17話 ノクトの過去
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ヴァルグランの激しい魔法をノクトが闇属性の炎で飲み尽くす。
「ノクト。どうして魔王様を殺したんだ?貴様は魔王の子だ。いずれは良い立ち位置を貰えていただろう。どうして実の父を殺した?」
「俺は母との約束を果たしたかった‥‥‥」
「母との約束?なんだそれは?」
ノクトは幼い頃、ずっと母と二人で貧しい生活を送っていた。小さな国にある小さな村。ノルヴァ村。そこでノクトの母と魔王は恋に落ちた。
ノクトの母は村一番の美女と言われていた。黒髪は腰までまっすぐ。光を受けると、糸のように細くやわらかく揺れる。
肌は淡く白く、長い睫毛の下で黒い瞳が静かに笑う。鼻筋はすっと通り、口元は小さく整っている。歩けば裾がふわりと遅れてついてきて、振り返る仕草まで上品。声は少し低めで、囁くと耳に残る。そして誰よりも優しい性格だった。
そんな母が旅をしていた魔王と恋に落ちた。魔王は大きな戦いを終えた後で、体中が傷ついていた。
母は今にも倒れそうな魔王を心配して、家に連れて帰って手当てをした。少し話すだけで優しさが溢れてくる。魔王はそんな母に恋をした。そして二人はノクトを授かったのだった。
しかし魔王はノクトが生まれてから少し経った後、ノルヴァ村から去ってしまった。
ノクトの母はひどく悲しんだ。突然に夫が去った。理由が何も思い浮かばない。昨日までは仲睦まじかったはずだ。
母は絶望した。しかし今は自分一人だけではない。守らないといけない存在。ノクトがいる。母はノクトが物心つくまで、一生懸命に働きながらノクトを一人で育て上げた。
ノクトは優しい母のことが大好きだった。ときどきノクトは父のことを聞いた。すると母はいつも「ノクトのお父さんは、凄く優しくて真面目で素敵な人だったのよ。」と答えた。
ノクトたちは貧しいながらも幸福な生活を送っていた。しかしその幸せも一変した。ノクトが魔王の子であると言う噂がどこからか流れたのだった。
母は夫が魔王であることを知らなかった。そしてその噂が流れてからというもの、母は働き口がなくなった。話してくれる人さえいなくなってしまった。そしてひどい嫌がらせも毎日のように受けたのだった。
貧しさはどん底だった。周囲の虐めからくるストレスと、餓死するかもしれない貧窮に対する不安から、ノクトの母は見る見るうちに弱っていった。
ノクトはそんな母を見て、何か上手いもの食べさせてあげたいと考えた。そしてノクトは他の人の家から食材を盗んだ。母はきっと喜んでくれる。幼い彼はそう思った。しかし母はノクトが盗みを働いたと知って、ノクトを叱ったのだった。おそらくノクトはこのときに初めて母に叱られたのだった。
「どうして?このままじゃ母さんは死んでしまうよ。」
「だからと言って人のものを盗むのは駄目なんだよ。」
「でもみんな僕たちに嫌がらせをしてくるじゃないか!僕たちは何も悪いことをしていないのに!そんな奴らのものなんか、盗んじゃえばいいんだ!」
「ノクト。それは違うの。例え自分がどんなに酷いことをされたとしてもね、自分だけは正しい行いからブレちゃいけないの。
自分の環境がどんだけ変わってもね、自分の心は変えないことができるでしょ?だからノクトはいつでも人に優しくいるのよ。この世界で1番に偉い人は、優しい人なんだからね。」
ノクトはあのときの記憶を鮮明に覚えている。母は本当に優しい人だった。自分が飢えのために死にかけたとき、母はとうとう自分の体を売ることを選んだ。
それでもノクトたちは裕福にはなれなかったが、困窮のために死んでしまうことはなくなった。しかしノクトの母はとうとう病気で亡くなってしまったのだった。
ノクトは常日頃から母の口癖だった言葉を覚えている。
「優しい人になりなさい。」とノクトは常に言い聞かされた。
「私は自分が生きる世界が、優しい世界であって欲しい。」
ノクトは温かな笑顔で希望を語る母をいつも思い出した。母は病気で亡くなるまで、ずっと村の人による酷い嫌がらせを受け続けた。それでも母は他人に対して、恨み言の一つも言ったことがなかった。
ノクトはそんな母を誇りに思っていたのだ。そして母が亡くなる前の最期の言葉。
「ノクト。この世界を優しい世界にして欲しい。」
ノクトはこの言葉を決して忘れたことがなかった。
ノクトは母が亡くなって絶望した。まだ幼い頃だ。魔法も一つとして使えなかった。ノクトは母を追って自殺しようかとも考えた。そもそも食料を確保する術がないノクトが死んでしまうのは時間の問題だった。
ノクトは見る見るうちに弱っていく。そんなノクトを救い出したのがヴァルグランだった。魔王からの使いで、ノルヴァ村にやってきたのだった。ヴァルグランは飢え死にをしそうな幼子を救い出して、魔王城に連れていった。
ノクトは魔王城に連れて来られた日から、地獄の日々を過ごすことになった。魔王軍の精鋭たちによる厳しい訓練。
普通の人間ならば堪えられないだろう地獄の訓練の数々を、ノクトは持ち前のセンスでこなしていった。そしていつの間にか魔王軍で有数の魔法使いになっていたのだった。
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