美少女④彩~恋に落ちたらⅠ
ハリウッドのスチール撮影スタジオである。
こじんまりとした写真撮影用の現場は日米を代表するカワイコチャンが笑顔を振りまいていた。
よし!
グッド!
カメラマンの声が静寂を破り聞こえてくる。
「裕子っ!こっちを向いてくれ。カメラを睨んで!そうだっ。グッドだ。実にいい顔だ」
バシャッ!
アメリカンスクールガールもジャパニーズ裕子に負けじとオールスマイル(満面の笑み)を湛える。
こちらはイングリッシュが乱れ飛ぶ。
「レンズをキイッと睨みつけてくれ!そうそう。そのまま髪をたくしあげてくれ。グッドだ」
ジャパニーズ裕子とアメリカンガールはこぞってカメラを睨む。
バシャッ
バシャッ
ともすると…
18歳の乙女でありながら日本とアメリカをたぶんに意識して"美の競演"となる。
日米決戦の火蓋はハリウッドスタジオで静かに落とされた。
背の高い日本人カメラマンはどんどん乗りまくる。
カメラワークを通しての被写体。ホトジェミックな裕子がニッコリすると機嫌がよくなる。
知らず知らずのうちにお気に入りのモデルさんとなっていった。
軽快な調子ははめを外した。裕子単独スチールを次々に撮影する。(契約違反)
雑誌の要望とかけ離れた好きなポーズまで決めさせていく。
「裕子っ!ものすごくカワイコチャンだぞ。ハリウッド女優もたじたじさ」
バシャッ
リズミカルにシャッターを押すと満足ゆくショットを狙い撃ち!
「裕子は可愛らしいなあ」
バシャッ!
「アメリカンの女子高生が敵わないくらいにカワイコチャンさ」
アメリカンガールにはガールにそれなりのイングリッシュで攻めていく。
日米の女の子に歯の浮くような褒め言葉の羅列をシャワーしてシャッターを押しまくる。
フゥ~
ガシャ
「なかなかのものだな。決めのポーズがうまい。裕子は単なる女子高生かい」
裕子が女子高生には見えない。モデルとしてプロフェッショナルではないか。
カメラマンはファインダーを覗き本気ともデマカセともわからぬ表情をした。
バシャッ
「よしっ!御苦労様。あと数枚のショットで今日は終わりにしよう」
バシャッ
バシャッ
裕子もアメリカンもなんとなくカメラマンのおだてに乗ってしまう。
素晴らしい満面の笑みとポーズを決めていた。
ラストシャッターを押したカメラマンは汗びっしょりとなる。
「グラビアショットはアメリカンに人気の雑誌に掲載される。この中高生対象の雑誌はだね」
この雑誌のグラビアを飾る女の子。大半の女子高生は名誉とその後の地位を手に入れると言われていた。
撮影の後。スタジオのラウンジでアメリカンが詳しく教えてくれた。
「私はね。子供の頃から雑誌グラビアになりたいと思っていたの。ハイスクールに入ってからは何度も応募したの」
高1からせっせとセルフポートレートをハリウッドに送り続けてようやく返事が来たのである。
「もう少しでハイスクールは卒業してしまうの。学校を卒業してしまえばハイスクールガール(女子高生)でなくなるわ。応募資格はなくなってしまうの」
年齢制限はきりきりセーフ!
アメリカンはホッと小さな胸を撫で下ろす。
「私のスチールがグラビアとして好評なら。男の子に人気となればいいんだけどなあ」
卒業まで時間的に余裕がない。18歳で年齢制限を喰らうとは。
「私はハイスクールからハリウッドの女優になりたいの。本当よ。ママもなりたかった夢なの」
女優になるステップとしてスチール(写真)グラビアモデルを経て芸能界入りを夢見ている。
明日のハリウッドスター
アメリカンドリームの開花。夢を見つつ女優志望の女の子である。
カメラマンはそうかそうかと聞いていた。
「アメリカンは女優さんになりたいのか。ハリウッドに雑誌読者の応募で足を踏み入れたとしても」
少女が見た夢物語は必ずしも夢見心地のみで終わってはいけない。
雑誌のグラビアは若い読者が大半でよく見られている。
カワイコチャンとして人気が出る。
ハリウッドスターも遠い彼方の打ち上げ花火ではなくなる。
「グッドなジャパニーズカメラマンの腕に期待よ。私もジャパニーズ好きよ」
ハイスクールの歴史で日米を学んでいるガールは微笑みを見せた。
「裕子はどう?高校卒業して大学生。適当に男見つけて結婚…」
カメラマンは裕子の顔を見ながらすらすらと人生設計を勝手に述べる。
極めて現実的で面白みもないようで。
カチン!
このカメラマンは二言目には…
裕子の"癪に触る"ことを平気で言う!
「どうして?なんで私が平凡な人生(結婚して主婦)になりたいと言うの」
もう最低な男だわ。
余計なお世話ですよぉ~ダアッ
カメラマンとふたり切りならアカンベーをしてやりたい。
「あらっ違っていたかな。裕子をカメラマンとして見ていると早く嫁に行きなさいよ。よき日本のオッカサンになりますと見えてしまうアハハ」
笑われてしまった。
プゥ~(頬を膨らませた)
「あっそっか!裕子には彼氏さんがいなかったんだ。そりゃあ無理な話しだアハハ」
"もう!最低の最低さん"
裕子は癇癪をお越しカメラマンからわざとらしく顔を背けてみせた。
裕子の視線からカメラマンが消えた。
次の瞬間!
「ウグッ」
振り返った裕子の顔に熱いものが感じられた。
「(なっなあっに?)」
何が裕子の顔に覆い被せられたのか。目をしっかり見開いてみる。
「アッ!イヤ~ン」
カメラマンが素早く裕子に近寄り口唇を奪ってしまったのだ。
キスをされたとわかった裕子。
バシッ!
男の頬を力任せに平手打ちを喰わせた。
「アハハ…。気丈な大和撫子だな。ますます気に入った」
バチっと乾いた快音が響いたラウンジ。
裕子らの近くに座る秘書もことの異常さに気がついた。
真っ赤な顔のジャパニーズガールが突っ立っている。
背の高いジャパニーズは頬を右手で押さえ被害を被っている。
ガールは湯気を立ち上らせて心頭怒りカンカン
「どうして?どうしてなの?何があったのミス裕子」
秘書がことの異常さを強調した。
裕子は好きでもない男に口唇を奪われ泣きそうになり体をブルブル震わせた。
気丈さが裕子のイメージである。
「あっごめん。そんなにっ泣かなくても」
みるみる目に涙を溜めるとサッとスカートを翻しラウンジを飛び出した。
「裕子!待って」
秘書が後を追う。
カメラマンも躊躇なく追いかけた。