表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

一話 悪いことをしたらまず謝まろう

 異世界ってのは何を僕に与えるのか。


 転生にはどんな意味があるのか。


 ふと思うことがある。


 幸せはこの世に存在するのだろうかと。


 僕が人生で本当の幸せを感じたことがあるとすれば、それはまだ足し算も知らなかった頃の話だろう。


 思想や性格はすぐに変わるし、何一つ貫くことは僕にできない。 


 そんな中、狂気というものに憧れてしまうのは極々自然なことだった。


 僕はただ、信念が欲しかった。


 僕の人生に正解が存在しなかったから。


 これが絶対に正しいと言ったことを、次の日に否定することさえあった。


 でも、だからこそ、僕は異世界に、魔法に、戦いに憧れた。


 それはそれらが死に関係するからだ。


 死は人々にとって絶対的でとても大きなものだ。


 死ぬ瞬間にこそ僕の狂気が本物だと証明できる。


 死に関わるものたちが僕の狂気を輝かせる。


 その先には必ず僕の求める何かがあるはず。


 ただそう信じていた。


*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*


 異世界での朝は早い。

 鳥の鳴き声がまだ寝ている脳を覚ましてくれる。


 僕の家は田舎の中の田舎にある。

 木の香りに包まれた部屋、あまり整備されていない庭。

 敷地とかはよくわからないけど、森の中は自由に使わせてもらってる。


 てかお母さん見送らなきゃ。


「いってらっしゃい」


「ん」


 相変わらずとてもそっけない態度だ。

 だがその態度も、彼女の美貌によって個性として成り立っている。


 僕は一人っ子だから遊び相手はいない。

 お父さんは5年前、僕が生まれるのと同時に死んでしまった。 


 赤子の頃の記憶は薄いけど、少しは残っている。

 お母さんは本当に辛そうだった。


 だけど、僕にはやることがある。

 それは魔法の特訓だ。

 魔法には詠唱や想像などがある。


 無詠唱と想像は違う。

 無詠唱あくまで、ボタン押さずに装置を発動させるだけ。だけど想像は装置を作って発動させる。


 魔法に関しては、僕はかなり詳しいと思う。

 たくさんの本を読み漁り、その全てを試してきた。

 だからこそ信憑性があるし、転生者としての視点で新たな発見ができるかもしれない。


 まあ説明するより、見せたほうがいいと思う。


「ウォーターボール」


 手のひらの先に、緩やかに渦を巻いて現れた、大玉のりんごほどの大きさの水が、木へ向かって勢いよく飛んでいった。

 その水弾はそうとてつもなく早いわけではないが、木を溶かすように貫通して、すぐに見えなくなっていった。


 水に多く魔力を込めると、その水は一時的に物を溶かす性質が強くなる。

 

 人に当たったら危ない、と、言う人もいるだろうけど問題は無い。

 ここら辺は本当に人が通らないんだ。ていうか森だしね。ポツンと一軒家だから、ほんと。

 それに万が一人が通っても、あのサイズの水弾がピンポイントで当たるなんて言う事は無い。

 うん、そんなの絶対ありえない。


「うあぁぁ!」


 …あれ?

 いやおそらく聞き間違いだろう。

 今、遠くから叫び声の幻聴を聞いてしまった。


 うん、気にしないのが1番だ。風魔法の練習しとこう。


*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*


 それは聞き間違いではなかった。

 少年の撃った魔術は大柄な男の腕に直撃していた。

 ただ、その行動は正義だった。


 ーー3分前。


 1人の少女は迷ったように、つまずいたような歩き方で、森をさまよっていた。

 少女は痩せ細っており、薄い紫色の髪が存在感を出していた。

 目には光がなく、その顔はまさに絶望を体現していた。


「あれれー? もしかして原住民の方ですか〜?」


 後ろから、馬鹿にしたような男の声が聞こえた。

 どこかの盗賊なのか、ボスのような奴と、その周りに2人下っ端のような奴らがいた。

 

 少女は振り返る事なく、歩き続けた。極度の脱水により、音が聞こえていなかったのだ。


「もしかして言葉通じないの〜?」


「おい、待てよ〜」

 

 3人は嘲笑しながら、徐々に少女との距離を近づけていく。

 何か返事しろよ、と男たちは、後ろから少女に声をかける。

 だが、一向に反応は無く、しびれを切らした男が、少女の細い腕を引っ張り、振り返らせた。


「おい……待てって言ってんだろ!」


「うお! こりゃ上物じゃねーか。そこら辺の貴族に売っ払えば、金貨10枚はもらえるな!」


「や、やめて……」


 絞り出すように声を出したが、掠れていてとても小さかった。

 脱水と空腹で、死にかけているのだから当たり前だ。

 

「あー? 聞こえねぇよ」


 少女は力を振り絞って抵抗したが、それは何もしてないのと変わらないほど弱かった。

 腕は脂肪も筋肉も限りなく少なく、あるのはもろい骨だけだ。

 

「おら行くぞ」


「い、いや…!」


 聞いているだけで喉が痛くなりそうな声だった。

 ただ、少女のその努力は焼け石に水で終わった。

 

 少女は涙を流さずに小さく泣いた。

 

 その時だった。

 男の腕が突然なくなったのだ。


「うわああぁぁぁ!!」


 男は腕を抑えてその場に倒れ込んだ。

 男の腕からは肘から先が消えていて、血が溢れ出した。

 魔力を持たない人間ならば、出血ですぐに死に至るだろう。


「ボ、ボス!!」


 下っ端たちが倒れた男の元へ駆け寄った。

 

 少女はそれを見て、すぐに走り出した。


「あ! あいつ逃げてるぞ!」


「そんなのどうでもいいぃ!! 今すぐこの腕をなんとかしろぉぉぉ!!」


 少女は転びそうになりながら、とにかく遠くへ走った。その速度は常人の徒歩より遅いものだったが、2日水分を取っていない人間としては異常なスピードだった。

 その時少女の体が、一瞬ふわっとを浮いた。


「あ…」


 上を見ると、光が差し込んだ日向の方から、渦巻いた風が飛んできていた。

 少女は恐る恐る日向へ向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