第五話 戦いの後始末
珍しく連日投稿できています。我ながら素晴らしいですね! この調子で執筆頑張りたいと思います!
一階に潜伏しているであろうもう一人の侵入者を探すべく、廊下を全力疾走する。
その道中、一階全体を覆っていた煙が徐々に薄れていくのを感じる。
やがて視界が晴れていき、次に目にした光景は昨夜路地で出会った女の子と地面に倒れている男の姿だった。
「やっと来たのね。こっちはもう終わったわよ」
彼女の口ぶりから察するに、俺がここへ到着する少し前まで二人は戦闘をしていたようだ。
「これ君がやったのか? しかも武器に消火器とかずいぶんパワフルなんだな」
恐らく今回の戦闘で用いられたであろう近くに転がっていた消火器を見て彼女に言う。
「違うわよ!? それを使ったのはこの男の方で私は素手よ! 素手!」
「十分パワフルじゃねーか! おっかないな君」
「それよりあんたボロボロじゃない。もしかして他にも侵入者が?」
彼女はそう言って俺の方へ近づいてくる。
もしかして心配してくれているのだろうか?
「ああ。でも心配ない、もうそいつとは決着がついた。あとは異能課に通報すれば一件落着だ」
ポケットからスマホを取り出し、110番に電話をかける。
「もしもし先ほど異能犯による襲撃を受けました。事態は解決しましたが容疑者の確保をお願いします。場所は青ヶ峰学園です。はい、よろしくお願いします。失礼します」
要件を伝え電話を切る。
「よしこれで一安心…じゃなかった。三階にいる男の様子を見に行かないと」
あの男のいる場所へ戻るため踵を返し歩き出すと。彼女に呼び止められる。
「あんたそんな体でまだ動くつもり? その男の様子はあたしが見てきてあげるから休んでなさいよ」
彼女はそう言って俺の肩をトントンと叩き、近くのベンチに指をさす。
そこで休めと催促しているようだがそれを拒否する。
「いや待たない。どうせ警察がくるまで暇だし、向かう道中で君に色々聞きたいことがある」
「あんたもしつこいわね。まあ今回はあたしのせいで迷惑かけちゃったし可能な範囲で答えてあげるわ」
まさかの了承されるとは思ってもみなかったので驚いた。
しかしこれはラッキーだ。
「じゃあ早速なんだけど君は何者なんだ? 昨日の路地といい今日の襲撃といいどうしていろんな人に狙われているんだ?」
「あたしが何者か説明する前に。一つ質問がある、あんた超越者って呼ばれる人間のことを知ってるかしら?」
「いや聞いたことがないな。その超越者っていったい?」
「詳しく説明すると長くなるから掻い摘んでいうと、改造人間のようなもの。人工的に異能力を目覚めさせられた人間のことを施設の科学者たちはそう呼んでいた」
あまりに突拍子のない話で動揺する。
「本当にそんな人間がいるのか?」
「信じられないでしょうけど実在するわ。それも5人も。あたしもそのうちの一人」
にわかには信じがたい話だ。目の前にいるこの子が改造人間だなんて。
しかし彼女の表情は至って真剣であり信じたくはないが彼女の話はすべて真実のようだ。
「どうしてその科学者たちは改造人間を作ろうなんてしたんだ?」
「聞いた話によれば、無理やり異能力者を増やしてそれを戦争の兵器として利用する予定だったらしいわ。そのせいで毎日好きでもない戦闘シミュレーションに参加させられるし、狭い個室に隔離されてまるで地獄のような日々だったわ」
俺はあまりの凄惨な出来事を聞いて怒りがこみあげてくる。本当にそんなことが行われているのだとしたら許せない。
「それでその科学者たちは今もそんなことを続けてるのか?」
「いいえ、もう数年前にあたしたちの手で壊滅させてやったわ! みんなあいつらにいいように扱われて腹を立ててたからね!」
怒りを露わにする彼女だが冗談のように話すその姿はまさに生き生きしていた。
そんな彼女を横目に俺は拍子抜けを喰らった気分だ。
案外平気そう…?
