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クラスの氷の女王とリア充御用達の店で会ったら、店員にカップルと誤認定された。話してみると両片思いが発覚し、女王の氷が溶けまくった件

「本日は二名様でよろしかったでしょうか?」


 とあるスイーツパフェのお店にて。


 僕は、嬉しいけども厄介なシチュエーションに遭遇していた。


「あ、いや……」


 ここで、ひとりです! などといえる雰囲気ではなかった。背中には、僕の服をギュッと掴んで離さない美少女がいる。


「二名です」

「承知致しました。すぐご案内しますね」


 いって、店員さんは。


 思い出したかのように、こう付け足した。


「可愛い彼女さんですね。お似合いのカップルですよ」

「……ありがとうございます」


 僕は、おそらく苦笑いしてこたえたと思う。


「こちらのお席になりますね。ごゆっくりどうぞ」


 席につく。目の前に座るのは、僕の憧れの人――【氷の女王】こと日暮(ひぐれ)鈴夜(すずよ)さんだ。


「……」

「……」

「…ねぇ、辻くん」

「はい」

「どうしてこうなったのかな? カップルでもない私たちが」


 そうだ。


 店員さんにはカップル扱いされていたが、その実は違う。


 落ち着いて状況を振り返ることにしよう。




 ***




 僕は(つじ)海晴(かいせい)。現役バリバリ高校生。


 現在高校二年生、彼女はむろんいるわけない。


 陰キャ街道まっしぐら、お先も真っ暗ボーイである。


 ……よし、記憶は飛んでいないな。悲しい記憶だけども。


 目の前に座っているのは、日暮(ひぐれ)鈴夜(すずよ)さん。


 やや小柄で、細くて整った瞳がチャームポイント。整った顔立ちとプロポーションから、僕に限らず、男子からの人気は根強い。


 人気の要因のひとつが、【氷の女王】という呼び名に、如実に表れている。


 男子からの告白は絶えないが、おおよその場合、冷淡に切り捨てる。痛い目にあった男子生徒は、数知らず。先輩後輩を問わない。


 クール系美少女を体現したような人だ。


 僕と日暮さんとは、ただのクラスメイト、という関係でしかない。


 けれども、僕は一方的に彼女を好いていた。気づいたら恋をしていて、何度か話す機会を得ようとした。冷淡にあしらわれてからは、諦め気味になっていたが。


 現在、六月半ばの某日。


 徐々に恋人ができるクラスメイトもちらほらと。


 非リア人生に嫌気がさした僕は、もう頭がおかしくなっていたらしい。


 リア充御用達のスイーツパフェに、ひとりで乗り込もうとしたのである。アホである。自ら傷を抉ろうとする愚行である。


 でも、リア充っていうのは、見るだけで眼福なんじゃないのか――そう思っていた一日前の僕をぶちのめしたい。


 軽い気持ちでおひとり様来店と洒落(しゃれ)込もう。


 そう思いきや、入店早々。日暮さんがおひとり様でアンニュイな表情で宙を眺めていた。


 見てはいけないものを見てしまった、という気持ちで胸がいっぱいだ。


 なにせ、いかにもモテそうな【氷の女王】が、リア充御用達の店にひとりさびしくやってきたのだ。


 クラスメイトに見られたらどうか。容易に想像がつく。


「日暮さん? どうしてここに」


 開口一番、僕は単刀直入にたずねた。


「……友達に、彼氏がいるって見栄を張っちゃって」

「うん」

「ひとりでこういうお店にきて、匂わせ写真を偽装しようと……」


 この発言で、【氷の女王】に彼氏がいないことがわかった。


「そういう君は?」

「非リアな自分を慰めようと」

「……自傷行為?」

「いわれると思ってたよ」


 気まずい空気の中、席が開くのを待っていた。


 名簿を書くまでもなく、店員さんはやってきた。

 そうして、現在に時は戻る――。




 ***




「どうしてこうなった、か。こればっかりは、偶然としかいいようがないよ」


 自分の好きな人が、同じカフェに同じ時間に来店する。


 偶然にしては、できすぎた話だ。


 が、まったく起こらないともいいがたい。絶妙なラインだ。


 日暮さんは、メガネを指で軽くおし上げた。


