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美少女⑩彩~冷たい芸能界

何も考えることもなく


好きなことを好きにやってしまうのがお坊ちゃんであり金満な家系に生まれ育つ御曹司である。


「ねぇねぇ頼むからさぁ~。僕は裕子が好きなんだ」

文化人に祖父を持つノー天気な男がいたのである。


ハリウッドでカメラマンの勉強をしている学生で裕子に一目惚れ。


あの可愛いい笑顔をカメラに納めてから脳裡に浮かんでしまい片時も忘れることができない。


「裕子に会いたいんだ。僕は裕子が好きなんだ」


我が儘いっぱい


手いっぱいな贅沢


好きなものや欲しいものはことごとく手にした富豪の家系の"御曹司"である。


「アメリカ留学なんか嫌だ。これからカメラマンになるにはアメリカも日本も関係ない」


だったら裕子のいる日本に帰る


せっかく映画の本場ハリウッドでカメラマンとして名が出始める矢先の"我が儘"だった。


好きな裕子に会いたさから帰国の途についた御曹司(孫)はさっそく足取りを調べる。


「じい様の紹介でモデルをしているのか。裕子は可愛いいからバッチシッだ」


祖父の芸能事務所に勝手に乗り込んでごそごそだった。


「お願いいたしますから。お坊ちゃん困ります。先生に知れたら私たちが叱られてしまいます」


いきなり現れた招かざる客。重鎮の第一秘書も事務員も我が儘な孫には逆らえない。


「うんうん。じいちゃんには迷惑はかけないよ。ねぇ裕子の所属プロダクションを教えてよ。わかったら帰るからさ」


事務所のパソコンをクリックしても"タレント名・裕子"はヒットしないのである。


芸名を使っているのか


どこのダクションに紛れていやがる


「裕子の卒業した女学院に聞いてやるか」


あっと!


文句言ったらプロフィールが偶然に開示された。


「裕子は女子大学に進学しているのか」


プロダクションでつかまえるより効率性は高い。


さっそく事務所お抱え運転手に命じて女子大学へいく。


「えっ女子大に行きなさい?ちょっとお坊ちゃん。勘弁してくださいよ。今から私は先生をお迎えなんですから」


タクシーを呼んでやるから好きにどこでも行きなさい。


「お坊ちゃんわかりましたか!」


長年付き合いの運転手にたしなめられた御曹司。顔を真っ赤にプクゥ~と膨らませ不快感を全面に出した。

そのまま女子大に向かうのである。


「ちっ面白くないぜ。クルマは空いているんだから乗せてくれてもいいだろ」


街角で流しをつかまえプィ~と出掛ける。


「ちょっとちょっと」


女の子だけが行き交う女子大学の正門から堂々とキャンパスに入ろうとする男になっていた。


傍若無人。


世間知らず


長い髪を風に靡かせ正門をくぐって警備に止められたのである。


「うん僕か?この大学の裕子の友達なんだけど」


女子大生に会いに来た?


「何ですかっ?」


ごちゃごちゃと同じ言葉を繰り返し構内に入れてくれと頼むのである。


小学校のPTA面会とは違うのはわかっているはずだが。


キャンパスに入れてよい男性は教授など限られている。


所詮は無理なものであり面会などもっての他である。

門前払いの仕打ちなど警備の分際で生意気なっと立腹しごくである。


「面白くないぜっまったく」


憮然としながら後退すると…


我慢できず攻撃的な言葉を警備に浴びせてしまう。


「なっなんだとぉ~」


リリリィ~ン


警察通報ベルを押されてしまった。


「なっなんだと!警察だろうが刑務所だろうが呼びたければ呼んでくれ」


祖父の名前を出すぞ。おじいちゃんは偉いさんなんだからな。


警察なんか怖くないぞ!


俺を誰だと思っているんだ。


文化人の中の重鎮なんだぞ。日本文芸協会理事長の孫なんだぞ


ぎゃあぎゃあと正門で騒がしい


警備や大学職員はこの御託を並べ立てられてもさっぱり要領がわからなかった。

御曹司がトラブルのその頃である。


裕子は好評だったテレビドラマ出演を打ち切られ失意のドン底にあった。


「芸能界って私には向かないなあ」


女子高生からみたら華やかで憧れの世界が芸能界だった。


いつしか憧れは幻滅することのみが多くなって立ち往生である。


「明日にも…。芸能プロダクションに辞表を出しておこう。社長さんにはお世話になって。辞めるというには申し訳ないなあ」


モデルも


女優も


芸能に関するタレント活動はきれいさっぱり足を洗いたくなっていた裕子である。


机に向かって"辞表"の文句を(したた)める。


可愛いがってくれた社長さんの顔を思い浮かべたら涙がこぼれてしまう。


辞めたくないなあ


本当の裕子は辞めたくはない!


「短い期間だったけど芸能界は面白かったなあ」


女学院時代にハリウッドの大富豪との出会いが今の裕子である。


「あのアメリカの金持ちさんがはじまりね。私を見染めてくれたことから(芸能が)あったのね」


ハリウッドでモデルさんになって…


日系の若いカメラマンにグラビア写真を撮影してもらい…


グラビア?


