美少女②彩~裕子と映画界
無事にフライトし西海岸に到着した女学院の一行さんだった。
ターミナルに降り立ちさっそく文明大国アメリカの偉大さに圧倒される。
「きゃあ~驚いたわ。ロサンゼルスってこんな街だったのね。テレビでチラッと見たくらいではわかっていなかったなあ。なにもかもが大きくて異国って感じね」
空港のイミグレーション(出入国管理)で女子高生は驚嘆の声をあげてしまった。
「あははっ。びっくりしましたか。そうですか。アメリカに触れ驚きましたか。それはそれは。女子高生の今だから貴重なことですよ」
一行を案内する青年は笑ってしまう。
(女学院のお嬢様とは言え元来は田舎者かな?)
「ロスの空港であんぐり口を開けてしまいましたね。これからはもっともっと驚嘆することが待ってますよ」
ホテルにチェックインを済ませるとラウンジや街角からアメリカ文化が溢れていた。
いつもちやほやされる裕子も女学院のクラスメイトに紛れたら普通の女の子である。
フアッション雑誌の中にあるロスやアメリカが目の前にあると気持ちが高ぶってしまう。
翌朝から西海岸を観光旅行となる女学院一行に美少女の裕子も溶け込み"普通の女の子"である。
…いやっ
普通の女子高生。ごく普通の日本の女の子と思うのは本人だけであろうか?
「チェックインは皆さん済ませましたか」
ホテルさえ確保してしまえばロス市街で迷子になろうとも帰る場所がある。
「ロスには慣れてきましたか」
慣れたかと言われても。
「英語は度胸を決め喋っていただけましたら。女学院の生徒さんならなんとか…アッハハ」
実務レベルの英語と受験英語では異次元の隔たりがなぜかある。
「ゆっくり慣れて参りましょうか」
さっそく一行さんはロスの観光案内となる。
団体数が20~50ともなればマイクロバスや大型バスをチャーターもできるねであるが。
「観光案内はタクシーに分乗で。皆さんご安心を。運転手は日系人の方です」
東北は仙台市から移住してきた運転手をチャーターしていた。
「良かった。日本語がわかってくれて」
観光地ロスアンゼルスは至るところに見処があり女学院一行は目を見張るのである。
観光は楽しいことばかり。
ついつい時間を忘れてしまいそうになる。
「あのぅ~すいません。ちょっとよろしいですか」
女学院の女子高生が固まって観光をしているとちょくちょく声を掛けられた。
「可愛いジャパニーズガールですね。写真を撮らせてください」
観光をしながら逆に鑑賞をされていた。
「ヤダッ~私たちの写真を撮りたいだなんて」
最初は非常識だわっと撮影を厭がってはいたが。
「あまり断ると…。日米間に摩擦が生じかねないわ」
ひとりが快く受けて写真のポーズを取ることにした。
「おおっナイス!サンキュー」
このシロウトカメラマンの撮影された一枚がインターネットに開示をされ英語文化圏に流されていく。
「プリティなジャパニーズガール」
ロスの観光名所をバックに女学院のギャルはグラビアモデルの役割を果たしていた。
「このガールは特に可愛いネ!」
アメリカンにも"カワイコチャン裕子"は認識をされて話題になっていく。
"嚢中の錐"が美少女・裕子であろうか。
通訳に耳打ちする者がいた。
カワイコチャンである裕子を本格的にモデルにしてはどうかと申し出をする。
観光客に紛れての芸能関係者だった。
「裕子さんどうしますか。こちらの方はですね」
貰った名刺にはエグゼクティブ(社長/経営者)のきらびやかな文字が刻み込まれていた。
「ハリウッド映画の社長さん?えっ!どう言う意味ですか」
映画会社のオーナーであると名乗った。
「裕子さんをファッションモデルとして使いたいとエグゼクティブ(社長)さんは言ってます」
エグゼクティブはなにやらごそごそとしたかと思いきや携帯で秘書を呼び出す。
「ミス・ユウコはジャパニーズですね。アジアンビューティーは私の見立てがすべてですから」
このシロウトのビューティーを逃してはならぬ。
ハリウッドの秘書に会社や傍系に日系人がいないか探してもらう。
「ボス!いましたわ。ロス市大を卒業したばかりの。電話番号が判明次第連絡をいたします。そちらのアジアンビューティーはいかがなされますか」
電話口の秘書は落ち着いた応対である。
シロウトの少年少女のスカウトはエグゼクティブの癖でありささやかな娯楽の一部である。
「ハリウッドまで女の子を連れて来て映画女優にしたまえっと言わないだけマシですけど」