「珍しいですね、眼鏡をつけているなんて。ふだんは違うじゃないですか」

「うん。学校ではコンタクト。眼鏡だと陰気臭いっていわれちゃうから。でも、みんなと会わないときは、眼鏡の方が落ち着くから」

「そうなんだね」


 いつもの、コンタクトバージョン【氷の女王】も素晴らしい。


 しかし、眼鏡バージョンも、おっとりさがより際立っていて、かわいい。


「……辻くん、じっと見つめてどうしたの?」

「なんでもないです」

「嘘。男の人は、そうやってジロジロ見てくるとき、たいていえっちなことで頭がいっぱいって、相場が決まってるもん」


 鋭いな。


「……ごめんなさい。いつもと違うから、見入っちゃって」

「認めるなんて、素直だね」

「褒められたと思っておくよ」


 好きな人の前である。こうした失敗は、正直マイナスが大きすぎて厳しいところだ。


 冷静沈着にいかねば。


「なにか頼もうか」

「うん」


 いまのところ、声色は人より冷たい。無関心とさえ誤解されるレベルだ。


 果たしてうまいこと乗り切れるだろうか。不安で仕方がない。


 水と一緒にメニューが運ばれてくる。それぞれ人数分だ。


 各自でメニューを見て、注文を決定する。


「僕はホットティーで」

「私は限定パフェ。辻くん、せっかくなんだし、もっと他のやつ、頼まないの?」


 ホットティーならどこでも飲めるだろう、と暗にいっているのだろう。


「きょうは雰囲気を楽しみにくるはずだったんだ。それに、僕はホットティーが飲みたかったからね」

「わかった」


 タッチパネルで注文を済ませる。


 それから注文が届くまで、僕らは他愛もない話に花を咲かせた。


 部活、勉強、趣味……。


 冷静に、オープンに、真摯に話を聞いていると、日暮さんは心を開いてくれた。


「……だから、私。もっと人とお話ししたいな、って」

「うんうん」

「人に冷たいって思われてるみたいだけど……本当は、男子も女子も関係なく、みんなみたいにニコニコ笑えるようになりたいんだ」

「僕はいいと思うよ。日暮さんが日暮さんらしくあるのが一番だから」

「ほんと?」

「うん」

「そういってくれるのは辻くんだけだよ! うれしい!」

「僕でよければ相談乗るよ」


 おかしい。【氷の女王】という評判はなんだったのか。日暮さんはだいぶ楽しそうにお話ししてくれた。


 無愛想なはずが、ニコニコと。


 冷たいはずが、明るく楽しそうに。


 氷なんてなかった。咲き誇る花のようなかわいさがあった。まるで別人である。


「……あっ」

「どうしたの?」


 どうやら、ふだん見せない自分を出しすぎたことに気づいたらしい。


 頬がカァっと、みるみるうちに赤く染まった。


 顔を両手で覆って、僕に目を合わせてくれない。


「見ないで」

「大丈夫、物理的に見ないようにしてる」


 見たい気持ちを抑え、僕は三猿でいうところの「見ざる」のように、顔を両手で塞いだ。


 その状態のときに。


「ぷっ」


 誰か、堪えきれず笑っているらしかった。

「失礼しました」


 手の覆いを外す。店員さんが、注文した品を届けてくれたらしい。


「お待たせしました、ホットティーと季節の限定パフェです」


 誰とも目を合わせられぬまま、ホットティーとパフェを置いてもらった。


「……日暮さん、メンタル大丈夫?」

「大丈夫なわけないよ」


 顔から手を外した代わりに、日暮さんは顔から机に突っ伏してしまった。


「もう私、学校行けない……お嫁さんにも行けない……」


 完全に壊れてしまったらしい。


 大丈夫だと励まし続け、しばらくしてようやく復活する日暮さんだった。


「パフェでも食べたら、おそらく気持ちも上がると思いますよ!」

「うん、やってみる」


 大きなスプーンいっぱいに、すくう。


 そして、ガブリとひと口。


「おいしぃ〜」


 頬っぺたに手をあてて、心から美味だと叫ぶ。


 そこにいるのは、人目を気にせぬひとりの女の子だった。


「おいしそうに食べるね」

「羨ましいって思ったでしょ? ひと口いる?」

「せっかくだから」


 あーん、と僕はいわれるがままにいただいた。


「本当だ、これおいし……って、もしやこれ」

「あ」


