表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

4 武士の復活

 林太郎の稽古着の姿は美しく、凛々(りり)しく、初々(ういうい)しかった。


 あのハリウッドで撮った、俺の小説が原作の映画『りんと小吉の物語』のオーディションで、林太郎が始めて少年刺客の出で立ちをしてスタジオに登場した時を思いだした。あの時はカツラを被り、長髪で袴をはかずに小袖だけだったが。

 俺は下腹に興奮を感じてしまった。


 林太郎は居並ぶ高弟達の列にそれぞれ一礼をして、神棚の下の祖父に向いて道場の中央に正座した。

 座る時、袴が足にまとわりつかない様に膝の横を押さえながら美しく座る。背筋は伸び、撫で肩で長い首のフォルム。首までさらと揺れる黒髪。脚の付け根に添えた手のたおやかさ。


「これを」


 『石舟斎』が、自分の横に置いたひきはだ竹刀を持って横にして差し出した。

 林太郎は一度、正座から後ろ足の踵にお尻を乗せた居合腰になると、そのまま膝行してうやうやしく祖父から竹刀を受け取る。そしてそれを左手で腰に捧げて祖父に背を向けて座った。


「!」

 居並ぶ高弟達から殺気が放たれた。

 師範である祖父の竹刀を受け取り、祖父を後ろに、自分達を見据えた林太郎は明らかに、将来、祖父に代わって師範を務める事を高弟達に宣言したのだ。


「高田殿、試して見られよ」


 祖父が高弟の列でも中頃に座っていた四十前後の弟子を名指した。呼ばれたずんぐりとした男は、頭を鋭く下げて一礼すると、左の竹刀をひっつかみ、すっと立ち上がり道場の中央に進み出た。どすんどすんと足を踏みならして怒りの表情である。どうやら高弟の中でも、林太郎を認めたくない粗暴な男の様だ。


 俺や他の野次馬は、呆気に取られて見ていた。

 まるで戦国時代か江戸時代に戻った様な感覚だ。


 バルブだ、経済破綻だと世が変転している間、彼らはこんな世界を脈々と継いでいたのだ!

 どこに彼らは逼塞ひっそくしていた?侍が現代に蘇った?



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