第一話 異能力の誕生
初めまして。この度趣味で執筆活動を始めることになりました金潟いさみと申します、以後お見知りおきを。さて数多の作品の中から私の作品を見つけてくださりありがとうございます。ぜひ最後まで読んでいただけると幸いです。
2020年8月9日。日本で謎の放火事件が報告された。
警察の調査によると火災の発生源が特定できなかったという。キッチンのコンロから引火したわけでもなければマッチのような火を起こす物も発見できなかった。そして家は全焼し住居者も焼死体として発見された。しかし幸運にも玄関先に設置されていた防犯カメラは無事であり、録画記録を調べると事件が発生した数分後に家から逃げ出す男性の姿をカメラは捉えていた。顔も鮮明に映っており警察が容疑者の身元を特定するのにそう時間はかからなかった。警察署に連行された容疑者は事情聴取にて突拍子もないことを口にする。
「俺には力がある。世界を燃やし尽くす力が!」
そう言って男は手のひらから炎を生み出した。そんな信じられない光景を目にした1名の警官は困惑し身動きが取れないまま男に燃やされた。すかさずもう一人の警官が銃を構え無線機を取り出す。
「こちら羽鳥。事情聴取室にて例の放火犯が暴走中。犯人は手のひらから火を出すと警官を殺害。至急応援を! そして発砲の許可を!」
男はニタニタと不気味に笑いながら警官に接近する。
「う、動くな! おかしな行動をとったら、お前を射殺する」
羽鳥は全身を支配する恐怖感を押し殺し男に警告する。しかし警官の警告など意に介さず男はさらに接近し両手に握りこぶしを作る。その拳はメラメラと炎が燃え盛り警官の腹部に叩き込まれた。
命中した腹部からは殴られた痛みと皮膚が焼ける痛みに襲われ警官の男は悶え意識を失う。それから何発も叩き込んだのち男は事情聴取室を後にした。
部屋から出ると廊下に他の警官が立っていた。まるで事情聴取室から男が出てくるのを待ち構えていたかのように。そしてその警官が静かに口を開いた。
「投降しろ。おとなしく指示に従えば射殺はしない」
「お前はあの無線で駆けつけてきたやつか。もしかして発砲許可がおりたのか」
「いや残念だが射殺命令だ。無線を聞いた署の偉い人がお前を要危険人物として積極的に殺すよう命じてきたんだ」
「ひでえ。そうやって簡単に人を殺すのかよ。俺とやってること変わんねえじゃん」
「屁理屈はいい。投降するのか。しないのか」
先ほどまで気怠そうにしていた警官の表情が一瞬にして般若のような鋭く恐ろしい顔に変化した。
しかし男が怯むことはなかった。ある種の全能感とでもいうのだろうか。自らに発現した発火という異能力。それを目にした人間は恐れおののき、自分はその人間を圧倒することができる。そんな体験をたった数分前に味わった男に怖いものはなかった。
「しない! 俺の力は最強だ!」
男は勢いよく突撃し警官との距離を詰める。そして両手を炎で包んだ。
警官は一気に距離を詰めてくる男に動揺することはなかった。その手にしっかり握られた拳銃の引き金を引く。銃弾は男の拳に向けて発砲されたが、男が身をひるがえしそれを回避した。そして警官の目前まで男が接近すると真っ赤に燃える拳を振り下ろそうとする。流石の警官も焦りのあまり男との距離を取ろうとする。しかし間に合わないのを察した警官は抵抗を諦めようとしたが、状況は一変する。先ほど男の背後に消えてしまった銃弾が奇跡的にも壁を跳弾し男の拳を貫通する。
「いってぇ! なんで!? なんでさっき回避した弾が俺に返ってくるんだよ!」
当然の疑問であった。発砲した本人ですら今起きた現象を説明することはできなかった。何故ならば本来起こるはずのない出来事で、増してや超能力のような力が働かない限りは絶対に起こりえない現象だからだ。そもそも銃弾が壁で跳ね返ることなどあり得るのだろうか。仮に奇跡的に跳弾できる角度だったとしてその銃弾が男の肩より上の位置にある拳に着弾するのだろうか。そんな幾つもの奇跡的な確率を引き起こしたのは偶然か必然か。それはこの場にいるものが知るところではない。
九死に一生を得た警官はこの好機を逃すまいと銃を構え直す。そのすぐそばで男は痛みに苦しむ姿があった。
警官は無慈悲にも警告は告げず、男の眉間にその鉛を撃ち込んだ。
警官は緊張の緒が切れたのか、深呼吸をする。そしてポケットから手袋をはめると男の脈を測る。
「死んでいるな。やはり無線の報告通り、手を先に撃ったのは正解みたいだ」
男の生死を確認すると、すかさず無線機で報告する。
「こちら南雲。放火犯を射殺した。直ちにこの遺体を検死してもらいたい」
「了解。すぐに向かわせます。流石は南雲さん。あっさりあの放火犯を処理するなんて尊敬を超えて恐怖です」
「いや偶然だった。俺も危うく命を落とすんじゃないかと肝を冷やした」
「ほんとですか? 南雲さんがそういうってことは相当追い詰められたみたいですね」
