8 二人を分かつもの
林太郎の目から涙が零れた。
「どうした?」
俺は吃驚して、駆け寄って林太郎を懐いた。
「おまいの書いた小説の主人公の少年て・・・刺客をしながら運命を切り開いて行ったんだよね・・・」
「あ・・・あ」
俺の小説!その中で、刺客に育てられた少年剣士は運命に逆らわず、非情の剣を振るった。その心の中の孤独と戦い、愛を求めて。
「映画の中で、『彼』を演じたけど・・・今、その心が始めて分かった様な気がする・・・」
林太郎の腕が強く俺の背中に回った。俺も力一杯彼を掻き抱く。あいつは俺の肩に顔を当てて言った。
「おまいを死んでも愛するって・・・俺の業かな・・・?」
「!」
この時、始めて俺は恐怖の奈落を垣間見た。
あいつの死なぞいっぺんも考えた事がなかった。しかし、この先、何十年先かも知れないが、必ずどちらかの死が二人を引き裂くのだ。
あいつは囁く様に言った。
「迷惑だろ・・・」
「ば・・・馬鹿野郎!そんなことがあるもんか!」
稽古と雖も、生死の狭間を通り抜けた林太郎は、現実に戻った時、死と生の壁の薄さを強く感じるようになったのだ。
「あの物語・・・本当に有った様な気がする」
この言葉に俺は驚いた。俺の書いた虚構が真実である筈は無い・・・
「え・・・?」
林太郎は顔を離して再び俺を見た。涙の跡が両頬について、はにかむ様な妖艶な笑みを見せて。
「おまいが小吉で・・・俺が、あの少年で・・・彼らが死んでも『契り』は俺達まで続いて・・・」
「りん!」
現代の小吉は、転生した少年刺客をいつまでも抱き続けた。
生きる限り、そうするし、死さえも俺達を引き離す事は出来ない。
遠い昔に少年への深い愛を彫り込んだ仏師、将軍万福の如く、俺は少年阿修羅像を心に刻み未来永劫、その姿を追うのだ。
外の森には雪が降ってきた様だ。俺達のためにあと何回、クリスマスはやって来るだろうか。
了
BLと新陰流って変な取り合わせだったかも知れません。でも今、研究している成果を取り上げてしまいました・・・友人のサー・トーマスが作った設定を借りて新陰流という古武道を通し、過去に生息していた『武士』という人達の名残を描いて行こうと思います。現代では、言い訳、嘘、開き直りなど、卑怯な振る舞いをする人間が多い。私たちは心に武士の誇りを以て生きていきたいですね。