老人勇者が軍隊チートと戦った話
「おじいちゃん・・じゃなかった。タキジロウ勇者様!~~~~お食事の時間でございますわ!」
「あれ、さっき、いや、頂こうかのう」
城の中庭で、日向ぼっこをしていた老人が、10代のお姫様から声を掛けられた。
お昼ご飯の時間だ。
・・・私はフレデリカですわ。小国の王女、我が国は異世界召喚を行ったのですわ。
神官様と聖女である私が、麦20キロをお供えして儀式を行ったの。来られたのは、70近いおじい様、タキジロウ様ですわ。
皆は落胆したの。
でも、呼んだのは私たち。途方に暮れるタキジロウ様に、申し訳なく。
故郷から引きはがしたせめてもの罪滅ぼしに
客人として歓待しようと決めたの。
「お味は如何ですか?」
「最高じゃ、ところで、何故、ワシを呼んだのじゃ。孫の本では、魔王やドラゴンを退治するために、異世界召喚するのじゃろ?」
「いいえ・・・・タキジロウ様には、客人としていらっしゃるだけで、民の心が休まりますわ」
「そうかのう」
・・・可哀そうに、お孫様がいらっしるのね。
我が国は、勇者に荒らされている。勇者の名はロマン。
異世界の武器を召喚し、鉄の車で、我が国の村落を襲い始めた。
ロマンの持っている魔法の杖は、この国、一番の冒険者を簡単に屠り。私の婚約者・・・この国一番の騎士をも簡単に打ち取ったわ。
見えない鉄ツブテを放つ恐ろしい魔道具。
父上は苦肉の策として、上納金を渡し、乱暴狼藉をしないように、取り決めをしたの。守られるはずもない。
今でも、面白半分に、人を襲っているのですわ。
今、問題になっている一番の心配は婦女子の貞操ですわ。
「フレデリカ、すまない・・・無力な父を許してくれ」
「フレデリカ、グスン、グスン」
「姉上!」
「フフフフフ、この身一つで、ロマン様が満足なさるのなら、お安いもの。私がロマン様を改心させてみせますわ」
今日、ロマンの使者がやってくる。
私は、鉄の車に乗り。ロマンのアジトで、仕えるの。
「くれぐれも、タキジロウ様には、毎日、肉か魚を食べさせてあげてくださいね」
「おお、約束しようぞ」
「「「グスン、グスン」」」
「フレデリカ!」
タキジロウ様では絶対にかなわない。それは分かるわ。
私の部屋は、城の3階にございますの。国を一望できますわ。大好きな光景、これも見納めね。
あら、城の門の前に、鉄車が来ましたわ。城兵が出迎えていますわ。
ブロブロブロ~~
ロマンの能力は、こうした不思議なものを召喚することができますの。
付近のゴロツキも集まり。手が負えなくなりましたの。
あら、タキジロウ様が、鉄車に近づきましたわ。
あら、異世界から持ってきた杖・・・えっ、刀ですの。刀を抜きましたわ。
え、ロマン配下のゴロツキを・・・・
「斬ったわ!」
私ははしたなくも、スカートの裾を掴んで、走って、タキジロウ様のところにいきましたわ。
父上、母上、弟や兵士も・・タキジロウ様のところに参りましたの。
「フォフォフォ、話は聞いておったのじゃ。戦争じゃ。魔導士と鍛冶職人を呼ぶのじゃ」
ロマンの使者を殺すということは、軍事チートと戦争をすることよ。
父上は膝を落としていますわ。
しかし、
「是非も無し。勇者タキジロウ様の言うとおりにしよう」
「「「オオオォォォ」」」
この日、ロマンが国を襲うようになってから、初めて、城に歓声が響いた。
タキジロウは、一人生き残った使者に、文書を持たす。
「歩いて帰るのじゃ。姫はやらん」
書いた文字は、日本語である。
「や~い。キラキラネームのドキュン。姫はやらん。その臭い〇〇〇は自分で処理しろ。バーカ」
であった。漢字に読み仮名をふり馬鹿にしているのが分かる。この世界の人々には分からない。
「さあ、鍛冶職人を呼ぶのじゃ。力仕事を出来る若者を呼ぶのじゃ。決戦じゃ!」
☆軍議
「いいかのう。おぬしらが鉄車と呼ぶものは、燃えるのじゃ」
「「「何と!」」」
「そしての。鉄車はジャンプしないのじゃ」
「「「何と!」」」
「つまりじゃ」
タキジロウは、鍛冶職人にある鉄製のものを作らせ。若者に、穴を掘らせ。土嚢を作らせた。
☆洞窟
「バーカだと!」
洞窟付近の盗賊を吸収した夢見はいきり立つ。
パン!
日本時代愛用していたトカレフで、おめおめ帰って来た使者を撃つ。
「日本人が来たか」
・・・本職に追われ、川に落ちた時、死んだと思ったがよ。気が付いたらこの世界にいた。異世界転生したのさ。
俺の能力は、地球の軍隊のものを無制限で召喚できる。
やったぜーと思ったものよ。
しかしよ。装甲車や戦車、戦闘機を召喚したが、運転できないじゃん。使えないじゃんかよ。
F県の本職さんは、ロケットランチャー使うっていうけど、習っとけばよかったぜ。
せいぜい、車と銃くらいしか使えない。
自衛隊に入っておけばよかったか?あ、俺、刺青あるんだわ。
「で、相手はどんな奴よ」
「・・・あのロマン様、あの、唯一、城の勇者を見た使者をさっき殺しましたが」
【んだこら!】
シーン
「まあ、いい。これからブッコミだ、特攻隊長はお前やれ。銃を持たせてやるからの」
「は、はい」
☆
ロマンたち50名は、ランドクルーザー型の車に分乗して、銃を撃ちながら、王城の門の前に来た。
「おら、落とし前つけてやる!勇者出てこい。姫を寄こしやがれ!」
しかし、先頭の車が視界から消えた。
ドサ!ガチャン!
