世界はまだ生成中
「おは」
スマホの予測変換が、勝手に続きを並べる。
「よう」
「ようございます」
「よっ」
便利だ。速い。しかもだいたい当たる。
僕が次に言うことを、機械が先回りして用意してくれる。
最近は生成AIも同じだ。
会話しているように見えて、やっていることは極端に言えば“次に来そうな言葉”を選んでいるだけ。
もちろん、その「だけ」が途方もなく高度だから、こっちは会話だと錯覚する。
じゃあさ。
僕らが「時間」だと思っているものも、同じなんじゃないか。
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時間は川みたいに流れている。
普通はそう思う。
でも、たまに変な瞬間がある。
楽しい時間は一瞬で消えるのに、退屈は永遠みたいに長い。
寝落ちした夜なんて、目を閉じた次の瞬間に朝が来る。
あれは何だろう。
もし時間が「流れ」じゃなくて、
“ページ”だとしたら。
世界は一枚一枚の断片でできていて、
僕たちはそれを順番に踏んでいるだけ。
パラパラ漫画みたいに、コマが重なっていて、
僕の意識はただ次のコマへ移っていく。
でも、その移動は自分では見えない。
だって僕はコマの中にいる。
第四の壁の向こう側――ページ全体を見ることはできない。
それでも僕らは、次のページへ行ける。
なぜか?
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キャッチボールを思い出す。
飛んでくるボールを見て、僕は手を出す。
どこに落ちるか、だいたい分かる。
でも僕は毎回、重力加速度を計算しているわけじゃない。
経験で当てている。
目の前の情報から、次を予測して、身体が勝手に動く。
外れたら取り損なうし、当たれば“普通にキャッチできた”って顔をする。
それと同じように――
僕らは時間を進んでいるんじゃなくて、
予測生成された「次のページ」を踏んでいるだけなんじゃないか。
つまり、世界はこういう仕組みだ。
これまでのコマ(過去の蓄積)があって
今のコマ(入力)があって
次のコマ(予測)が選ばれる
僕らはただ、選ばれた次のページへ「いる」だけ。
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そう考えると、ちょっと怖い。
この世界ができたばかりの頃は、
予測が外れまくるページばかりだったのかもしれない。
物理法則だって、最初から綺麗に揃っていたわけじゃなくて、
揃うまで学習していたのかもしれない。
いや――
もしかしたら今も、学習中なのかもしれない。
だからたまに、世界は迷う。
「あれ、次どうするんだっけ」みたいに。
信号が一瞬だけ点滅を長引かせたり、
誰かの言葉がほんの少しだけ別の意味に聞こえたり、
昨日まで確かだった常識が、静かに書き換わったり。
気づくのはごく一部。
ほとんどの人は気づかない。
だって、ページはいつだって“現在”として提示されるから。
ログは見えない。
進捗バーも表示されない。
でも。
僕は今日も確信している。
この世界は完成していない。
バグっているのでもない。
ただ――
まだ生成中なんだ。