ハッと思い出す。


「カメラマンに撮ってもらって私はモデルになろうと思ったの」


帰国した裕子に煩くまとわりついたのがそのカメラマンこと重鎮の孫である。


「嫌なヤツだったけど」


なんとなく裕子には心底憎めないお坊ちゃんに見えてしまう。


「今はハリウッドでプロの写真家になっているかなあ」


可愛いい裕子が好きだと散々言ったお坊ちゃんの御曹司だった。


「うふふっ。私があのお坊ちゃんと結婚式を挙げたら」


マスメディアは騒がしくなることだろう。


そんな夢物語を想い浮かべながら社長への辞表を書き上げた。


「明日はマネージャーさんにお礼をして。謝りましょう」


…それから…それから


涙があふれ止まらない。


タレント裕子のために尽力をしてくれたマネージャーは特に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


「裕子さんを一流の女優さんタレントさんに育て上げたいわ。ふたりで頑張っていきましょう。芸能界なんて泳ぎ方さえ覚えてしまえばこっちのものなのよ」


経験豊富な中年マネージャーは陰にひなたに裕子を助けてくれたのである。


「離婚し別れた娘さんは私と同じ歳だと言っていたなあ」


母親代わりも兼ねていたのだ。


ひとしきり泣くと裕子は気持ちの整理も徐々につくのである。


一晩悩み涙も涸れて眠り朝を迎えた。


「なっなんだって裕子!おまえは自分の言っていることがわかっているのか」


社長に頭をさげ辞表を提出したのだ。


「マネージャーから聞いたよ。あのテレビドラマはちょくちょく問題があることは会社としても知っていたよ」


気紛れさが定番な主演女優がガンなんだよ。


「もう少し我慢できないか。ドラマでの裕子は評判も良かったじゃあないか」


社長としてもマネージャーと打ち合わせて次の裕子出演を考えていた。


「辞表を書くとは若いなりに考えたな。まあっなっ。まあっなっ。それなりの悩みが裕子にあったことは認めるけどな」


"辞表は預かるよ"とだけ言い張る。


裕子のささやかな我が儘を聞いて"受理"ではないぞと目力(めじから)をしてみせた。


「あっそうだ。裕子の顔を見て思い出した」


御曹司を知っているだろ。

「あの例の重鎮と呼ばれている老人のほらっカメラマンの卵とか言うお孫さんだよ」


いきなり裕子に御曹司をぶっつけられても…


「警察に逮捕された。雑誌ライターから聞いたよ。御曹司は裕子の女子大でなぜか暴れたらしい」


うん!暴れた?


私の大学の前?


「その顔は詳しく知りたいみたいだな。よしちょっと待てよ。雑誌記者から直接聞いてやる」


どうして逮捕に至ったか。

裕子に会うつもりで女子大に出向きトラブルを巻き起こし大学職員に取り押さえられた。


おとなしく引き下がれば良かったのだが警察につき出されてしまう。


「俺を誰だと思っているんだ。ポリのくせに生意気だぁ~」


逮捕だとぉ~


上等じゃあないか


駆けつけた警官に祖父の名前を繰り返し浴びせ威圧を試みる。


「おまえらはどんなことをしているのかわかっているのか」


じいちゃんは人間国宝だぞ

(デマカセ)


