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異能力者 契約入学します!!  作者: 金潟 いさみ
青ヶ峰学園編
6/6

第六話 犬と猿は仲良くできるのか

 朝の八時。眠い目をこすりながら校門をくぐる。そこに広がる景色はいつもと何も変わらない。

 昨夜の騒動がまるで嘘のように校内の雰囲気は穏やかでだった。

 ここで自分が異能犯と激しい戦闘を繰り広げていたなんて…なんとも実感が湧かなかった。

 そうして教室に着いた俺は授業の準備に取り掛かる。

 すると教室に息を切らした担任の先生がやってくる。

 「みんな。今から急遽全校集会をすることになったから、体育館に集まってくれ」

 それを聞いたクラスメイト達は面倒くさそうに返事をする。

 皆散り散りに教室を出ていき体育館へ向かう、俺もそれに続いた。

 体育館に着くなり教師からクラス別に整列するよう促され、皆が整列して待っていると…。

 舞台袖から校長先生が登場するといつもの前口上がやってくる。

 どうやら今回の集会は先日の異能犯による襲撃の事後報告のようだ。加えて異能課の協力で学校付近の巡回が強化されること、そして生徒への注意喚起で集会は終わった…と思いきや、話はまだ続くようだ。

 「そして最後に先の襲撃に立ち向かってくれた勇敢な生徒を紹介してこの場を締めようと思います。本部芥くん、君の活躍によりこの学校は守られました、本当にありがとう。全員で彼に拍手を!」

 すると割れんばかりの拍手が起こる。近くにいたクラスメイト達は目を輝かせて褒めてくれた。

 「すごいな!」

 「やるじゃん!」

 そんな黄色い歓声を浴びせられ、俺は戸惑いつつも素直に嬉しかった。

 しかしながら改めて大勢の前で自分が発表されるというのは照れくさいな。

 そして次の解散の合図で集会は終わったのだった。

 時間は流れ昼休み。

 カバンから弁当を取り出すが、さっきからクラスメイトたちの視線が気になって仕方がない。

 朝の集会後ほど酷くはなくなったが、未だにクラスでは自分の話題で盛り上がっていた。

 そんな空気を最初は楽しんでいたが、そろそろ居心地悪く感じ始め俺は逃げるように教室を後にした。

 「さてどこで食べようかな」

 思いつく候補としてはやはり中庭だろうか。あそこには座れるベンチがあるし食事するには最適の場所だ。

 早速中庭へ向かい、空いているベンチを探すため周囲をぐるっと見渡すとそこで荒井の姿を見つけ観察すると彼も昼食をとっていた。

 そういえばあいつにアプローチを計画したきり何もアクションを起こしていなかったな。ちょうどいい機会だし、話しかけてみよう。

 「やあ荒井。お前も昼ご飯か? よかったら一緒に…」

 話しかけるなり荒井はこちらを睨みつける。

 「ああ? 誰かと思えばこの学校のヒーロー様じゃねえか」

 「なんか馬鹿にされてるような気分だ」

 「ご名答、ただの皮肉だよ。…でお前が俺に何の用だ」

 「いや別に。ただお前と少し話したいことがあったからさ」

 それを聞いた荒井は不機嫌そうに顔をしかめた。

 「また説教か? イライラするんだよなその態度。自分が異能力を持ってるからって人より偉いとでも思ってんのかよ?」

 「そんなんじゃない。俺はお前の気持ちを知りたいんだ」

 「突然何の話だ」

 「いつも不思議に思っていた。荒井がどうして御山への嫌がらせをやめないのか。もしかしてその目的は嫌がらせがしたいんじゃなくて俺と会うために御山を利用してるんじゃないのか?」

 「俺が? 何のために?」

 「いつも言ってるじゃないか、いつか仕返してやるって」

 「じゃあなんだ。もし仮にそんな理由で俺が御山に嫌がらせをしていたとして、お前は俺をどうしたいんだ?」

 「もしそれが本当なら、どうか止めてくれ。今度からは俺にその不満をぶつけてほしいんだ」

 「もしかして同情のつもりかよ。俺が可哀想な奴って見下してんのか?

無責任な正義面もいい加減にしろよ! ひょっとして学校を守って少しでもヒーローになれた自分に酔ってんのか? それで日頃のヒーロー精神が肥大化しておかしくなったのか?」

 勢いよく捲し立てる彼からは異常なまでの憎悪を感じる。だがそれに怖気づくわけにはいかない。

 「気持ち半分でこんな話するわけないだろ。俺は真剣にお前と向き合いたいんだ!」

 荒井は押し黙る。そんな彼に話を続ける。

 「お前と初めて会った時、悪者だからと一方的にお前を咎めた。そのことに俺は負い目を感じてるんだ。もしそんな態度が気に食わなくて荒井にあんなことをさせてしまっているのならそれは俺の落ち度だ。だから俺にはその問題を解決する責任がある。俺はお前と真剣に向き合いたい」

