～プロローグ～
この物語を手に取ってくださった、あなたへ。
ページを開いてくださり、ありがとうございます。これから始まるのは、一人の存在が背負った、途方もない五百年の物語です。
それは、神としての「役割」と、人間としての「弱さ」の間で揺れ動きながら、決して終わりが見えない孤独な舞台を演じ続けた、壮大な歳月の記録です。悠久の時が流れゆく中で、感覚は麻痺し、感情は薄れ、それでも確かに存在した「個」の輝きを、私はこの物語の中で追い求めました。
これは、特定の世界の物語であると同時に、普遍的な「使命」と「犠牲」の物語でもあります。運命に翻弄されながらも、抗い、そして信じ続けた、たった一つの魂の軌跡を、あなたと共に辿ることができれば幸いです。
どうか、この「悠久の五百星霜」の旅路を、心ゆくまでお楽しみください。
深き源流より湧き出ずる根源の意志が、地上の空へと達した時、それは生を受けた。
純粋なる世界の摂理を纏いながらも、その魂はあまりにも若く、そして脆かった。彼女は、自らを「統治者の象徴」たる神性と、やがて来るべき試練を欺くための「人間の姿」とに、その存在を分かたれた。それは、この世界を守るという使命のために、彼女自身が選んだ、あるいは定められた、あまりにも過酷な道だった。
最初の瞬間、彼女は何も知らなかった。ただ、目の前には、途方もない重圧と、理解しがたい「終わり」の予言が横たわっていた。この世界は、原始の混沌へと還る運命にある。人々は、その本質を審判され、消え去るだろう。その絶対的な未来を回避するため、彼女は演じ続けなければならなかった。完璧な統治者として、偉大なる神として。
今日から、500年の長きにわたる、孤独な舞台が幕を開ける。
それは、想像を絶する歳月だった。
悠久の五百星霜。
天の星が五百度巡り、地の霜が五百度降り積もる。その間に、世界は何度その姿を変え、人々はどれほどの生と死を繰り返しただろうか。しかし、華やかな劇場の中心で、あるいは人々の視線が届かぬ奥深くで、彼女は決して変わることなく、ただひたすらに、その役割を演じ続けた。
時に、その演技は完璧すぎて、人々は彼女の奇妙な振る舞いを理解できなかった。時に、その孤独は深すぎて、彼女の心は砕け散りそうになった。嵐の夜も、輝かしい祝祭の日も、彼女の心臓は激しく打ち鳴らされる太鼓のように、恐怖と使命感の間で揺れ動いた。毎夜、膝を抱えて震えながら、彼女は静寂の中で、己が本当は何者なのかを問い続けた。統治者の座にありながら、その魂はあまりに人間的で、弱く、それでも強くあろうとした。
彼女は知っていた。この終わりの見えない芝居の果てに、真の「清算」が待っていることを。そして、もしその演技が失敗すれば、この世界のすべてが失われることを。
これが、この世界を救うための、ただ一つの道だった。
そして、これは、神としての役割を全うするために、人間性を犠牲にした、一人の存在の、途方もない物語の始まりだった。
「悠久の五百星霜」を最後まで読み終えてくださり、心より感謝申し上げます。
この物語は、一人の存在が背負った、想像を絶する孤独と使命を描きたいという思いから生まれました。500年という途方もない時間を、彼女がどのように感じ、何を思い、そしていかにして耐え抜いたのか。その内面の変遷、特に時間が経つにつれて感覚が「盲目的」になっていく描写は、私自身も筆を進めながら、深く考えさせられる部分でした。
彼女の苦悩、葛藤、そして微かな希望が、少しでもあなたの心に響いたなら、これほど嬉しいことはありません。これは、特定の誰かの物語であると同時に、私たち自身の「役割」や「試練」、そして「犠牲」について考えるきっかけとなれば、と願っています。
物語を紡ぐ中で、フリーナという存在が、時に私の手を離れて自らの意志で動き出すかのような感覚を覚えることもありました。彼女の強さと脆さ、そして何よりもその人間性（たとえそれが演技であったとしても）に、私自身が深く心を動かされたことを、ここで告白させてください。
この長い旅路に、最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
願わくば、この物語があなたの心に、何か温かいもの、あるいは深く考えるきっかけを残せたなら幸いです。
