに。
シャランのトウゼ王即位を、報せる『お遣い』の担当者が居たから。
自らに行こう……と、気紛れを起こした。
目的は無かったが。
シーリンにとっては、目的が有った方がマシだったろう。
ただ単に。
目的も無く気に入られたならば。
其処から逃げる術は無いと云う事だった。
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