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土方事務所と、新しい仲間たち

名刺を握りしめたまま、俺はアパートに戻った。


 


(ルーチェ・エンターテインメント……アイドル事務所?)


 


ネットで調べてみたが、ほとんど情報が出てこない。


 


公式サイトはあるが、更新頻度は低い。


YouTube チャンネルもあるが、登録者数は100人程度。


動画の再生回数も、せいぜい数十回から数百回だ。


 


小規模な地方事務所らしい。


 


(行くべきか……?)


 


だが、選択肢は他にない。


 


このまま監視されながら、ひっそりと生きるのか。


それとも——何か、新しい道を探すのか。


 


俺は、一晩中考えた。


 


そして、翌朝——決意した。


 


土方の事務所を訪ねることにした。


 




 


名刺に書かれた住所を頼りに、電車を乗り継いで向かった。


 


片道2時間。


都心から離れるにつれ、景色が変わっていく。


 


高いビルが消え、緑が増え——


着いた先は、のどかな田舎町だった。


 


畑が広がり、古い民家が点在している。


駅前には、小さな商店街があるだけだ。


 


(本当に、こんなところに事務所が?)


 


俺は、地図アプリを頼りに歩いた。


 


住所の場所に着くと、そこには古びた一軒家が建っていた。


木造の二階建て。


庭には、畑が広がっている。


 


(……これが、アイドル事務所?)


 


俺は、一瞬引き返そうかと思った。


だが——もう、ここまで来てしまった。


 


意を決して、インターホンを押した。


 




 


「はーい!」


 


元気な声が響き、ドアが開いた。


 


そこには——泥だらけのジャージ姿の少女が立っていた。


 


短い髪、日焼けした肌、満面の笑み。


彼女は、俺を見ると、目を輝かせた。


 


「わぁ!新しい子!?」


 


少女は、俺の手を握った。


泥だらけの手が、俺の手にベッタリとくっつく。


 


「私、金谷めぐみ!めぐりんって呼んでね!ねえ、名前は?どこから来たの?アイドル初めて?」


「あ、あの……」


 


めぐりんの勢いに、俺は圧倒された。


 


「ママー!新しい子が来たよー!」


 


めぐりんは、家の中に向かって叫んだ。


 




 


奥から、土方が現れた。


 


「あら、来てくれたのね」


「あの……」


 


土方は、微笑んだ。


 


「よく来たわ。中に入って」


 


俺は、恐る恐る家の中に入った。


 


リビングは、意外と広かった。


古い家具が並び、壁には手作りのポスターが貼られている。


 


「ここが、ルーチェ・エンターテインメントよ」


 


土方は、誇らしげに言った。


 


「小さいけど、私たちの大切な場所」


 




 


土方は、俺に椅子を勧めた。


 


「まず、聞きたいことがあるわ」


「はい……」


 


「アナタの名前は?」


 


俺は、一瞬迷った。


三島隆弘——その名前は、もう使えない。


 


「……名前は、ありません」


 


土方は、少し驚いた顔をした。


だが、すぐに納得したように頷いた。


 


「そう……じゃあ、新しい名前をつけましょう」


 


土方は、少し考えた。


 


「UMEKO。アルファベットでUMEKO。どう?」


「UMEKO……?」


 


「そう。昭和を感じさせる名前だけど、アナタにしかできないことをするには、ピッタリな名前の気がするの」


 


俺は、その名前を口にしてみた。


 


「UMEKO……」


 


不思議と、悪くない気がした。


 


「……分かりました。UMEKO、でお願いします」


 




 


土方は、満足そうに微笑んだ。


 


「じゃあ、他のみんなにも紹介するわ」


 


リビングには、二人の少女がいた。


 


一人は、黒いパンダの人形を抱きしめた、眼鏡の少女。


ヘッドホンをつけ、ノートパソコンの画面を見つめている。


 


彼女は、チラリとこちらを見た。


 


「……星野さくら。よろしく」


 


ぶっきらぼうな口調だが、その目は俺をじっと観察していた。


 




 


もう一人は、無表情の少女。


ピアノの前に座り、静かに鍵盤を撫でていた。


 


「天野ユキ。よろしく」


 


静かな声だが、どこか儚げな雰囲気があった。


 




 


土方は、全員を見渡した。


 


「これで、ルーチェ・エンターテインメントは4人になったわ」


 


めぐりんが、嬉しそうに拍手した。


 


「やったー!うめちゃん、これからよろしくね!」


 


さくらは、小さく頷いた。


ユキは、わずかに微笑んだ。


 


俺は、この奇妙な仲間たちを見て——


初めて、少しだけ、心が軽くなった気がした。


 


(ここが……俺の居場所に、なるのかもしれない)

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