第2話~仮面の下の震え
最初の数週間、数ヶ月は、与えられた役柄を演じることに必死だった。朝には謁見の間で人々の訴えを聞き、昼には裁判を主宰し、その公正な裁きで人々の信頼を得た。午後は各地の視察に赴き、時には市井の人々と語らい、彼らの生活に寄り添う姿勢を見せた。夕方には劇場で催される公演に姿を現し、その優雅な振る舞いで喝采を浴びた。彼女の演技は、誰にも見破られることのない、完璧なものだった。
昼間、大衆の前に立つ彼女は、まさに神そのものだった。彼女の言葉は法となり、彼女の命令は絶対であった。人々は彼女を崇め、信じ、その存在に希望を見出した。彼女の心は、人々の純粋な信仰によって満たされるように感じた。その瞬間は、確かに心地よく、孤独を忘れさせてくれるものだった。
だが、夜が来ると、彼女はひっそりと神殿の奥にある、誰も知らない私室へと戻った。煌びやかな衣装を脱ぎ捨て、鏡の前に立つと、そこにはただ、小さな体が震える、一人の少女がいるだけだった。
「これで……よかったの、かしら?」
自らに問いかける声は、ひどくか細い。昼間の自信はどこへやら、その瞳には不安が色濃く浮かんでいた。完璧な演技の裏で、心臓は狂ったように鼓動を打つ。胸の奥底から込み上げる、言いようのない恐怖。それは、未来への漠然とした不安か、それとも己の欺瞞に対する罪悪感か。
彼女は、まだ鮮明に覚えていた。分け与えられた「神性」が、自分に与えた使命を。そして、「人間性」が、その重みに悲鳴を上げ始めていることも。この舞台は、たった一人で演じなければならない。誰にも頼れず、誰にも打ち明けられない。
この500年の幕開けは、栄光と、そして深い影を同時に抱えていた。彼女は、まだ知らなかった。この「震え」が、これからどれほど深く、長く、彼女の魂を苛むことになるのかを。