ファッションモデル程度なら安いギャラ(薄給10$)を支払っておしまいである。
通訳から裕子のハリウッドを知らされた女学院の一行は大喜びである。
「えっ~裕子さんがハリウッドですって!」
この瞬間からハリウッドがクローズアップされてしまう。
「ファッションモデルをして欲しいって言われたの?映画会社のエグゼクティブ?社長さんからの申し込みですって」
女学院の彼女らにロスアンゼルスだけでもトキメキだった。
裕子の存在感がアクティブなアメリカンにしてしまう。
「ハリウッドは日程にありません。せっかくのチャンスですハリウッド行きに変更しましょう。皆さんで参りましょう」
通訳の青年もまさかである。
世界中が注目するハリウッド映画のエグゼクティブ(社長/会長)がチャチャを出してくるとは。
万が一の偶然はハリウッド映画出演の千載一遇のチャンスでもあった。
そのハリウッド映画のエグゼクティブたる老人。どんなにか偉大な人物とは想像だにしなかったのである。
その場で名刺を携帯検索してくれたら…
裕子をはじめ女学院全員ひっくり返って驚いたに違いない。
"モデルさん"と名指しされた裕子は困り顔するだけである。
「困ったは困ったです。私がモデルさんですか?」
かわいい顔をして裕子は頬を脹らませる。
身長160センチに届かない小柄なジャパニーズ。
「どんな顔をして写真に収まればよいのかしら」
ホテルのクロゼットで顔をしげしげ眺める。
「平凡な女の子だけどなあ。お鼻が少しダンゴさん」
アメリカンのエグゼクティブは裕子に"光るダイヤモンドの原石"をチラッと見いだしていたのかもしれない。
鏡にかわいい顔を映して裕子は頬を脹らませる。
「普通にいる女学院の生徒なんだけどなあ」
ニッコリ
ウッフン
だんだんと裕子はその気になります
パチッ
ウィンク
「裕子のセクシーでアメリカンをイチコロ~よ」
ホテルのクロゼットがアメリカンであると意識してくる。
「平凡なジャパニーズの女の子だけど」
アメリカンには魅力的な女の子かも知れない。
裕子の自惚れ
エヘッ!
ペロリと可愛く舌を出した。
アメリカンのエグゼクティブは裕子に"光るダイヤモンドの原石"をチラッと見いだしていたのかもしれない。
「ミス裕子。始めまして。ハリウッドへは私がご案内をさせていただきます」
翌朝ホテルにエグゼクティブからの者として若い(日系の)女性が現れた。
「エグゼクティブからの御伝言を伝えます」
大学を出たばかりの秘書はハワイ育ちの日系4世と名乗る。日本とはすでに疎遠となりジャパニーズもたどたどしい。
エグゼクティブをちゃんと理解してもらうためハリウッド映画会社のパンフレットを手渡した。
あのオジイサマは…
会長の笑顔が表紙にあった。エグゼクティブの本性を初めて知る。
「ねぇっこの老人ってとんでもないお金持ちじゃあないの?」
ハリウッド映画会社は多角経営の一環だけのこと。
カリフォルニア州一円に莫大な土地と自動車やエレクトロニクス関連の本社工場を持ち合わせていた。
ひゃあ~裕子って!
「とんでもないアメリカンドリームを引き当てたんじゃあないかしら」
裕子との出合いはエグゼクティブがロスの会社M&Aに乗り出した矢先である。
合併の話は難航を窮めたが裕子の笑顔を写真に納めてから至って順調なビジネスライクとなった。
エグゼクティブはジャパニーズ裕子のスマイルには不思議な力があるのではないかと思ったフシもある。
「ハリウッドはいかがでございますか」
いかがと言われても…
秘書は裕子が映画出演をするものだと勘違いをする。
「アメリカンは初なんですか。あっこれは失礼いたしました。ミス裕子はハリウッドのムービーアクトレス(映画女優)の雰囲気があったもので」
うん?
ムービー…
アクトレス
女優?
じょゆう
裕子の耳にしっかり『アクトレス(女優)』というキーワードが届いたのである。
女学院の一行は女子高生だけでハリウッドに向かうことになる。
「日系の秘書さんが同行しているなら。あえて通訳はいらないですね。僕も忙しい身ですから。ハリウッド旅行の最中は会社に戻ります」
こうして女学院の女子高生はハリウッドという一種独特な世界に触れてしまうことになる。
映画の街ハリウッド
京都東映太秦映画村のアメリカン?
裕子らはそんな気持ちでいたのかもしれない。
普通に可愛く清楚な女子高生。裕子が映画という世界に触れるには刺激が強すぎるようである。