 間接キスだった。


 真のリア充なら、なんのことはなかろう。


 しかし、純粋無垢なボーイ&ガールには刺激が強いというものだった。


「あっ、あっ、あ〜ん、もぉ〜!!」


 悔しそうに静かに拳を机に叩きつける。これが【氷の女王】の姿とは信じがたい。


「マジですみません。ほんと、意識しなさすぎて!」

「違うの! 別に間接キスはいいの! でも、そういうのは付き合ってからにしようって決めてて! でも前倒しになっちゃって! いろいろ君が崩しすぎで!」

「……えっ?」


 聞き捨てんならないことを、日暮さんはいわなかっただろうか。


 付き合う? 前倒し?


 いや、ただの勘違いだ。自意識過剰もいいところ。ちょっと話してもらっただけで恋しちゃうチョロすぎボーイではないはずだ。


「だから! 間接だろうと直接だろうと! キスするのは君と正式にお付き合いしてからにしようって! わかる!?」


 真剣に、愚痴でも漏らしているかのような、ふだん見ないテンションで。


【氷の女王】は、とんでもない爆弾発言をした。


「僕と、正式に付き合う? 聞き間違え?」

「なわけないよ! ほんとほんと!」

 じっと目を見る。


 すると、いったん落ち着いたらしく、さきほど以上に顔が真っ赤になってしまう。


 日暮さんは、「あああああああ」と壊れたロボットのようにひとしきり、小さく奇声を発したところで、こちらの世界に戻って来れた。


「……これって、告白でしょうか」

「うん。私が、ムードもなしにポロッと出しちゃったけど……」


 クール系女子、イコール、日暮さん。この公式は誤りだったらしい。


 日暮さんは、意外とポンコツみたいだ。


「いや、めちゃくちゃうれしいんですけど、理由がわからなくて」

「鈍感もいい加減にしてよ」


 日暮さんとは、ときおり関わることがあった。


 たまたま図書館で勉強を教える機会があったり、荷物を運んだり、困ったときにちょっと助けたり。


 それは、僕が日暮さんにすこしでも取り入ろうとした、ありていにいえば、下心のある行動だった。


 それを。


 日暮さんは。


「真摯で優しくくて。いやらしい目的で近づく人ばかりだけど、君は違った」

「僕も、下心がなかったわけじゃ……」

「いいの。どんな気持ちであれ、私は君に助けられたんだもん」

「日暮さん……」

「ね、ねぇ……はやくこたえてもらわないと、私……」


 答えなんてものは、はじめから決まっていた。

「僕も、日暮さんのことが好きです。ぜひお付き合いしましょう」

「辻くん、ほんと? ほんと?」

「もちろんです!」


 しゃあ、と小さくガッツポーズを決めていた。僕も心の中で決めまくった。


「両片思いなんて聞いてないんですけど」

「だって、いうのに勇気が足りなかったし」

「こうして偶然出会えなかったらどうするつもりだったんですか……」

「初恋が儚く散ってたかな……」

「ともかく結果オーライだ!」

「うん!」


 パフェもお茶も飲んで、初カップル記念で写真をパシャリ。


 これにて、【氷の女王】彼氏どうするか問題は解決。


 僕も、思いがけずリア充の道が開かれた。




 ……で、今回の話のオチ。


 会計時、僕の後ろで手を繋いでいる日暮さんを見て。


 入店のときに、「カップルですか?」と聞いてきた店員さんが。


「仲のいいカップルなんですね」


 といってくれたときに、今度は


「はい。ラブラブですよ」


 と、僕は自信を持ってこたえることができたのだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!!

もしよろしければ、★★★★★やブックマーク、「面白かった!」等の感想をいただけるとうれしいです!!

しばらくラブコメ短編をコンスタントにあげるので、別作品もよろしくお願いします!!

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[良い点] 「非リアな自分を慰めようと」 「……自傷行為?」  私もやった事あります(T_T) [一言]  次も楽しみにしてます!
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