10. 救い
ナイフの刃先が光と俺に迫ってきた。
まさか、これで終わりなのか?俺はこんなふうに死ぬのか?
違う。
やっと夢へと進み始めた今、こんなところで死ぬわけにはいかない。
もしそうなったら、光は俺のことをどう思うだろうか?
あいつはまず光を殺そうとした。簡単に倒せると思ったんだろう。だが、そうはさせない。どんな手を使ってでも、俺が光を救う。たとえそいつを殺すことになっても。
俺は光とそいつの間に立ち、ナイフを素手で掴んだ。その瞬間、奴は明らかに戸惑った。
俺の手からは血が流れ出した。
その隙を突いて腹を蹴りつけると、うまく決まった。
だが、目的はナイフを奪うこと。
間一髪で奴は我に返り、ナイフを強く握り直した。
そのせいで俺も完全に奪うことができず、奴も保持できなかった。
結果、ナイフは俺の近くの地面に落ちた。
俺は光を見た。
あいつの目は、俺と狂った奴とを交互に見ていた。
奇妙な光景だったが、俺にはあいつが何を考えていたのかが分かった気がする。
きっと、俺があのクズを倒すにはどうすればいいかを必死に考えていたんだ。
ああ、間違いない。きっとそうだ。そうでなければならない。
次の行動は数秒しかかからなかった。
俺たちは同時にナイフに手を伸ばした。だが、ナイフは俺の方に近く落ちていたため、先に拾えたのは俺だった。
ナイフを奪えなかった男は腹から地面に倒れた。
俺はその両腕の上に膝を落とし、動きを封じて、ナイフを振りかざした──
「待って!」
──と、光が止めた。ナイフの刃は、男の背中まであと数センチのところだった。
初めて、俺は光に怒りを覚えた。
きっと、あいつは俺の目の怒りに満ちた獣のような光を見て気づいたはずだ。
「なんだよ?」
「やめてくれ。」
「なんでだよ?こいつは俺たちを殺そうとしたんだぞ。」
その時、男は命が助かると察し、わずかに手を動かして逃げようとした。
だが、彼の手元の地面に突き立てたナイフが、それを拒絶するかのように存在していた。
そして光は──彼の表情は今にも泣き出しそうだった。
だが、俺たちの会話が続いていたため、涙をこらえていたようだった。
「俺の友達が人殺しになるのは嫌なんだ。」
言い返そうと思ったが、彼の目を見た瞬間、何も言えなくなった。
あの目には、深い悲しみがあふれていた。
「はぁ……で、こいつをどうするんだ?」
俺が殺す気がないと分かった瞬間、光は明らかに安堵した。
目の悲しみが消えたことでそれが分かったが、表情は変わらず、感情を見せなかった。
「逃がそう。ナイフがなければ、もう脅威じゃない。だから彼のナイフを回収して、残りの人生を生きさせてやろう。誰にでも、やり直すチャンスはある。そうだろ?」
「まあな……でも、また武器を手に入れて襲ってきたらどうする?」
「この判断を下したのは俺だ。だから、責任は俺が取る。そのときは、俺が君の盾になる。君は逃げろ。」
「分かった。でも、ひとつだけ条件がある……」
光は少し嬉しそうだったが、条件に対して警戒もしていた。
「……もし奴が襲ってきたら、俺たちは一緒に死ぬことになる。俺は君の決断には逆らえない。でも、君をひとりにすることもできない。」
その言葉を聞いた光は、やっと笑顔を見せた。
「それで決まりだな。」
下を見ると、まだ男が目の前にいることに気づいた。
俺は彼の腕の上から体をどけると、男はすぐに腹ばいから立ち上がった。
立ち上がると同時に、俺はナイフを彼の首に突きつけた。
彼は即座に手を挙げ、直感的に降参の姿勢を取った。
「話し合いは終わったが……俺たちに近づかない方がいいぞ。殺すつもりはないが、もし近づいたら……お前の体をこれでもかと切り刻んでやる。死を願っても、俺は止まらず切り続ける。それでもいいのか?」
だが、男は怯まなかった。
むしろ、体を前へ傾け、ナイフの刃が首に食い込み、血がじわりと流れ始めた。
「その必要はない。神がすぐにお前たちを罰するだろう。すぐに、だ。俺はその手伝いをする。覚えておけ。神の罰を、お前たちのような不信者に味わわせてやる。特にお前……」
彼は光の方を見つめた。
「……お前の目を見れば分かる。お前こそが、最も信仰から遠い者だ。お前には、想像もできないほどの苦しみが待っている。俺がその苦しみを与えてやる。」
俺はナイフを少しだけ前に押し込んだ。
新たな血が彼の首から流れ出した。
「おい、調子に乗るなよ。ナイフを持ってるのは誰か、忘れるな。」
彼はようやく後ろへ下がり、首の傷口を手で押さえた。
顔には、皮肉な笑みが浮かんでいた。
「この世には、肉体の痛みよりも遥かに辛い苦しみがある。お前たちは、すぐにそれを知ることになる。また会おう。いや……お前たちが俺に再び出会うことになる。」
そう言い残し、男は背を向けて去っていった。
その時になって、ようやく手の痛みを思い出した。
アドレナリンと会話で忘れていたが、ナイフで切られた手がずきずきと痛み始めた。
光がすぐに駆け寄ってきて、俺の手を調べた。
「部屋で包帯を巻こう。それまでは我慢してくれ。」
「君の両親には何て言えばいい?」
「何も言わなくていい。バレないように、うまく歩いて。」
「わかった。」
ナイフで切られた手のひらを隠すのは簡単ではなかった。
だが、手をズボンに押し付けるようにして歩けば、なんとかごまかせた。
たぶん、光の両親は何かを察したかもしれないが、気づかないふりをしてくれたのだろう。
包帯を巻き終えると、俺たちはベッドに座って会話の時を待った。
今回は、俺が先に口を開いた。
「さっきの男、何を言いたかったんだと思う?」
「今はまだ分からない。でも……それでも、俺は嬉しいよ。」
「なんで?」
「俺たちは、あいつを救ったんだ。一人の人間が、これからも生きられるんだ。それって、すごいことだと思わない?救ったんだ。俺たちは、救った。」
「そうだな……これからどうする?まだ半日残ってる。」
「今日はもう、十分頑張ったよ。特に君はね。だから、少し休もう。君は横になって、俺は曲でも書くよ。」
「それも悪くないな。」
光は紙とペンを取り出し、俺の隣に横たわった。
そして、彼の口から明るいメロディーが静かに流れ出した。
それは、いつもより少し楽しげな歌だった。
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