表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/14

ライブ直前と、それぞれの想い

ライブ3日前。

 

土方が、全員を集めた。

 

「衣装が届いたわよ」

 

大きな段ボール箱が、リビングに運ばれてきた。

 

開けてみると、そこには——

それぞれの個性を活かした、オリジナルの衣装が入っていた。

 

めぐりんの衣装は、農業をイメージした、明るい緑とオレンジの組み合わせ。

ユキの衣装は、ピアノをイメージした、白と黒のエレガントなドレス。

 

そして、UMEKOの衣装は——

月明かりをイメージした、淡い青と銀のワンピース。

 

「わぁ……綺麗……」

 

めぐりんが、目を輝かせた。

 

 

俺も、その衣装を手に取り、胸が高鳴った。

 

(これを着て、ステージに立つのか……)

 

土方は、全員を見渡した。

 

「さあ、準備は整ったわ。あとは、本番を迎えるだけ」

 

その夜、俺は一人で部屋にいた。

 

窓の外を見ると、満月が輝いていた。

 

(あの夜、露天風呂で歌った時の月と同じだな……)

 

俺は、自分の手を見つめた。

細くて、白い、女性の手。

 

(俺は、本当にこのままでいいのか?)

 

元の体に戻りたい——その気持ちは、まだ消えていない。

 

だが、同時に——

 

(今の仲間たちとの時間も、大切だ)

 

 

その時、ノックの音がした。

 

「UMEKO、起きてる?」

 

土方の声だった。

 

「はい、どうぞ」

 

土方が、部屋に入ってきた。

 

「緊張してる?」

 

「……少し」

 

土方は、俺の隣に座った。

 

「大丈夫よ。アナタなら、きっとできる」

 

「でも……俺、いや、私……」

 

俺は、言葉に詰まった。

 

土方は、優しく微笑んだ。

 

「UMEKO、アナタは自分が思っているよりも、ずっと強いわ。そして、ずっと優しい」

 

「……」

 

「アナタは、仲間を大切にしてる。それが、一番の才能よ」

 

俺は、土方の言葉に救われた気がした。

 

「ありがとうございます、ママ」

 

土方は、立ち上がった。

 

「さあ、明日も練習があるから、ちゃんと寝なさい」

 

「はい」

 

 

ライブ前日。

 

全員で最後のリハーサルを行った。

 

めぐりんの歌、ユキのピアノ、そして俺の歌——

全てが、少しずつ形になってきていた。

 

「よし、完璧ね」

 

土方は、満足そうに頷いた。

 

「明日は、早起きよ。朝8時に出発するから」

 

「はーい!」

 

めぐりんが、元気よく返事をした。

 

 

リハーサルが終わると、土方が全員を見渡した。

 

「みんな、ちょっと集まって」

 

全員が、テーブルを囲む。

 

土方は、少し真剣な顔で話し始めた。

 

「明日のライブ、私たちにとって初めての大舞台よ。でもね、結果なんてどうでもいいの」

 

「え?」

 

めぐりんが、首を傾げた。

 

「大事なのは、アナタたちがそれぞれ、自分の力を出し切ること。失敗してもいい。間違えてもいい。ただ、全力で楽しみなさい」

 

土方の言葉に、全員が頷いた。

 

「私たちは、大手事務所みたいに完璧を求めない。私たちは、不器用でも、泥臭くても、ただ『自分らしく』輝けばいいの」

 

土方は、一人一人の顔を見つめた。

 

「めぐ、アナタの明るさは、誰にも真似できない宝物よ」

 

「はい!」

 

めぐりんが、涙ぐみながら答えた。

 

「ユキ、アナタのピアノは、人の心を癒す力がある」

 

「……頑張る」

 

ユキが、小さく頷いた。

 

「さくら、アナタの細やかな気配りが、みんなを支えてる」

 

「……別に」

 

さくらは、そっぽを向いたが、その目は少し潤んでいた。

 

「そして、UMEKO——」

 

土方は、俺を見つめた。

 

「アナタの歌声は、きっと誰かの心を救う」

 

俺は、その言葉に胸が熱くなった。

 

 

その夜、全員で夕食を囲んだ。

 

土方が、全員を見渡した。

 

「みんな、よく頑張ったわ。明日は、楽しんできなさい」

 

「はい!」

 

全員が、声を揃えた。

 

食事の後、めぐりんが提案した。

 

「ねえ、みんなで写真撮ろうよ!」

 

「いいわね」

 

土方が微笑んだ。

 

全員が集まって、スマホのカメラに向かう。

 

パシャリ。

 

シャッター音が響く。

 

画面には、少し緊張しながらも、笑顔の5人が映っていた。

 

 

その夜、俺は再び窓の外を見つめた。

 

(明日……初めてのライブか)

 

不安もある。

 

だが、それ以上に——

 

(みんなと一緒なら、きっとできる)

 

そう思えるようになっていた。

 

俺は、深呼吸をして、ベッドに横になった。

 

(よし……やるぞ)

 

三島隆弘、46歳の元事務員は——

初めて自分の意志で、前に進もうと決意した。

 

 

翌朝——

 

ライブ当日。

 

俺が目を覚ますと、まだ朝の5時だった。

 

緊張で眠れなかった。

 

リビングに降りると、既に土方が起きていた。

コーヒーを淹れながら、窓の外を見つめている。

 

「ママ……早いですね」

 

「あら、UMEKO。アナタも眠れなかった?」

 

土方は、優しく微笑んだ。

 

「コーヒー、飲む?」

 

「はい」

 

俺は、土方の隣に座った。

 

しばらく、二人で静かにコーヒーを飲んだ。

 

「……ママ、怖くないんですか?」

 

俺は、ふと尋ねた。

 

「怖い?」

 

「ライブが失敗したら……誰も来てくれなかったら……」

 

土方は、少し考えてから答えた。

 

「怖いわよ。でもね、UMEKO。失敗を恐れて何もしないより、挑戦して失敗する方が、ずっと価値があるの」

 

土方は、コーヒーカップを置いた。

 

「私ね、昔のアイドル時代、失敗を恐れすぎて、自分を見失ったの。事務所の言いなりになって、自分の歌を歌えなくなった」

 

土方の目に、少し悲しみが浮かんだ。

 

「でも、今は違う。アナタたちと一緒なら、失敗しても笑える。それが、私の幸せなの」

 

俺は、その言葉に——

何か、大切なものを感じた。

 

「……ありがとうございます」

 

「さあ、みんなを起こしましょ。今日は、大事な日よ」

 

土方は、立ち上がった。

 

 

朝7時。

 

全員が集まり、朝食を取った。

 

めぐりんは、いつもより少し緊張した顔をしている。

ユキも、いつもより静かだった。

さくらは、黙々と音響機材のチェックをしていた。

 

「じゃあ、出発するわよ」

 

土方の声に、全員が頷いた。

 

俺は、自分の胸に手を当てた。

 

心臓が、ドクドクと鳴っている。

 

(いよいよ、だな……)

 

全員で車に乗り込む。

 

商店街へ向かう道中、誰も言葉を発しなかった。

 

だが、その沈黙は——

 

決して重いものではなく、むしろ、お互いを信じ合う、温かい沈黙だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