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9. 罪人たち

俺は隣にあったヴァイオリンの弓をつかみ、その不審者から目を離さなかった。

彼は意外にも身だしなみが整っていたが、だぶだぶの服だけは目立った。

青白い緑のズボンは赤いTシャツとはまったく合っていなかった。

肩までの長髪の隙間から見ると、彼はかなり整った顔立ちだった。年齢は二十三、いや二十四くらいに見えた。


不審者は光のほうに顔を向け、ナイフを構えた。


「手を頭の後ろに! 早く!」


隣の部屋から聞こえてくる音で、光がすでに従っているとすぐにわかった。


「何してるんだ、ここで!?」


——ということは、俺にはまだ気づいていないということか。


「聞こえないのか、こら!!?」


その狂人は光のいる売り場に向かった。

考える時間はなかった。俺は弓を持ってそっと後を追った。


光は膝をつき、両手を頭の後ろにしていた。

俺にすぐ気づいたようで、ちらりと一度だけこちらを見て、すぐに視線をそらした。


「もう一度聞く。ここで何をしている?」


俺は弓を振り上げ、そいつの首を狙って突き刺そうとした。

誰にも光を傷つけさせやしない。絶対に許さない。


「待って!」


光の叫びが俺の動きを止めた。

そいつは振り返り、その拍子に俺の手のひらをナイフでかすめた。俺は思わず弓を取り落とした。


俺は数歩後ろに下がり、もう一方の手で傷口を押さえた。

ナイフの先は今や俺に向けられていた。


「ふたりいたのか!? 何の目的だ?」

「ただピアノを直そうとしただけなんだよ! それのどこが悪いんだよ!」


声が震えていた。恐怖に涙が出そうだったが、堪えた。


だが、あいつはそうじゃなかった。


ナイフを震える手から落とし、頭を抱えながら泣き出した。ものすごく激しく。もう、とてもじゃないが抑えられないほどに。


「くそっ、俺、あと少しで子供を二人殺すところだった!!! なんでだよ!!? 俺は地獄に堕ちるべきだああああ!!! うわあああああ!!!」


彼は涙に濡れながら手探りでナイフを拾い、腹に突き立てようとした。


「死んだほうがマシだ……ごめん……君たちを殺しかけて……」


彼は両手を高く振り上げ、一気に死ねることを願っていた。だが、それも阻まれた。


「やめて!」


光がその腕をつかみ、止めた。


「放せ! 俺は死ななきゃいけないんだ!」


顔を上げた彼の前には、俺と同じ魔法のような笑顔を浮かべる光がいた。


「その考え、どこで覚えたんです? あなたがいなかったら、困る人がいるかもしれない。……それに、もう僕らは許しましたよね? 勇、そうでしょ?」


俺は本心ではなかったが、光に合わせて頷いた。


「……うん、もちろん……」


彼はナイフを手放し、それは金属音を立てて床に落ちた。

光が腕を放すと、彼の腕もだらんと垂れ下がった。

俺と光は彼の前に座った。

今回は俺が口を開いた。


「なあ、あんたら信者って、なんで“全部俺たちのせい”だって言い続けるんだ? 俺たちのどこが悪かったんだ?」


彼は目を上げたが、その目には答えがなかった。彼自身、何もわかっていなかった。


「だってさ。こんなひどい出来事が俺たちに降りかかったってことは、きっと何か罰を受けるようなことをしたんだろう? そうじゃないのか?」


彼は視線を俺から光へ、そしてまた俺へと揺らしたが、答えはなかった。

彼自身もわかっていないようだった。


「そうだろう?」


光が話に加わった。


「外に出ようよ。ここだと落ち着いて話せない。」


みんな黙って頷き、俺たちは外へ出た。


「で、どうやってここに来た? 何の目的で?」

「この店は昔、俺の父さんのだった。何度か来てたけど、君たちには会わなかった。」

「ナイフはどうして持ってたの?」

「自殺しようと思ったんだ。父さんは俺の腕の中で死んで……だから、この場所で……俺も……」

「でも今は、死ぬ気はないんでしょ?」

「ハハハ……もちろん、もうないよ。」


彼の笑いはとても悲しく、目は虚ろだった。

彼は俺たちの前に立ち、両腕を大きく広げた。


「もう、死ぬつもりはない。」



彼はナイフを拾い上げた。


「君たち、自分は無関係だと思ってるのか?」


俺と光は一歩後ろへ下がったが、背を向けて逃げることはしなかった。あまりに危険すぎた。


「え、えっと……ちょっと、落ち着こう……な?」


彼はナイフを傾け、俺たちの怯えた顔がナイフの刃に映るようにした。

それは、あまりにもはっきりと見えた。


「クソが……みんな罪人なんだよ。お前らも含めて。俺たちは皆、苦しんでる。お前らも、その原因の一部なんだよ! 自分の罪の重さがわからないっていうなら、俺が教えてやる! そして……“慈悲深い神”のせいにするんじゃねぇ、恩知らずのクソどもが!!」

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