1. 審判の日
チャイムが鳴った。
ほとんどの生徒は帰り支度をしているが、中には急がない者もいる。ゲームをしている者もいれば、週刊マンガを読んでいる者、おしゃべりに夢中な者もいる。
一言で言えば――退屈だ。
別に友達がいないわけじゃない。ただ、ひとりでパソコンゲームをして過ごす方が性に合っているだけだ。
とはいえ、何人かの友人はいる。
「ねえ、黒田……」
太陽を思い浮かべれば、その光が差し込むように。彼はまさにそんな存在のひとりだ。ええと、名前は……?
「……今日、カフェでも行かない?」
「ごめん、ちょっと用事があるんだ。」
「ふーん、そういうことか。」
すでに玄関に向かっていたが、ふと足が止まった。
振り返って彼の目を見つめる。
哀れっぽい目でこちらを見ていて、まるで「行こうよ」と懇願しているようだった。そうだ、彼には俺しか友達がいなかった。
そして、ふと考える。
――まぁ、確かに。俺の“用事”ってなんだっけ? たまには気分転換もいいか。少し元気を取り戻して、ピアノの練習でもしよう。もう半年近くも触っていないしな。
気がつけば、俺はもうカフェのテーブル席に座り、カプチーノを注文していた。
壁のテレビから天気予報が流れていた。
『本日、新宿区では一日を通して快晴の見込みです。風はなく、暖かくて雨の心配もありません。』
今日は本当に暖かい。気温は二十五度くらいかな?
いずれにせよ、三月末にしては暖かい日だ。
「黒田くんは、卒業後どうするつもり?」
「……まだ決めてない。」
「マジで?もう高校生活も残りわずかだし、そろそろ考えなきゃ。」
もう自分の中では決めている。ピアニストになる。どこかのオーケストラに入って、普通に生きていく。――特に面白みのない人生だ。
「お前はどうなんだ?」
「もちろん決まってるさ。親父のラーメン屋でバイトしてるんだけど、卒業したらフルタイムで働いて、いずれは店の大将になるつもりだよ。」
「しっかりしてるな。」
「未来のこととなれば、先延ばしにはしたくないからね。」
その言葉に、少し考えさせられた。
俺はずっと彼のことを下に見ていた。三年間も同じクラスにいたのに名前すら覚えていない。高校に編入してきてからずっと一緒だったというのに。
でも、実際に夢に向かって行動しているのは彼の方だった。ちょっと見直した。
――まぁ、いいさ。
俺は卒業してもすぐに働きはしないけど、その分この青春を楽しんでいる。歳を取ったときに思い出として語れるだろう。
俺はまだ十七歳。夢を叶えるには、まだまだ時間はある。
カプチーノを飲み、三十分ほど話した後、俺たちはそれぞれ帰路についた。
いい店だった。新宿の静かな住宅街にあって、雑音もないし、店員の対応も丁寧だ。今度また行こうと思う。
外は天気予報どおりだった。晴れていて、暑くて、風一つ吹いていない。
俺は空を見上げた。太陽は雲に隠れていて、それほど眩しくはない。雪山のように真っ白な雲が浮かんでいる。今日の空はとても綺麗だった。
その太陽を見つめながら、俺は固く決意した。
――今日こそ家に帰って、ピアノの練習を再開する。今度こそ。絶対に。百パーセントだ。
瞬きをした。
目を開けた瞬間、空の半分を覆うほど巨大な隕石が視界に入った。
その瞬間、すべての人がすべてを理解した。
沈黙が支配した。
それは鼓膜が破れそうなくらい耳をつんざく沈黙だった。
その静寂はたった十秒しか続かなかったが、まるで十分ほどにも感じられた。
子どもの頃からよく聞いた言葉がある。――死ぬ前には人生が走馬灯のように駆け巡る、と。
だが、あれはまったくの嘘だ。
俺が見たのはもっと恐ろしいものだった。
俺の未来――この日によって奪われた未来だ。
天が崩れ落ちた日。




