その1
「私って、何なんだろうね?」
彼女は空に向かってそう言った。
悲しそうな、何かを諦めてしまったような顔。
水城みらい。
彼女に出会ったのは一月ほど前だった。
街の交差点で自分を見て欲しいと、訴える彼女。
みらいは誰にも見えていなかった。
声も聞こえていなかったのだ。
でも、僕には彼女が見えた。
声が聞こえてしまった。
自分の姿が僕に見えている事に気が付いた彼女は、僕の後をとぼとぼと付いて来る。
「ねえ、待ってよ。少しくらい話しを聞いてよ。」
立ち止まって振り返る。
彼女は泣きながら訴えかける。
「お願い。私の声を聞いて…。」
僕はため息をつく。
「聞こえてるから、勝手に話せばいいだろ。」
幽霊ってやつだろうか?
見るのは初めてだったが、付きまとわれて迷惑も甚だしい。
別に相手をするつもりもなかった。
「誰かと話しがしたかったの…。だから、だから…。」
彼女はしくしくと泣き出してしまう。
「で、何を聞いて欲しいの?」
腕を組み彼女の反応を待つ。
涙を拭きながら彼女は困ったような顔をする。
「…だから、私の話しを。」
「それは分かった。だから何の話しだよ。」
「えっと、それは…。」
困り顔の彼女にため息をつく。
「未練があるから、幽霊になったんじゃないのか?」
「違う、私幽霊じゃない!」
自分が死んだって自覚してないのか?
「人から見えないだけで、私生きてるの!」
彼女の話しは要領を得ない。
これ以上話しても無駄だと感じた僕は背を向ける。
こんな厄介事はごめんだ。
「だから、その話しを聞いて欲しいの!」
そう言いながら彼女は勝手に僕の後を付いて来た。
毎日毎日付きまとい話しを聞いて欲しいと訴える幽霊。
寝る時ですら窓の下からその声を聞かされる羽目になった。
僕は彼女のその攻撃に2日しか持たなかった。
玄関ドアを開けてやる。
このままノイローゼになるよりはましだと判断したからだ。
仕方なく部屋に上げ座らせる。
「好きなだけ話せばいいよ。聞いてるから。」
彼女はこくんと頷く。
名前は水城みらい。
都内の聖花女子高校に通っていたらしい。
そしてある日を境に誰からも見えなくなってしまった。
でも、死んだわけじゃないと強調する。
姿が見えず、声も届かない。
いきなりそんな体になってしまったのだと言う。
物を掴むことは出来ない。
人にぶつかればすり抜けてしまうが、その瞬間自我を失ってしまうらしく物体の通り抜けは生理的に受け付けないらしい。
両親は行方不明になったと信じ、毎日泣いて暮らしている。
そんな家に嫌気がさして飛び出してきたが、誰とも話しが出来ない孤独感から、ああやって群集に訴えかけていたと言う。
彼女はそんな事をぶちまけるように話すとまた泣き出してしまった。
「分かった。話し相手になってやるよ。」
「ほんと?」
涙を拭いて顔を上げる。
「ああ。ただし、プライベートは尊重する事。守れなかったら二度と君の話しは聞かない。」
彼女は真剣な眼差しで頷く。
そして、みらいって呼んで、と笑った。




