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美少女⑧彩~芸能プロダクション

演技派の陽子は銀幕のスター女優として階段を登りつめる頃であった。


美少女・裕子は芸能界入りを女性向けファッション雑誌のモデルとしてデビューを飾ったのである。


『現役女子高生モデルの卵』とセンセーショナルな裕子には似合ったものである。


裕子のキャッチフレーズ


『今風のギャルは大人の卵』


裕子は卵の殻をバリッバリッと破ったばかりの幼き女神の格好をして巻頭グラビアを飾った。


カメラマンは重鎮の一番弟子が担当した。まさに今一番脂の乗ったモデルには最適なプロジェクトにはみえた。


裕子のグラビアデビューは同性の女性読者に衝撃を与える。


編集部も芸能プロ社長とも売れっ子になるっと見込んだ。

だが…


女性読者の反応は冷ややかなもので終わってしまう。

ファッション雑誌編集局と営業部は意外な読者の反応に愕然した。


「巻頭グラビアがダメだと?読者に女子高生モデルは人気がないだと。女性に芳しくないとはどういうことだ」


男子編集者は一応に可愛い女の子のグラビアである。

美少女裕子はさらに本物より可愛いと見えて好感だった。


女性という生き物は摩可不思議なものだと時折思うのである。


女神を想定したグラビアはボッチェチェリの貝殻女神を真似た芸術性も感じられている。


「そんな裕子が女には不人気なんだと?どういうことなんだ」


読者からの意見反応を知りたいとインターネットで検索する編集長。


カメラマンは当代人気の実力派。編集長がゴーサインを出したグラビアに当たりハズレのハズレはないのである。


・この娘って…第一印象は感じ悪いなあ


(読者フアンのコメント欄)

・なんていうの。なにも知らないお澄まし顔て罪悪感だわ


(美少女は美形が仇になる)

・小さいのかしら。身長はいくつあるの


(小柄なモデルは感情移入がされにくいと苦言)


編集長はやれやれと思い天井を見上げた。


「こりゃあ~お手上げさまでんなあ」


女性読者を敵にまわしてしまっては打つ手立てがないのである。


編集長は電話を重鎮に掛けてモデル降板を告げる。

女の敵(アンチ-女性)という美形モデルは珍しくもないのである。


「そうかっ。読者の反応は少々過敏な面もあるが」


日本有数のカメラマンもお金を払う読者には決して抗うことはしないのである。

美少女でもファッションモデルが「×」となったら裕子はどうするのか。


芸能界に女子高生を誘い込みした後見人のつもりの重鎮である。親しくする芸能プロダクションに裕子を委ねる。


「先生からの申し出でございますからね。社長の私が直に裕子を面接いたしましょう。写真をみる限りはタレント性は充分にあります」


芸能界という範疇は幅広いものである。


モデル・女優・歌手・タレント・くだけたらお笑い芸人


どうにもこうにも役に立たなければ…


アダルト業界へ叩き売り!

裕子は芸能社長の面接を受ける。


「ホホゥ~これはこれは。裕子ちゃんは写真より実物が数倍可愛いじゃあないか」


モデルとして失格したというのは写真写りが悪いタイプではないか。


スチールの出来不出来がファッションモデルは生命線である。有名カメラマンが手掛けたとはいえ機械モノには逆らえない面もある。

「裕子のスチールは…」


社長から見て美少女裕子は折り紙つきである。B級タレントや駆け出しのモデルよりは格が上に思えた。


よし!


「裕子っ。君は明日からタレント稼業に転身してもらう」


動かないスチール写真では美少女裕子は"宝の持ち腐れ"。


勢いテレビタレントに転身させお茶の間のアイドルにさせよう。


「えっ発声法ですか?私は…社長さん。なにをするのですか」


芸能プロダクションは裕子の未知数なり演技力と歌唱力を試してみたかった。


ところが


歌は小学生からヘタ…。涙が出そうな音痴


演技力って言われても…。学芸会でお姫様をやったことがあるが恥ずかしいだけで終わってしまった。


アイドル歌手も演技派女優も。今の裕子にはまったく眼中になかった。


発声法や演技力の芸能養成所に通うこと数週間である。


養成所のレッスン講師たちは熱血漢である。明日のスターを夢見る女の子に心血注ぎありったけの指導を施すのである。


"裕子はカワイコチャンだよ"


歌唱力はNGと講師全員に即日わかり歌手は断念する。(音痴は治らない)


残る望みは演技力。


学芸会並みの演技はプロに通用なるか。


講師は裕子を徹底的にチェックする。プロのタレント養成所の沽券を賭けてもモノにしてみせる。


"裕子のチャームポイントはなに?"