「でもさそんな研究施設を簡単に壊滅させられるものなのか?」
「問題ないわよ。施設は跡形もなく破壊したし、それだけ超越者たちの能力が強すぎるってこと」
「それほどまでにすごいのか。超越者というやつは」
「しかもそいつらが施設を破壊して自由に行動していること。これがどういう意味か分かる?」
「そりゃとってもやばいことだ。でもその施設を破壊したのは数年前なんだよな。でも未だに世間はその存在を認知していない。どうしてなんだ」
「それはこの腕輪は原因だと思うわ。誰の仕業か分からないけどこの腕輪は能力を制御する効果が働いていて、本来の力を発揮できないから今まで超越者による事件が起きていないんじゃないかしら」
まさかその腕輪が町の平和を守っていたなんて、俺はなんて罰当たりなことを言ってしまったんだ。反省しないと。
「なるほど。その腕輪のおかげで平和が保たれていたんだな。ありがとう腕輪。そしてごめんなさい」
「なんで謝ってんのよ。それでここからが重要なんだけど、どうやらその4人が最近この腕輪を解除するために何か企んでいるみたいであたしもその仲間に加わらないかって誘われたわ。でも興味がないから断ったんだけど、あたしはそれを阻止しようと考えている」
「本気なのか? もしかして一人で?」
「いえ一人じゃ絶対止められない。だからこれから異能課の人たちに話をして一緒に調査してもらえるように掛け合ってみるつもり」
「たしかに将来町が破壊されるほどの危険がある以上阻止しないとな」
「ええあいつらにそんなことしてほしくない。仮にも同じ釜の飯を食べた仲間だもの。取り返しがつかなくなる前に止めてみせるわ」
「優しんだな。君のこと応援している。それよりいろいろと話してくれてありがとな」
「別に話し出したら止まらなくなっただけよ」
そうこうしているうちに目的地に到着した俺たちは男を抱えて一階まで運んだのだった。
★
程なくして外からサイレンが聞こえてくる。
どうやら警察が到着したようだ。
「異能犯の襲撃を受けたとの通報があり駆けつけました。異能課の羽鳥です」
羽鳥と名乗る額のやけど跡が特徴的な警察官が警察手帳をかざし挨拶をする。
「お疲れ様です。えっと犯人はあの二人です」
床に倒れた二人を指さし答える。
「本当に君が今回の襲撃を解決したのかい。いやー大したもんだね!」
「いや俺だけじゃなくてそこにいる彼女も手伝ってくれたおかげです」
「そうだったのか。ということは二人は能力者なのかい」
俺たちは頷く。
「まさか学生の時点でこの実力とは。ぜひうちに来てほしい人材だ。ねえ南雲さん!」
「興奮してないでさっさと仕事しろ」
羽鳥さんの陰からぬっと姿を現す南雲と呼ばれる強面の警官。
「これは失敬。では今から彼らの身柄を確保したあと、二人には今回のことで聞きたいことがあるから協力してくれるかな? えーっと君は…」
「本部です。本部芥、一応この学校を守護する契約を結んでいるものです」
「あー君は例の契約生なんだね。ということはこれから僕たち長い付き合いになると思うからこれからよろしくね」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
それからは今回の襲撃事件について何が起こったのかを話した。
「よしこれで聞きたいことは全部かな、ご協力感謝します。二人とも今日は疲れているだろうからゆっくり休むんだよ。お疲れ様」
そう言ってその場を後にする彼を彼女が呼び止める。
「あの実は異能課に大事な話があります」
歩き出そうとした足を止め、再度こちらへ振り返る。
「話というのは?」
「とても重要な話です。もし可能ならあたしを警察署まで連れて行ってはくれませんか?」
「うーんそう言われても。南雲さんどうします?」
「まずはその話がどんなものかによるだろ。それでお嬢さんは俺たちに何を話したいんだ」
「これから起きる可能性が高い、事件についてです」
「具体的には?」
「お二人は超越者についてご存じですか?」
「いやもういい。その先は署で聞こうじゃないか」
「ありがとうございます」
そうしてパトカーの方へ歩き出す二人の跡を追うように彼女も歩き出した。
「それじゃあたしはお先に」
律儀に別れの挨拶をしていく彼女。
「あのさまだ自己紹介してないだろ。俺は本部芥。君は?」
「胡桃未来。じゃあね」
そして胡桃を乗せたパトカーを見送った後、俺は帰宅した。
★
青ヶ峰学園裏門。
そこに超越者の一人である野呂は退屈そうにしていた。
「暇だなー。裏口で待機するなんて言わなきゃよかったなー。でもいっぱいの人に見られるとまずいし今回は我慢だなー」
それから手に持った無線機を何度も確認する。
「それにしてもなかなか連絡がこないな。もうそれなりに時間は経ったし何か進展があっても不思議じゃないが」
すると道路の方からサイレンが聞こえてくる。
野呂は音のする方を見ると数台のパトカーが通過するのを確認した。
「警察がどうして? …まさかな」
途端に嫌な予感を感じ取った野呂は正門の方へ走り出す。
そこで目にしたのは最悪の光景だった。
「まじかよ…もう異能課の奴が来ちまってる。恐らくあの二人がやられたんだ。それに胡桃の姿が見えねえ、もう逃げられちまったのか」
野呂はショックで肩を落とす。
「もうこうなったら仕方ない。俺も帰るか」
諦めて帰ろうとした時、野呂は見覚えがある顔を発見する。
「あの異能課の奴と喋ってる奴はたしか…そうだ! 昨日俺と胡桃の邪魔をした奴だ! あの野郎がまさかこれを?」
野呂の心にふつふつと怒りの感情が湧いてくる。
「昨日は俺の邪魔をして今度は俺の計画を邪魔しやがった。許せねえ…痛い目に遭わせないと気が済まねえな。そうだ決めた! 今度は俺が自ら学校に潜入してあいつにやり返してやる」
野呂はだんだん愉快な気持ちになり、笑みを浮かべる。
「決行はいつにしようか。どうせ警察は今回のことでこの地域の巡回を強化するだろうしそれが終わるまで迂闊に動けないな。長くても一か月後くらいか? それまでは準備期間だ。待ってろよ死ぬことより恐ろしい恐怖を体験させてやるよクソ野郎!」
不気味な笑い声を上げながら野呂は路地の暗闇に消えていった。
最後まで読んでくださりありがとうございます。最近執筆のモチベーションが高まっており、当分は一日に一話は投稿できそうです。それではまた。