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ライブへの準備と、さくらとの絆

その日の午後から、ライブの準備が始まった。

 

リビングの真ん中に、簡易的なステージスペースが作られた。

 

「まず、セットリストを決めるわよ」

 

土方は、ホワイトボードに曲名を書き始めた。

 

「1曲目は、めぐの『田園メロディ』。明るくて、観客を引き込みやすい」

 

「はい!」

 

めぐりんが、元気よく返事をした。

 

「2曲目は、ユキのピアノソロ『月の光』。落ち着いた雰囲気で、観客を癒す」

 

ユキは、静かに頷いた。

 

「そして、3曲目……」

 

土方は、俺を見つめた。

 

「UMEKOの『星に願いを』。これが、メインよ」

 

「え、メイン……?」

 

「そう。アナタの歌声が、今回のライブの目玉になるわ」

 

俺は、プレッシャーを感じた。

 

(俺が、メイン……?)

 

 

「最後は、全員で『ルーチェの歌』を歌うわ。これは、私たちのオリジナル曲」

 

「オリジナル曲……?」

 

めぐりんが、首を傾げた。

 

土方は、にっこりと笑った。

 

「これから作るのよ。みんなで」

 

その夜、全員でオリジナル曲の制作に取り組んだ。

 

「テーマは、『それぞれの輝き』よ」

 

土方が、ギターを手に取った。

 

「私たちは、みんな違う。でも、その違いが、一つになった時に、大きな光になる。それを歌にするの」

 

 

めぐりんが、歌詞のアイデアを出した。

 

「『畑で歌う私』『画面の向こうの私』『ピアノと共にいる私』……みたいな感じ?」

 

「いいわね。それぞれの個性を活かした歌詞」

 

さくらが、メロディのアイデアを出した。

 

「……サビは、明るく、でも少し切ない感じがいいと思うわ。人それぞれの孤独を乗り越えて、繋がる感じ」

 

ユキが、ピアノで簡単なメロディを弾き始めた。

 

それは、優しくて、温かい音色だった。

 

「……これ、いいじゃない」

 

土方が、そのメロディに合わせて歌詞を紡ぎ始めた。

 

俺は、その光景を見ながら、胸が熱くなった。

 

(みんなで、一つのものを作り上げていく……)

 

それは、46年間の人生で、一度も経験したことのないことだった。

 

 

翌日から、厳しい練習が始まった。

 

めぐりんは、ダンスの練習に励んだ。

 

「うめちゃん!ここの振り付け、一緒にやろうよ!」

 

俺は、めぐりんと一緒に、ぎこちないながらも踊った。

 

ユキは、ピアノの練習を続けた。

 

「UMEKO、私のピアノに合わせて、歌ってみて」

 

俺は、ユキのピアノに合わせて歌った。

二人の音が重なった時、何か特別なものが生まれた気がした。

 

 

さくらは、裏方として音響や照明の勉強をしていた。

 

「……このタイミングで、スポットライトをUMEKOに当てるのがいいわね」

 

俺は、さくらの細かい配慮に感謝した。

 

「ありがとう、さくら」

 

「……別に、当たり前のことをしてるだけよ」

 

さくらは、そっぽを向いたが、その耳は少し赤かった。

 

 

練習3日目の夜。

 

リビングでは、めぐりんとユキが振り付けの確認をしていた。

土方は、衣装の手配で電話をしている。

 

俺は、少し疲れて部屋に戻ろうとした時、さくらが一人でノートパソコンに向かっているのが見えた。

 

「さくら、まだ作業してるの?」

 

「……うん。音響チェックのプログラム組んでるの」

 

俺は、その隣に座った。

 

「無理しなくていいんだよ?」

 

「……大丈夫。これくらい」

 

さくらは、少し疲れた様子で画面を見つめていた。

 

「……ちょっと、息抜きしない?」

 

さくらがそう言って、別のウィンドウを開いた。

 

画面には、見覚えのあるゲームが表示された。

 

「……『エターナル・クエスト』。戦略ゲーム。ちょっとだけ対戦しない?」

 

 

(あ、これ知ってる。昔、暇つぶしにやってたな)

 

「いいよ。でも、私そんなに上手くないから……」

 

「……いいから。ちょっとだけ」

 

さくらは、もう一台のノートパソコンを取り出し、俺に渡した。

 

(まあ、少しくらいなら……息抜きも必要だよな)

 

