表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/8

3 登場

 高弟の一人が道場の神棚の右にある陣太鼓を叩いた。


 どーんというに導かれ、林太郎の祖父がゆっくりと道場に入って来た。神棚の前の式台に上がり胡座をかいた。


 その前を開けて左右に並ぶ十数人の高弟達が、胡座を正座に直し親指を真っ直ぐにして人差し指を輪の様にした形で指を突き、礼をする。凛とした厳しさが道場を支配した。

 林太郎の祖父は、柳生新陰流の祖、柳生石舟斎(一五二七~一六〇六)も斯くあったろうと思うほど威厳に満ちていた。


 道場の入り口から、林太郎がしずしずと出てきた。

 剣道の丸袖の蒼い胴着と綿のこれまた蒼い折り目がきっちりと付いた袴を履いている。

 現代剣道とは異なり、袴の腰帯の下には角帯を三重みえに巻いている。後ろの腰で帯を丸めて止めているので、袴の後ろが盛り上がり、お尻が突き出ている様に見える。林太郎のその姿はキュートで女性的だ。

 高弟達の視線が一斉にあいつを刺した。


 俺の横の連中からほおという溜め息が上がった。カメラマンが腰を上げて、いざって高弟の列の最後部に近づく。

「おい、まさか・・・本人が出てくるとはな!」

 記者達が小さい声で囁き合った。


 新陰流の印可授与があると嗅ぎつけて来たこの連中は、師範の老人が、サッカー界で活躍し、ハリウッドに行って大スターになった柳生林太郎の祖父であることは知っている。しかし、まさか、あいつが印可を受ける本人とは思わなかった様だ。


「やったぜ!これは・・・武道雑誌なんかより女性誌に高く売れるぜ!ひっひっひ!なんちゅうラッキーよ!」

 撮影はビデオは許可されず、一眼レフのカメラだけだった。


 古武道は、修行者以外は一切、稽古内容を明らかにしないのが幕末までのしきたりだった。しかし、世の中が武道を必要としなくなった現在は、後継者の問題が常に深刻について回る。特に四百年の歴史を誇る新陰流はその教えを後世まで伝えるために、敢えて稽古や奥義を公開する様になった。


 しかしその技は、依然として高度な身体動作を要求するものであり、物まねをしても会得は出来ないのだ。

 入門して十年でやっとその入り口に立てると言われている。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