 荒井はとても困惑していた。

 言い返す言葉を見つけられないでいる荒井はおもむろにベンチから立ち上がった。

 「俺の知ったことか。もう構うんじゃねえ」

 たったそれだけを言い残してどこかへ歩き出す。

 「あっ、待ってくれ!」

 荒井を制止させようと試みるが、その言葉を無視して去っていった。

 これ以上は無駄だと判断した俺はベンチに座り込んだ。

 「弱ったな…余計に問題が拗れた気がする」

 決してこの問題を軽視していたわけではなかった。しかし俺と彼の間にある溝は自分が思っていた以上に大きく広がっていたようだ。

 今のままで時間が解決してくれるわけないよな……

 ふと手に持った弁当箱を見つめる。

 疲労からか食事が億劫になる。箱を包む風呂敷を開ける行為すらも面倒に感じる。しかし確かに空腹を感じてはいる。

 食べようか否かについて考えていると近くで俺の名を呼ぶ声が聞こえてくる。

 「おーい。あんたもこれからお昼?」

 なんと同じ能力者である胡桃(くるみ)であった。

 「誰かと思えば君か。どうしたんだよ? この間は自分で話しかけるなって言ってたのに」

 「別にあれはあんたをあたしから遠ざけるために言っただけで、もう正体を明かした相手なんだし、その辺気にしなくてもよくなったのよ」

 「それ遠回しに君の問題に俺が巻き込まれても良いって言ってるもんじゃねーか!」

 「まあまあ、別にそういうことを言ってるんじゃないんだけどね。昨日の一件であんたがそれなりの実力の持ち主だと判断したのよ。実際に戦闘を見たわけじゃないけど異能犯を倒したのは事実だし、万が一超越者に襲われても大丈夫だと思ったから今はこうしてあんたと接触してるってわけ」

 「そう言われると悪い気はしないけど…」

 どうやら彼女は俺の実力を高く評価してくれているようだ。それに関しては素直に嬉しい。

 「それよりさっきちょっと見ちゃったんだけど、あの男となんかあったの? すごい喧嘩してたみたいだけど」

 「いや喧嘩とかじゃないんだけど、色々あってさ」

 俺はどう説明すればいいのか分からずお茶を濁すと、彼女はそれを訝しむように見つめる。

 「はっきり言いなさいよ」

 とても誤魔化せそうにない状況と判断し、これまでの経緯を話した。

 「…というわけなんだ」

 「なるほどね。それにしても持田先生も意地悪ね。どんな化学変化を期待してたのかしら」

 「やっぱり冗談だったのかな? にしても意外だったな、君が持田先生のこと知ってるなんて」

 「あたしだって能力者なんだから当然でしょ。月に一度の面談はちゃんと参加してるのよ」

 「それにしては先生から君の話を聞いたことがないけど」

 「それは喋らないようにお願いしてたからね。それよりさっきの彼の様子普通じゃないわよ。ただ嫌ってるだけじゃない感じがする」

 「俺も同じことを思っていた。どうしてなんだろう?」

 「なんていうか彼は能力者のあんたに嫉妬してるみたいだった。いわゆるコンプレックスかしら」

 彼女の意見は的を得ているような気がした。

 改めて今までの荒井の言動を振り返ってみると、あたかも能力者ではない自分が能力者の俺よりも劣っていることをひどく気にしている節があった。その理由は荒井が無意識のうちに能力者ではない自分に劣等感を感じていることに他ならない。

 「まだ定かではないけど、それぐらい特別な理由でもないとあんなに拒絶しないと思う」

 「難しいわね。とりあえずまた先生に相談してみたら? あの人はその道のプロなんだし、いいアドバイスしてくれるんじゃない?」

 「またからかわれないか心配だけど」

 「はは! たしかに」

 昼食を済ませつつ、俺たちは他愛もない談笑を続けていると、遠くからこちらへ向かって走ってくる校長がいた。

 「あーいたいた。本部くん、君に渡したいものがあるんだ」

 「渡したいもの?」

 すると校長がポケットから取り出した封筒を差し出されそれを受け取った。

 「これって?」

 「昨日頑張ってくれた君に私からの細やかな気持ちだよ」

 「ありがとうございます!」

 「それともう一つ伝えておくことが。今日から一週間の間は異能課の人が学校の警備を担当してくれるようなので、本部くんは授業が終わり次第帰宅して構わないよ」

 「どうして異能課の人が…?」

 「昨日本部くんの傷の具合を心配して彼らの方から申し出てくれたんだ。なので君は一日でも早く警備に復帰できるよう体を休めてね」

 「わかりました。すぐ復帰できるよう回復に努めます」

 そして用を済ませた校長は足早にその場から立ち去った。

 「お礼って何かしら? この薄さからして絶対に物じゃないわよね? まさかお金とか!?」

 「あり得るな。もしそうなら二人で山分けだな。君の協力がなければこの報酬はなかったかもしれないし」

 「よくわかってるじゃない! さあさあ早く!」

 焦らせる彼女を横目に俺はゆっくり封筒を開ける。するとその中に入っていたものは一万円札が入っていた。

 「一万円…か。どうしよ、どこかでくずさないと山分けは難しいな」

 「今から食堂に行くとか?」

 「いい考えだけど次の授業まであと五分もないぞ。流石に食堂閉まってるんじゃないか?」

 「じゃあ自販機? でも今は喉乾いてないのよね…」

 お互い悩んでいると、俺はある提案をしてみる。

 「もしこの後、予定がないなら放課後一緒に寄り道しないか?」

 「まあ…別にいいけど」

 こうして俺たちは放課後校舎の正面玄関で待ち合わせることとなった。

最後まで読んでくださりありがとうございます。次回はラブコメのような話を予定しております。

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