5話「カラーメモリアル」
車椅子の女性が消えた後、現場には重い沈黙が流れる。白斗は震える手で新しいコーヒーゼリーを開けようとするが、手が滑ってスプーンを落としてしまう。
「白斗……あんた、さっきの奴の言葉、気にしてるの?」
美咲が心配そうに声をかけるが、白斗は力なく笑って、自分の過去をポツリポツリと話し出した。
「……あいつは言ったな。色のある世界で遊んでるって。でもさ、僕にはもう、このゼリーの黒さすら分かってないんだ。」
場面は数年前、白斗の小学生時代。
放課後の教室、白斗は友人たちとババ抜きをして遊んでいた。白斗がカードを引かれ、場にペアが揃う。
白斗は直感的に叫んだ。「絶対いまババ持ってるでしょ!」
友人は笑って返す。「持ってないよ!」
その瞬間、白斗の目には、捨てられたカードの柄がフッと消えるのが見えた。
「え……?」
一瞬の事だったが、友人は図星を突かれたのか驚いて騒ぎ始める。「なんで分かったんだよ!」「異能だ!」「気持ち悪い!」
当時はまだ異能への偏見が強く、パニックになった友人が白斗を強く突き飛ばした。
運悪く白斗は後頭部を教室の角で強打し、泡を吹いて倒れ、病院へ運ばれる。
目が覚めた時、隣にいた医者が申し訳なさそうに告げた。「脳の色を識別する機能が、損傷して失われてしまった……」と。
退院する日、病院から一歩出た白斗は愕然とする。
大好きだったハンバーグも、昨日まで夢中だったアニメも、お気に入りだった服も、全部が灰色と白と黒。
「……何を見ても、心が動かないんだ。全部、死んでるみたいに見えて。」
生きる意欲を失い、高い場所から身を投げ出そうとしていた時、一人の男――探偵の師匠に声をかけられる。
「君の異能は、人を追い詰めるためじゃなく、誰かの疑いを晴らすためにある。……色がないなら、これから君が真実で塗り直せばいい。」
回想が終わり、白斗は落ちたスプーンを拾い上げる。
「……あいつの足が動かないのは、過去の僕と同じ『異能の暴走』だ。だから、僕がジャッジしなきゃいけない。あいつが自分自身に嘘をつかなくて済むように。」
美咲は黙って白斗の背中を叩き、裕也は蛇を自分の腕に這わせながら静かに頷く。
「行きましょう、白斗さん。その女の嘘、ぶっ壊しに。」
白斗はコーヒーゼリーを一口飲み込み、いつもの無機質な瞳に少しだけ鋭い光を宿した。




