3. 夢と現実
みんな、僕の小説を読んでくれて本当にありがとう!
本当に僕にとって大きな意味があるんだ!
もしよければ、ぜひこの作品をブックマークしてね。
そうすれば、自分だけのために書いているわけじゃないって分かるから!
俺はその少女に近づいた。
彼女は絶望のあまり泣きながら、母親を起こそうとしていた。自分の傷にも気づいていないようだった。
俺は彼女の隣にしゃがみこんだ。すると、彼女は俺に視線を向けた。小さな目には痛みと苦しみが溢れていた。彼女は、俺なら母親を目覚めさせられるかもしれないと期待して見つめていた。
でも、俺にはできなかった。
代わりに、俺は彼女の手を取り、ポケットに入っていたキーホルダーを渡した。
それは母さんが試験の前にくれたものだった。お守りみたいなもんだ。
そのアクリル製のキーホルダーには、どこかのアニメの女子高生が描かれていた。
銀色の髪に大きな青い瞳。真っ白なドレスを着て、赤いリボンを首に付けたサロペット姿の白いぬいぐるみ猫を抱きしめていた。少女の頭には大きな花冠が乗っている。
俺はそのキーホルダーを彼女の手のひらに乗せ、そっと握らせた。
彼女はそのキーホルダーをうっとりとした目で見つめていた。気に入ったみたいだった。
彼女がキーホルダーを見ている間、俺はそっと彼女の頭に手を置いた。すると、彼女はまた俺を見上げた。
「大丈夫だよ……」
俺は彼女に嘘をついた。
何が「大丈夫」だ。
母親はもう戻ってこない。彼女自身も怪我をしている。
病院で手当を受けられるとも思えないし、このままじゃ治るまで時間がかかるだろう。
もうあの無邪気な日常には戻れない。誰だって、もう戻れない。
俺の立場なら、普通は彼女の傷の手当くらいしてやるべきだろう。
せめてガラスの破片を取り除いて、何かで巻いてやるくらいは。
でも、俺にはできない。
刻も早く自分の家に戻って、両親の無事を確かめないと。
俺が立ち上がったその瞬間、鋭い痛みが身体を走った。
―くそ、左のあばら、折れてるな。
だが、悪いことはそれだけじゃなかった。
歩き出そうとした途端、まともに歩くことすらできないと気づいた。走るなんてもってのほかだ。
視線を右足に落とした。
太ももにでかいガラスの破片が突き刺さってる。
「……ったく、ふざけんなよ。」
ここから家までは歩いて二十分くらいか。この足でその時間に間に合えば、奇跡だな。
今はまだガラスを抜けない。止血するものがないし。家に何かあるだろうから、それまで我慢するしかない。
走れるだけ走った。
走っている間、頭の中にいろんな考えが渦巻いていた。
「もう終わりなのか? 俺が夢見てたピアニストの人生はどうなる? ただ普通に生きたかっただけなのに。結婚して子供を作って、オーケストラで演奏してさ。何も特別なことなんて望んでなかったんだ。それすら叶わないのか? どうして…どうしてこんなことに…!」
もうどうでもいい。もう、全部終わったんだ。
もう幸せな人生なんて歩めない。
もう目標も、計画も、夢も、何一つ叶わない。
涙が目に浮かんだ。
疑問は山ほどあるけど、その答えを知ることはないだろう。
足を引きずりながら、見覚えのある通りを走る中で、記憶がよみがえってくる。
この小道では近所の子たちと鬼ごっこをして遊んでた。
左側の店では、いつも同じジュースを買ってた。別のを買うお金がなかったから。
そして、いつも一番盛り上がってるところで母さんから電話が来て、「晩ご飯よ」って呼ばれる。
「あと15分だけ!」
って頼んでも、
「ご飯冷めちゃうからダメ」
って言われてさ。
それで俺は母さんに拗ねたりしてた。
あの時、時間が止まってくれればよかったのに。
なんで、今、あのジュース屋の代わりに瓦礫しか見えないんだよ。
今日も、子どもたちは俺と同じように遊んでた。
どうしてわかるかって?