じいちゃんは警察のお偉方を知っている


じいちゃんの顧問弁護士を呼べ


パトカーに押し込まれても反省なく悪態をつく御曹司は哀れであった。

「大立ち回りを(暴れ)して警察沙汰か。あのバカ息子のやりそうなことだ。安易に想像がつく」


親しくする社会部デスクからその辺りの噂は伝え聞いている。


「なぜ警察沙汰か。好きな女に会いたくて女子大へノコノコ行ったらしい」


女子大で待ち伏せしたら裕子に会えるからが理由だった。


「エッ!私にですかあ」


お坊ちゃんはなにも考えることもなく裕子にゾッコンなのか。


そこで社長は一計を講じる。


「身の程知らずな重鎮の孫という話しだよ」


軽はずみな行動が目立つやんちゃなお坊ちゃんであった。


「しかしあんなヤツでも孫は孫だ。良家生まれのボンボンさんだ」


あのお坊ちゃんでも助けてやれば背後にいらっしゃいます文化人に恩を売ることができる。


「裕子っおまえ今から警察にいくんだ。好きなおまえに会いたくて"お坊ちゃんは"暴れたそうだ」


巡り合わせである。


裕子にもトラブルの責任一端がある。


「私に?そんなぁ~責任があるなんて困ります」


無茶苦茶なことですわ


「御曹司は裕子が好きと言って憚らないんだろ」


裕子が芸能界入りをしたきっかけに御曹司や重鎮も関わっている。


「恩人でもあるんだよ」


リーンリーン


タイミングよろしく文化部記者から社長にであった。

「もしもし。ああっ私だ。文化部の記者から?俺は芸能プロダクションだぜ。三面記事専門になんの用事なんだ」


畏まって敷居が高くインテリ顔の文化部や社会部は苦手であった。


「まあまあ社長さん。そうも毛嫌いしなさんな。ホットな情報を教えてあげようかというのに。親切そのものの文化部ですよっアッハハ」


社長は知らせを受けてビックリ。目を白黒させて天井を見上げた。


クルマを玄関に回し裕子と警察へ向かった。後部座席に座るとにこやかに携帯をかけ続ける。


「こりゃあ吉兆になるのかもしれない。裕子のおかげもあるかもなアッハハ」



なんのこと


「ああっ今から警察に向かう。人助けだよ人助け。おおっ裕子も連行してな。あの御曹司が無事釈放されたら我がプロダクションには春が訪れないかアッハハ」


立て続けに電話である。気心の知れたメディアの携帯を鳴らした。


「裕子っ文化部の記者から聞いたんだが」


年齢に不足はない重鎮がいよいよ文化勲章を授与されることが決まりそうだ。


「文科省は授与されて大丈夫な人物かどうか調査している段階らしい」


そんな大切な時期に身辺に不幸があっては一大事である。孫がのんびり警察にいては都合が悪いのである。

「ああっわかった。事務所から顧問弁護士も向かったというのか。弁護士には連絡取れないか。ああっ接見する前に会っておきたい」

御曹司のために


祖父さまの文化勲章のために


バカな孫のしでかしたことのために


誹謗中傷やスキャンダルにまみれないために


しばらく待てば顧問弁護士と連絡が取れる。


「お坊ちゃんを助けていただけますか」


弁護士は文化勲章の身辺整理に躍起となっている。


藁を掴む思いの弁護士である。


「ええっ女の子に会いたくてお坊ちゃんは女子大に行きました。エッ!ほっ本当でございますか」


キャンパスで暴れた原因を作った裕子を連れて行きます。裕子本人が警察に出向ければ話しは早い。


「そりゃあ助かります。裕子さんに頼みをしてもよろしいでしょうか」


百パーセント悪いとみる御曹司の弁護。警察/検察をどうやって切り崩すか。


保釈申請にはいくら保釈金を用意すべきか


我が物顔の御曹司に悩んでいた最中だった。


警察署では弁護士と合流する。


「こちらが…裕子さんですね」


殺伐とした裁判所しか知らぬ弁護士はハッと息を呑む。


これはこれはなんとかわいいお嬢さんではないか。


「社長さん裕子さん。申し訳ないですが我々に協力をしていただきたい。お祖父様の大切な時期でございます」


深々と頭をさげた。


弁護士はかわいい裕子を見て一計を案じるのである。

警察は裕子の証言ひとつでことはなきものと収まったのである。


「すいません刑事さん。私は大学で"お逢いする約束"をしておりました」


その日に御曹司は裕子とデートの約束をしていた。


《デートの場所を御曹司は早とちりし(勘違いで)女子大まで来てしまう。勘違いの原因は裕子にある。手違いは裕子にあり行き違いとなった》


弁護士の入れ知恵は効を奏した。


警察は裕子の証言を重くみて弁護士に釈放を告げた。

刑事事件の可能性もなしとなる。


「警備員さんや大学職員さんに暴言の件は民事訴訟でございます」


あとは大学当局と顧問弁護士との問題とします。(示談交渉)


警察署からの帰り途では車中に御曹司と弁護士ふたりきりとなる。


「お坊ちゃんお怪我などございませんね。たいそうなことにならず良かったでございます」


幼少から知る祖父の顧問弁護士にたしなめられた。


「先生っありがとう。裕子が…あの裕子が僕を救ってくれたのですか?」


ちらほら弁護士の横顔を眺めてみた。


「暴言を吐いた僕を助けるために」


裕子はありもしない証言を弁護士の言いなりに偽証をペラペラ言ってくれた。


女優裕子にはセリフを覚える程度の芝居である。


「さようでございます。裕子さんがいたからこそでございますよ。無罪放免でご自宅にこうして帰ることができるのでございます」


裕子が…


僕のために


僕みたいな"男のために"


(嘘をついた…)


しみじみ裕子の顔が浮かび上がる。


あの可愛いい裕子が自分のために尽力をしてくれた。

涙がポロポロっとこぼれてしまった。


「お坊ちゃん。早くご自宅に帰りましょう。ご両親さまやお祖父様も心配をしております。夕飯を食べてゆっくりお風呂に入ってください」


疲れが取れたら気分もかわります。


携帯を取り出す。有能な弁護士ゆえに多忙である。


携帯を片手に弁護士はホッとするのである。この問題児さえじっとしていてくれたら重鎮の文化勲章はまずは大丈夫である。

これでしばらく自宅謹慎をしていてくれたら万々歳である。


「お坊ちゃん申し遅れました。お祖父様がいよいよ勲章を戴きます」


ハッ!

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