ゲームは、リアルタイムストラテジー系の対戦ゲームだった。

お互いに資源を集め、ユニットを生産し、相手の本拠地を破壊するというシンプルなルールだ。

 

「じゃあ、始めるわよ」

 

さくらの声と同時に、ゲームが始まった。

 

 

最初の数分間は、俺も様子を見ていた。

 

(確か、このゲームは序盤の資源管理が重要だったな……)

 

だが——徐々に、俺の中で何かが目覚め始めた。

 

46年間、事務員として培ってきた「効率化」と「先読み」の能力が、無意識のうちにゲームに活かされていく。

 

資源の管理、ユニットの配置、敵の動きの予測——

全てが、まるでパズルのように頭の中で組み立てられていく。

 

(あ、この配置なら……こっちのルートから攻めれば……)

 

俺は、淡々とキーボードを操作した。

 

気づけば、さくらの本拠地に攻め込んでいた。

そして——

 

「勝利」の文字が、俺の画面に表示された。

 

 

「……え?」

 

俺は、自分でも信じられないという顔で画面を見つめた。

 

さくらは、完全に沈黙していた。

その目は、画面に釘付けになっている。

 

「……嘘でしょ」

 

さくらの声は、いつもの毒舌ではなく、純粋な驚きに満ちていた。

 

「私、このゲームで負けたの初めてなんだけど……」

 

「えっ!?ごめんなさい!」

 

俺は慌てて謝ったが、さくらは首を振った。

 

「……謝る必要はないわ。それより」

 

さくらは、じっと俺を見つめた。

 

「アナタ、本当に少ししかやったことないの?」

 

「いや、昔は結構やってたけど……でも、もう何年もやってなくて……」

 

「嘘ついてるんじゃないの?この戦略の組み立て方、相当やり込んでないと出来ないわ」

 

 

さくらの目は、疑いではなく、純粋な興味に満ちていた。

 

「資源管理が完璧すぎる。無駄な動きが一切ない。それに、私の攻撃パターンを3手先まで読んでた。普通、そんなことできないわ」

 

俺は、戸惑った。

 

(そんなつもりはなかったんだけど……)

 

さくらは、黒いパンダの人形をギュッと抱きしめた。

 

「……面白い」

 

「え?」

 

「アナタ、面白いわ。もう一回、対戦しましょ」

 

さくらの声には、いつもの毒舌が消えていた。

代わりに、子供のような純粋なワクワク感が滲み出ていた。

 

 

それから、二人は何度も対戦を繰り返した。

 

勝ったり負けたりを繰り返しながら、さくらの表情が次第に柔らかくなっていく。

 

「……そこ、惜しかったわね。もう少し早く攻めてれば勝てたのに」

 

「そ、そう?……」

 

「でも、その判断は悪くないわ。普通はそこで守りに入るもの」

 

さくらは、いつの間にか俺に的確なアドバイスをしていた。

そして、時折見せる小さな笑顔が、彼女の本来の姿を垣間見せていた。

 

(この子、本当は優しいんだな)

 

俺は、そう思った。

 

 

対人恐怖症で、画面越しでしか人と話せないさくら。

 

でも、ゲームを通じて、彼女は確かに心を開き始めていた。

 

「……ねえ、UMEKO」

 

さくらが、ふと真剣な顔で言った。

 

「アナタ、もしよかったら……私の配信、手伝ってくれない?」

 

「え?」

 

「VTuberの配信。一人でやってるけど、たまにゲスト呼びたいなって思ってたの。アナタとなら……面白い配信ができそう」

 

さくらの目は、初めて俺をまっすぐに見つめていた。

 

俺は、少し戸惑いながらも、頷いた。

 

「……いいよ。ライブが終わったら、ね」

 

さくらは、小さく微笑んだ。

 

「……ありがと。約束ね」

 

その言葉は、とても小さくて、でもとても温かかった。

 

 

その夜、俺は一人で部屋に戻った。

 

(さくらも、少しずつ変わってきてる)

 

めぐりん、ユキ、さくら——

みんな、それぞれのペースで、前に進んでいる。

 

そして、俺も——

 

(ここで、仲間と一緒に、成長してるんだな)

 

窓の外を見ると、星が輝いていた。

 

あと数日で、初めてのライブ。

 

不安もある。

だが、それ以上に——

 

(みんなと一緒なら、きっとできる)

 

俺は、そう信じ始めていた。

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