「ああ。しかし奇妙なことが起きた」
「奇妙なことですか? 今でも十分奇妙なことは起きていると思いますけど」
「白井。そういう意味じゃない。俺の銃の話だ。さっき放火犯に発砲したんだが避けられてしまったんだ。だがその弾は壁を反射して男に命中した。そんな奇妙な光景を目撃したんだ」
「まさか。銃弾が壁を反射するなんて聞いたことありませんよ」
「俺も流石に目を疑った。だが実際に目にしたのはまるで意思を持ったように跳ね返ってきた銃弾なんだ」
「結局何が言いたいんですか? まさか南雲さんもあの放火犯みたいに力に目覚めたとでも言うんですか?」
「白井、そのまさかだ。だからこそ俺の目にしたものが、ただの偶然によるものかどうかを証明するためにも奴の検死は必要なんだ」
「ただの杞憂に終わるとは思いますけど、でもこんなに狼狽える南雲さんも珍しいし結果が楽しみですね」
その呑気な態度に腹を立てたのか南雲は無線機をそっと切った。
そして数日が経ち死体を調べた結果として彼の手のひらから火で焼かれたような焦げ跡は発見できず、さらに体内や体外から身体の部位を発火させるような細工も確認できなかった。このことから警察は男が手から自然に発火することができる超能力者であることを認めた。
この二つの事件はすぐにニュースで報道され、ネッニュースでも話題となり、瞬く間に世界中で発信されることになった。
そしてこの事件を皮切りに日本だけでなく世界でもごく少数ではあるが同様の異能力による事件が報告された。この異能力者の誕生は世間に大きな影響と混乱を招いた。この事態を重くみた政府は異能力者に対する法律の改正を実施した。
まず「先天的に異能力を授かった、又は後天的に発現した国民及びその家族は市役所へ申告することを義務付ける」や「国から認められた者以外の異能力の使用を禁ずる」、「月に一度、必ず近くの市役所に常駐するカウンセラーとの面談を行う」等の法律が定められたことや異能力者による犯行の厳罰化などといった政府の政策より事態は一旦収束することとなった。後に対異能力犯捜査課。通称「異能課」という18歳以上の異能力者で構成された警察組織が設立された。そしてこの組織に属する者こそが国に認められた異能力者といえる。
さらに政府は各学校法人に異能力者が襲撃してくる可能性の対策として学校施設を守ることを目的とした異能力者との契約を強く推奨する意向を示した。当契約の対象者は18歳以上の異能力者だけではなく、学校に在籍する学生も例外ではない。そしてこの契約を結んだ学生もまた国に認められた異能力者の一員である。こういった契約を目的に学校を入学することを契約入学と呼ばれる。
青ヶ峰学園にて――
一日を終わりを告げるチャイムが教室に鳴り響く。
俺は足早に教室を後にする。その理由は今日が月に一度の面談の日だからだ。
「たしか予約してたのが17時だったな。さっさと済ませちゃおー」
本来ならば夜の19時まで学校の警備のため居残らなけらばならない契約だが、今日ばかりは国から定められた面談の日。流石の学校もそれを俺に違反させることはしない。
廊下を歩いていたその時、一人の男子生徒が、誰かを連れてトイレに入っていくのが見えた。
俺はまたか、と呆れてため息がでた。
トイレに近づき、様子を窺ってみると話し声が聞こえてきた。
「おい御山。金貸してくれよ」
そう言って御山を壁際まで追い込む生徒の背後を取りつつポケットから小さな鉄球の一つを手に握りしめそれを生徒に向けて放った。
「荒井ー。今のご時世カツアゲなんてみっともないんじゃないか」
俺の声に気づいた荒井は後ろを振り返る。そして放たれた鉄球を回避してみせた。
「いつもと同じパターンだな。流石に避けられるぞ」
「それはどうかな?」
荒井の顔を横切った鉄球は180度方向を変えて見事なまでに荒井の頬に着弾させた。そして命中した鉄球は投げた勢いを落とさないまま俺の手のひらに返ってくる。
「いってぇ! 本部! いくら異能力が使えるからって生徒に危害を加えていいのか? 先生にこのことを伝えたら退学になるかもしれないぜ」
「残念だけどそれはない。俺がきちんと先生にこのことを報告しているからな。いつも荒井が御山に嫌がらせをしているからそれを注意してるってな」
「真面目もここまでくるといっそ清々しいな。本当に気に入らねぇ。何がお前をそうさせるんだ」
「俺の夢のためだ」
「はあ? 夢がなんだって?」
「父さんに教えてもらった大事なことだ。力を使うのは誰かを傷つけるためではなく誰かを助けるためだと。それは夢を叶えるために必要なことなんだ」
だから…と言葉を続け荒井を睨みつける。
「お前がこれからも誰かを傷つけようもんなら俺が全力で阻止する。この本部芥には夢がある。それは異能力者の未来を勝ち取ることだっ!」
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