落とし穴がほってあったのだ。
タキジロウの言では、
『いいかのう。車はジャンプできないのじゃ。基本舗装、道しか通れないのじゃ。オフロードタイプでも、大岩があれば無意識によけるのじゃ。そこを踏まえてほるのじゃ』
「本当だ」
と遠くから、観戦していた穴を掘った村人はつぶやく。
車列の最後尾にいたロマンは、
「よけろ!!」
命令し、車は左右の草原に入る。
プス、シュユゥウウーーーーーー
車は草むらによけたが、そこには、鉄で作った逆木が植えこまれていた。
『いいかのう。車で一番、脆いのは足じゃ。あの車輪はのう。鉄の刃でパンクするのじゃ』
「パンクってこれのことか」
また、遠くで見ていた鍛冶職人は納得する。
車が動かなくなったら、隠れていた魔導士たちは、車に向かってファイヤーボールを放つ。
「「「ファイヤーボール!」」」
ボオオオオーーーーーーー
車に着火した。
『いいかのう。車は燃えるのじゃ。鉄じゃが、燃える血が流れているのじゃ』
「本当に燃えやがった。さあ、逃げるぞ!」
魔導士たちは、付近に用意された豪に逃げ込む。
「ええい。自動車から、降りて、銃をぶっ放せ!」
パン!パン!パン!パン!
銃声が響くが、魔導士たちが逃げた先には、土嚢が積まれて出来た壁が1.2メートルぐらいの高さである。形は半円状だ。
魔導士は飛び込む。
中は穴が掘ってあり。いわゆるタコツボ陣地だ。
プス!プス!
壁は貫通しない。
普通土を詰めた状態の土嚢は、横二個の厚さで5,56ミリ弾は、貫通しないとされる。
そして、
タキジロウは、
「ほお、これからは、騎士の出番じゃ。矢衾じゃ!」
ドンドン!と見張り台から、太鼓をたたく。
合図とともに、魔導士は、豪に鉄で出来た蓋をしめる。
「撃て!」
およそ、300名の騎士が、一斉に弓を撃つ。
個々を狙ってない。
面制圧を狙ったものだ。
グサ!グサ!グサ!
「「ギャアアアアーーーー」」
ロマンは、
部下を見捨てて、逃げ出した。
「「「やった――――――――」」」
☆洞窟
「はあ、はあ、はあ」
「あれ、親分、どうしたんですか?」
「いいから、金目の物を出せ!」
パン!
居残り組の金庫番のゴロツキを射殺して、逃げようとしたが、
洞窟を出た瞬間、ふいに横から人影が現れ、
グサ!
銃剣でロマンの胸は突かれた。
「ウグ、ウ・・」
ロマンたちが落としていった銃に、小刀を急遽取り付けたものだ。
「貴様、日本人じゃろ?面汚しが!自動車化部隊と機甲化部隊の違いが分からぬから、車が燃えるのじゃ!いいか?車で戦場に突っ込むのはイスラム国ぐらいじゃ!このド素人めが!」
「そんな話はもう、どうでもいい。仲間・・・だろ。こんな名前を付けた親が悪い・・名前と強面があっていないから、俺は・・・グレタ・・そうだ。回復術士を呼んでくれ、この世界であんたと手を組めば、国盗りだって・・」
パン!
タキジロウは銃剣が刺さったままの状態で、引き金を引いた。
近距離の射撃なので、返り血を浴びる。
「グワッ!」
プシュシュシュシュ―――
「フン、ワシじゃってな。ハンサムな顔に、タキジロウで苦労したんじゃわ。それにジロウってなんじゃ。次男ってすぐに分かるから、嫌な思いしたことあったのじゃ」
と一人、軽口をたたく。
「タキジロウ殿!」
「タキジロウ様!」
遠くから、タキジロウを呼ぶ声が聞こえる。
フレデリカを筆頭に、王、王妃、王子、城兵たちが、車でロマンを追いかけたタキジロウの後を追って来たのだ。
「フフフフ、最近の異世界転生して来る。日本の若い者の後始末をするのが、これからのワシの定めじゃ」
タキジロウは静かに去ったが、
「タキジロウ様!勝手にいなくならないで下さいませ!」
「タキジロウ殿!騎士団長になって下さい!」
老人の足なので、すぐに追いつかれた。
「返り血ごときで、私たちが貴方を嫌うと思いますか?」
「あの、その、ええと~儂は」
「さあ、今日は宴でございます。タキジロウ様の異世界での生活を教えて下さりませ!」
「儂は、その~」
「さあ、お父様、今日はホロホロ鳥ですわ!」
「ああ、国庫を解放しようぞ!」
・・・・・
この後、タキジロウの詳細は伝わっていない。
一説には、異世界の騎士出身であると云われている。
ただ、白髪、黒目の老人が、この国の中庭で、老メイドと一緒に、お茶を飲みながら、日向ぼっこをしている姿が、他国の使者に目撃されている。
後年、この小さな国が、大国からも一目置かれるようになったのは、「タキジロウ教範」発祥の地だからだ。
この世界で、軍事チート型のクズ勇者の被害が少ないのは、この小国発祥の「タキジロウ教範」なる本が冒険者ギルド、大国にまで出回っているおかげであると云う人も数多い。
最後までお読みいただき有難うございました。