人気が勝負の芸能界である。フアンあっての芸能人であり生きていくために武器となるものがいる。


タレントを作り上げる講師。フアンに訴えるなにかを練る講師ら。


裕子という素人の素材を多角的に眺めた。


芸能プロの社長から高い月謝を貰い裕子を任せている。


可愛いだけが取り柄でヘラヘラした女の子が生きていける保証はない。


講師は女優というカテゴリーで裕子を試みる。


「裕子は頭がいいわ。演技指導をしていて気持ちがいいくらい(覚えるんだもの)」


演技はもともと裕子に素質があった。長いセリフも自分の中で理解し役に成りきってくる。


「素晴らしいわ。裕子は素晴らしい才能だわ。思わず拍手したいくらい」


掛け値なく才能開花


講師は芸能社長に喜びの電話をしたほどである。


「そうかっ。裕子は女優になれそうか」


演技のイロハをしっかり仕込めばテレビドラマの端役ぐらいにはなれそうだ。


講師は弾む声で続けた。


「二十歳までに主役もいけそうです」


最大の賛辞を浴びせられた。問題は実力がどうかであるが。


「文化人の重鎮から裕子を押しつけられたときは簡単なことだと思ったが」


なにせカワイコチャンだよ裕子は


クラスにいるナンバーワン美少女なんだから


裕子は庶民的な女の子として簡単にテレビの人気者になるさっ


美少女は美少女だ。長年芸能人を見てきた目に狂いはないとタカをくくった社長である。


芸能プロダクションとタレント契約し裕子はデビューを待つ身となった。


先ずは深夜のバラエティーに出演をする。


若いタレントの女の子がお色気を振り撒き将来の人気者となっていく登竜門である。


裕子は有無を言わさぬうちにメイクと衣装をあてがわれた。

露出の多いミニスカートはカワイコチャンアイドルに定番なもの。


可愛い女の子は一列に並び赤や青のフリルふりふりミニスカートである。


「わあっ~恥ずかしいなあ」


カメラアングルに気をつけて足を動かさないと…


深夜(お色気)バラエティー番組は新人タレントにはセリフなし。


常に司会者の話題に従いカメラに向かってニコニコするだけである。


その他大勢のひとり。


一山いくらの三流タレント。


カワイコチャンの集まったタレントの卵たち


裕子は本人の知らぬうちにわずかながら男の子に美少女らしいタレントとして認識をされたのである。


深夜番組は収録が昼間。プロダクションとしてはタレントを簡単に出演しやすい条件である。(ギャラもよいので)裕子をミニスカート姿にしては出演をさせた。


(この深夜お色気番組が裕子のその後を決定づけていく)