彼らの遺体が、俺の足元に転がってたからだ。
なぜ、こんなことが今日起きたんだ?
今はわからない。でも、いつかわかると信じてる。
見覚えのある家が遠くに見えた。
「そうだ、あれだ。俺の家だ!」
もっと速く走った。
体はバラバラになりそうだった。腎臓が刺されるように痛むし、肺は吐き出しそうだし、足は疲れで今にも千切れそうだった。
でも、頭ははっきりしていた。
痛みはあったはずなのに、感じなかった。
なぜか確信していた。
母さんはいつものように昼のスープを作ってて、父さんはもう仕事を終えて、コーヒーを飲みながら母さんと話してる。
家は少し傷んでるかもしれないけど、二人とも無事なはずだ。
絶対に。
家の近くまで来ると、屋根の瓦の半分が風で飛ばされていて、玄関は壁の残骸で塞がれていた。
でも大丈夫。
家はちょっと壊れてるけど、中はいつも通りだ。
俺は、かつて家の壁だった巨大な板を一つずつどかしていった。
そのたびに手のひらには無数のトゲが刺さっていったけど、気にも留めなかった。
まるで、それがこの忘れられない瞬間の記念品みたいだった。
通路をようやく開けた後、しばらくその場に立ち尽くしていた。
目の前にはドアがあった。
自分の家に入るのが、これほど怖かったことはない。
中で何が待っているのか、わからなかったからだ。
きっと二人はそこにいる。
無事で、少し怯えているだけだ。
でも、もしかしたらそこにいない方がいいのかもしれない。
それなら、二人は確かに生きていて、俺を探しに出たということになるから。
ドアを開けた。
そうだ、大丈夫だ。
母さんのスープの香りと、コーヒーの香りが混ざっている。
奇妙な匂いだけど、懐かしい。
木の破片や埃の匂いもするが、全体的には以前と同じ匂いだ。
急いでキッチンへ向かった。
「母さん!父さん!ただい…ま。」
そう、母さんと父さんはそこにいた。
父さんは床に座っていて、目にはガラスの破片が刺さっていた。
頭からは血が流れていた。
窓枠の角に頭をぶつけたのだろう。
死んだ
母さんは隅に倒れていた。
顔は火傷でひどく損傷していて、そばには空の鍋が転がっていた。
母はスープと血の水たまりに倒れていた。
多分、後頭部を床に強く打ったのだろう。
死んだ
僕は膝をついた。
その時、現実の厳しさを初めて痛感した。
ひどい臭いを感じないように口と鼻を手で押さえ、床に吐きそうになるのを堪えた。
すべての痛みが戻ってきた。
僕は手を床につけ、吐きそうな気持ちを感じた。けれども吐かなかった。
喉をいくら締めても、口から出るのはよだれと恐怖でのうめき声だけだった。
痛みと恐怖、絶望で泣く力しか残っていなかった。
なんて哀れな僕だろう。
助けを求めるかのように周りを見回すと、母を傷つけた鍋に映った自分の姿が見えた。
「これは夢だ。絶対に。くだらない悪夢だ。目が覚めれば、すべてが元に戻るはずだ。」
ドン、ドン、ドン。もう一度、ドン。ドン、ドン、ドン、ドン、ドン。繰り返し。何度も何度も。
僕は目を覚まそうとして額を床に打ちつけた。
だが、何の効果もなかった。
顔の半分が血で真っ赤に染まったとき、床に母がいつも野菜を切っていた包丁が見えた。
それには僕の人生の中でたくさんの楽しい思い出がある。だが今、その包丁を見るとただ一つのことしか考えられなかった。
「もしかしたら…自分を殺したほうがいいのかもしれない…」




