表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
救世の闇魔法  作者: なまけもの先生
冒険の始まり編
16/39

16話 六魔星ヴァルグラン

「ようこそ、ザルベック城へ。君とは初めましてだな。」


 エリシアはずっとヴァルグランを睨んでいる。


「ザイモンを倒したそうだな。彼は強かった。だから君の力は認める。


 だがザイモンを倒したからといって図に乗るな。彼と俺とでは力の差がありすぎる。」


「世界最強の火属性魔法使い‥‥‥あなたのことは噂でしか聞いたことがないわ。


 とんでもないマナがあなたに流れている。でも負けない。私はこの世から六魔星と新魔王を粛清する。」


「やれるものならやってみろ。君の兄でもできなかったことだ。果たして君にできるだろうか?」


「やってみせる。粛清を始めるわ。」


 エリシアは聖剣を握って踏み込んだ。その速さは凄まじい。腰の回転と同時、白い弧が描かれる。


聖刃一閃せいじんいっせん!」


鋭い白弧が玉座まで一直線に走った。するとヴァルグランが指を弾いた。


紅蓮界域ぐれんかいいき。」


半径二十メートルの陽炎が立ち、斬光は三割ほど痩せて柱を浅く削るだけで止まった。刃の縁が焦げる。


 間髪入れず、エリシアの背に光輪が七つ並ぶ。


聖滅七光せいめつしちこう!」


白金の巨矢が七条、ヴァルグランに向かって一直線に走る。


ヴァルグランは掌を伏せ、低く呟く。


白焔天びゃくえんてん。」


 彼の前に薄い白焔が面となって滲む。音が消えた。

 

 最前の矢が触れた瞬間、穂先から無音で欠け、芯が霧のように蒸散する。


二本、三本と触れるたび、矢は接触点から短くなり、五本目で束がぷつりと断たれた。


 

 減衰した残り二本の余波だけが階段に届き、段鼻がさらさらと砂化して崩れる。


 白焔は痕跡を残さず消え、掌の前に熱の揺らぎだけが残った。



 エリシアは側面へ滑り込み、足元の輪光を爆ぜる低姿勢突進をする。唱えた魔法は、聖輪破突せいりんはとつ


 だがヴァルグランの高熱魔法によって、床がガラスみたいに溶けて固まっている。そのために床が靴に絡んで半歩の失速。


 その刹那、ヴァルグランの掌から炎鎖皇掌えんさこうしょうが放たれた。


 赤熱の鎖がエリシアの手首と足首を貫き、焼き締める。


 エリシアの全身を流れる光のマナが、鎖の高熱から彼女を守る。しかし焼き締まる鎖の威力は強く、エリシアは悶え苦しむ。


 そして苦悶しながらも彼女は魔法を唱えた。


 

 エリシアは柄の根元を光らせる。


聖光解鎖せいこうかいさ。」


米粒ほどの閃きが結び目だけをはじき、赤熱の鎖が落ちた。


 ふと天井の一点が白く点いた。空気が「キン」と鳴る。熾天焦雷してんしょうらい


 直径三メートルの白い雷柱が、真上からまっすぐ落ちる。


 エリシアは剣を盾に、聖環多重せいかんたじゅうを六枚重ねた。重なった透白円盤が現れる。


 そして一枚目が砕けた。二、三、四、五、六――受けきれず、エリシアは残った衝撃で壁まで吹き飛んだ。


 

 エリシアは膝をつく。掌は焼け、聖剣の輝きが一段落ちる。


 ヴァルグランは一歩だけ進む。足跡の周りに焔が花のように開いていた。



 激しい魔法の戦いが続く。刃と焔が交錯。光と焔が衝突する。激しい音が玉座の間を走った。


 ヴァルグランは手刀を横に払った。


紅蓮衝波ぐれんしょうは。」


 床面の赤い波が押し寄せ、エリシアの足を前から削る。


 彼女は剣で受けて一歩下がる。二度目、三度目――受け切れず、肩が揺れた。


 掌が静かに伏せられる。


白焔天びゃくえんてん・点刻。」


 白い焔点が肩口を刺し、外套に小穴が開く。熱が皮膚を焼き、力が抜ける。


 

 エリシアは踏み直し、角度を変えて三弧の連撃を試みた。


聖刃連鎖せいじんれんさ!」


 一撃目でヴァルグランの肩布を焦がす。二撃目はすぐさま発動された紅蓮界域ぐれんかいいきの魔法で薄まり、三撃目は焔の低い押し波に弾かれた。


 激しい戦いが繰り広げられる。そして時間と共にエリシアは劣勢になっていく。


 ヴァルグランの涼しい表情に比べて、エリシアの体に積もるゆくダメージは対照的すぎた。そしてエリシアはヴァルグランの魔法に吹き飛ばされた。


「見事だな。だがその力では六魔星は倒せない。まだまだ未熟だ。俺の足元にも及ばない。諦めて国に帰れ。命まで奪おうとは思わんからな。」



 エリシアは立ち上がる。剣先が僅かに震えていた。

 

 もう一撃――と踏み込むが、動きがあからさまに遅くなっている。


 ヴァルグランが数々の強力な魔法を放つ。エリシアは彼の攻撃を防ぎきれない。このまま戦いを続けてもエリシアに勝ち目はなかった。


 ヴァルグランはトドメを急がない。掌を下ろし、ただ視線で圧をかける。


「ここで終わりにしておけ。別に君を殺したくはない。生きながらえれば良い。もっと強くなってから挑んでこい。」


 エリシアは歯を食いしばり、白い弧を一つ。


聖刃一閃せいじんいっせん。」


 正面ではなく床へ。飛沫のような光で間合いを切り、距離を取る。


 扉まで数歩。肩で息をしながら、剣を胸前に戻す。

 圧倒されている。


 これが六魔星の実力。でも退けられない。このまま諦めるくらいなら死ぬほうがマシだ。


 

 焦げた息を吐き、エリシアは柄を握り直した。劣勢――それでも退かない光が、細く、確かに残っている。


 「このまま引かないならもう次で死んで貰う。」


「死ぬのはあなたよ。」



 ヴァルグランが指を鳴らす。床一面に紅蓮の輪、中心が白く潰れて無音になった。


熾印縛解しいんばくかい――白焔魔人びゃくえんまじん降臨こうりん。」


白い核が立ち上がり、紅蓮の甲殻が鎧のように噛み合う。


 十メートルの影が玉座の間を覆い、熱だけが音になる。魔人がエリシアに向かう。


 エリシアはその強大な魔力に恐れを抱いた。これが世界最強の火属性魔法使いと言われる者の実力。



 強大な白焔の魔人がエリシアに襲いかかろうとした。その時――魔人が突如現れた黒焔によって燃え上がる。魔人は悲鳴を上げながら、黒焔によって塵となった。魔人の保つ強大な焔さえ、黒焔は容赦なく焦がしてしまった。


「久しぶりじゃないか、ノクト。生きていたのか。」


「ひさしぶりだな。ヴァルグラン‥‥‥」


 二人は真剣な眼差しで睨み合う。六魔星と魔王の子。元師弟同士関係のぶつかり合いが始まる。場は激しい爆発で風が吹いたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