「演技力は養成所の折り紙つき。裕子の女優デビューはホームドラマにする。あのドラマ出演なら難しいことはない。カメラも気になることはない」


演技力を見越して女子高生の役からいこう


無難な選択肢を社長は選び裕子は女優タレントの道を踏み出す。


可愛い女の子としてお茶の間の家族団欒にお目見えである。


それはデビュー間もない新人タレントを起用するドラマ。裕子になんら不自然なことではない。


養成所を終えてタレントの卵である。卒業式前だから女子高生もはまり役だった。


「ハイッ社長。頑張ってきます」


フリフリの赤青ミニスカートでお色気振り撒きはうんざりしていた。


「よし頑張ってくれ。ホームドラマは庶民的なアトホームが求められるんだ」


庶民的な美少女が裕子。


このドラマで人気者になってしまえば…


社長は大船に乗った気分で裕子を新人タレントをテレビスタジオに送り出した。

社長は付き添いにベテランのマネージャーをつけた。

「裕子ちゃんはじめまして。テレビドラマ初出演頑張りましょう」


ベテランは裕子の笑顔を一目みて"売れるタレント"だと直感をした。


「裕子っ頑張りましょうね。しっかり演じてくれたら次のドラマに繋がる。君には期待をしている」


養成所の演技延長にテレビドラマやバラエティがある。


緊張感や戸惑いがなければ裕子なら大丈夫ではないか。


「はいっ社長さんの期待にしっかり応えてみたいと思います」


元気よく返事をしたものの裕子はぶるぶると足が震えてしまった。


その日テレビスタジオは番組収録が目いっぱいであった。


「さあ裕子ちゃんしっかりね。芸能界とい巨大な化け物に怖じけていてはいけないわ」


ベテランマネージャーは緊張する裕子を宥めすかしてみる。


リラックスさえしたら大丈夫。


一時間ホームドラマ脇役の女子高生なんて五分も出演させてくれたら"恩の字"でディレクターに感謝だわ。

マネージャーに連れられメイクと衣装合わせに控えにいく。


テレビ局の中で裕子ついついキョロキョロしてしまう。


廊下やエレベーターで芸能人とすれ違いであった。


「えっ」


裕子は驚きの声が出てしまう。同じエレベーターに乗り込んできたのが売れっ子俳優であったりドラマ主演の女優であった。


「おはようございます。お久しぶりでございますね。主演ドラマは好調でございますね」


マネージャーは気さくに俳優や女優に挨拶する。長年の付き合いは新人時代からのものだった。


「もう困ったちゃんですこと。裕子ちゃんも芸能界なんですよ。タレントのフアンさんではなくてよ」


マネージャーの元にADがやってくる。裕子はいよいよ番組の打ち合わせだわっと緊張する。


「へぇ~こちらが新人の裕子ちゃんですか」


若いADでも美少女はお腹いっぱいであった。毎日毎日新人タレントは洪水のごとく押し寄せている。


「裕子ちゃんはこれから売れっ子さんになるんだね。目指すは人気アイドルさんだね」


若いADは口がうまいのである。思うことと"裏腹"な発言は日常茶飯事だった。

「それにしても可愛いなあ。裕子ちゃんが売れっ子になったらこのドラマが初出演だ。ドラマが有名になって楽しみだ。しっかり頑張りましょう。はいこれが台本になります」


たらたらとお世辞を言うようだが内容が全くない無駄話である。


マネージャーはまた始まったかとウンザリして横に立っていた。


女子高生裕子のテイク(出演場面)は三ヶ所だけ。


主演女優の妹の友達が女子高生役の裕子であった。


セリフは簡単。学芸会並みの役である。


「これからがスタートね。しっかりね裕子ちゃん」


マネージャーは台本を出演シーンを思い浮かべてしまう。


「まったく…。ウチのような零細企業(の芸能プロダクション)はいつもナメられてしまうわ」


パラパラとめくってドラマストーリーを把握してみる。


裕子と同じ待遇である新人タレントの出演シーンを気になって見た。


マネージャーは新人タレントの出演シーンの台本を読み上げる。


あんぐりと口を開けた。


「もう~(不愉快ね)」


パンっと台本を閉めた。


「裕子ちゃんだから言うわ」


セリフが三ヶ所の裕子に対して大手プロダクションの鳴り物入り美少女タレントの待遇。


大手プロは常にストーリーに重要な役回りを与えられている。


「この女の子(大手プロ)って…。裕子ちゃんはどう思いますか」


ドラマ最初から出演シーンがあり準主役待遇ではないか。


セリフ出演三ヶ所の端役女子高生とは"月と(スッポン)"ではないか。


「悔しいわ。私はとても残念よ。裕子ちゃんがドラマデビューを飾るのよ」


スタートラインからこんな依怙贔屓(えこひいき)をされは。


生き馬の目を抜くアイドル最前線の戦いに勝てるわけがない。


「大手プロダクションだからといって」


零細プロだって決して見劣りすることもない。


「大が小を喰うこと。これが芸能界のハンディキャップなのよ」


ベテランマネージャーはつらつらと零細プロダクションにいる我が身を恨みであった。


芸能界につらみをいだき愚痴ったのである。 


ドラマの収録が始まる。


出演の端役たち。その他大勢のタレント群は番組制作担当ディレクターに挨拶してスタートであった。


裕子はこの瞬間に"嫌なもの"を見てしまう。


売れっ子である主役女優が特別待遇されディレクターの横に我が物顔で座っている。


売れっ子女優のおかげで視聴率は好調でスポンサーさまからの受けもよいのである。


お茶の間は売れっ子女優が見たさにドラマを毎週楽しみにしていた。


主演女優の真横にもう一人…


いたのである。


「皆さん本番いきます。テイク(収録)はNo.1~3でお願いします」


ディレクター(監督)の指示は的確なもの。無駄な動きもなく出演する役者さんは流れのままである。


出演するシーンの演技は長年培われた役者の経験がものを言う。


家族団らんなアトホームは無難に収録を重ねテイクはNo.1から順調に進む。


テイクNo.4には裕子が登場する。女子高生役はその他大勢のクラスメイトでセリフなしである。


クラスメイト役は新人タレントばかりである。フレッシュな顔ぶれはディレクターの狙いもあった。


その女子高生役に大手プロの新人もいた(彼女だけセリフあり)


「ではテイクNo.4いきます。新人さぁ~ん緊張しないでいきましょう」


ADが裕子らに肩の荷を降ろすようにリラックスを呼び掛けた。


ディレクターはゴーサインを出してテイク(収録)スタート!


事件はすぐ起きてしまう。

カット!カット!


新人タレントが緊張からセリフを間違ってしまう。


セリフのトチりは俳優役者につきものである。ディレクターもADも"やり直し"でOKであった。


ところが…


一度セリフを噛むとそのことが気になってしまい再度同じ轍を踏む。(これも普通の出来事だった)


カット!


「フゥ~五分ぐらい休憩しようか。外の空気を吸ってリフレッシュ」


張り詰めた空気がディレクターの一声で和みになる。

裕子も緊張から開放され休憩にいこうとした。


「ちょっとあなた!」


裕子の肩をデンっと叩く感触を受ける。


うん?


クルリと振り返ったら…


「あなた!あなたも新人よね」


頭から湯気を出す剣幕の女がいた。


「なんの恨みがあるのよ。あなたのおかげで(ウチのタレントからセリフが)うまく出て来ないわ」


大手プロダクションの"辣腕マネージャー"が裕子に苦情をしたのである。


「あなたって…。ウチの新人が喋る時に嫌な顔をするでしょ(言い掛かり)」


マネージャーの苦情はその他大勢の女子高生役なんだから目立つ動きは禁止である。剣幕の凄さと大手プロダクションという目に見えない威圧感が裕子をガンガン襲う。


裕子にくだらぬ言い掛かりをネチネチは出演者やテレビ局の関係者に見えないブラインドである。


(この手の姑息な手段はお手のもの)


「すいません。以後気をつけます」


とにかく頭をさげて裕子は謝ってこの場を逃れるのである。


憤慨するマネージャーは自発的に新人裕子に来たのではなかった。


マネージャーとしてやむを得ず苦情を裕子に押しつけたのではなかった。


「ねぇマネージャーさん。あの娘(裕子)って生意気じゃあないの」


たくさんいる女子高生の中で目立つのは一人だけよ


「セリフもないくせに。どうして私より目立つの!チビのくせに(生意気だわ)」

目立つ美少女裕子が目に入ったからセリフをトチったのだ。二度も三度も失敗したのは"裕子がいけない"とマネージャーにぶちまけた。


「私っ正直に言って…」


女子高生役に男の気を惹く美少女はふたりもいらない。


"裕子は却下して欲しい"


"大手プロの新人だけが脚光を浴びる…"


裕子は妬みを買うはめになってしまった。


辣腕マネージャーは裕子に突っ掛かるとその足でディレクターに直談判をしてしまう。


「配役が間違っていませんか」


裕子は卸してくれませんか。


(ディレクターさん。あなたの出世はウチのプロダクションが責任を持ちますわ)


「確か一ツ橋出身でございましたわね」


テレビ局の学閥から見たらこれからの出世(課長~部長)は難しい。


「!」


ディレクターはそのバックボーン"大手プロダクション"という金看板に安易に屈してしまった。


「よーし休憩終わりだ」


テイクNo.4いこう


ディレクターはADを手招きしこそこそっと耳打ちをした。


裕子とマネージャーはADに呼び止められた。


「えっ!どうして?撮影待機ですか」


裕子はカメラの前に立てなくなってしまった。

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