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レオル 〜裏切りの亜人王〜  作者: ヤマ蔵
1章 回帰と決意。
8/40

7話

「・・・」

「・・・」


隣同士・・・か


壁があるといえ会話は可能。

見張りの姿は見えない。

しかし、誰か様子を伺っているような気配は感じる


さて、どうしたものか・・・


「キング」

「おっ、おぉ。えーと、あれだな。そのー」

「すいません」

「今回お前に・・・む?」

「俺・・・思いつかないんです」

「え?」

「キングを逃す方法が・・・俺には」

「ちょ、待ちなさい」


慌てて声を荒げてしまった自分の口を押さえるレオル


コイツ、この後に及んでまだ俺の身を案ずるとは・・・

前世の自分の振る舞いが洗脳をもたらした結果か?


「キング?」


いや、待てよ。

ここは見張りに気付いてないことを強調したほうが?

むぅ・・・今の反応を見せた時点で遅いか


仕方ない・・・


「だ、誰かが隠れて会話を聞いてるかもしれないだろう」


抑えた声だが、恐らく聞こえている

無駄に怪しまれるくらいなら開き直るか・・・


「! す、すいませんっ」


死角の壁に寄りかかりながら腕を組み、目を細める人物。

ギルバートがそこにいた


「俺は・・・迷惑ばっかり」


ふむ・・・


「ガルム」

「・・・!」


初めて名前を呼ばれた。

そう、無意識に感じたガルムは返事を忘れてしまう


「巻き込んですまない」

「え・・・」

「今回はどうしてもお前が必要だったのだ」

「俺が・・・必要?」


--------------------------


『何故戦闘に参加した!』

『その、あの・・・』

『貴様を救おうとした仲間が死ぬところだった』

『っ! キング、俺は・・・!』

『黙れ。魔獣との戦闘にお前は必要無い』

『そ、それじゃ・・・俺は何を?』

『必要となる場面は無い。速さを活かして万が一に逃げることを考えろ。仲間の足を引っ張るな』


--------------------------


「・・・」

「ガルム?」

「俺は、今回も足を引っ張りました」

「ん?」

「帝国騎士の気配に気付かず、ジェイさんとハークスさんを危険な目に・・・」

「ジェイが?・・・ハークスもか。なるほど」


ビクっ、と、怒りに満ちたレオルを想像して身体を震わすガルム


「お前たちが出会ったのは上級の騎士。そいつは気配を消すのも一級品だ」

「上級・・・騎士」

「ハークスとジェイも気付けなかった。お前の責任ではないさ」

「・・・」


そういえば・・・

ギルバートに聞くのを忘れていた


「2人は無事か?」

「は、はい。その騎士は何故か見逃してくれて・・・ジェイさんもその騎士の異様な雰囲気を感じたのか、素直に引きました」

「そうか・・・」


俺の様子を見に来てくれたのか・・・


いや、それより

戦闘を避けてくれてよかった


ギルバート・・・

お前に何か考えがあるのかもしれんが、とりあえず感謝する


「よかった」

「?」

「お前たちが無事で・・・よかった」

「・・・」

「本題に入ろう」

「本題?」

「あぁ」


レオルは確かでない気配に視線を向けるも、小さなため息をついて話を続ける


何もやましい気持ちでガルムを呼んだわけじゃない。

奴は俺がガルムを指名したことについて詳しい理由を追求しなかったが、ちょうどいいかもしれん


「俺が投降・・・いや、この場所に来たのは俺たちの無実を証明するためだ」

「は、はぁ」

「今までは威嚇に近い形で帝国の調査団を追い返してきた。しかし、それでは悪印象を与えるしかない」

「でも、それは奴らが勝手に決めつけようと・・・今回は特にそうじゃないですか」


目を閉じるレオル


この反応・・・今なら分かる


繰り返すが、我々の話に耳を傾けない帝国人に苛立ちから『人間とは分かり合える運命に無い』と皆に強く印象づけていた


その愚かさに気付いたのは自分が回帰する前、絶望的な状況から人間と協力し合えたタイミング


その時、既に皆とは離れ離れ・・・手遅れだった


ほんの少し力を持っているだけで長として崇められ、それに応えるよう頑張ってきたつもりだが・・・


本当は意思の弱さを隠すためだけの暴挙に過ぎなかったのだろうな


だから今度は・・・

神がやり直すチャンスをくれたなら・・・

心で分かり合える可能性を信じて進むしかない。

どれだけ理不尽に扱われようと我慢して・・・


“人間に自分たちの存在を認めてもらう”


そのために尽くすことはひとつ


”自分たちは人間と共存するに値する”


と示すこと


・・・よし



「思考を変えよう」

「え?」

「ただ、理不尽さに怒るのではなく、何故理不尽を感じる立場にあるのか。理不尽さを招いたのは、私たちにも非があるのではないか、と」


目を見開くギルバート


「まずは人間を知る努力をしよう。その上、拒絶されるだけならその時考えよう。力では勝てないからな・・・」

「・・・」


今の俺がこのセリフを言うのは違和感しか無いだろう。

だが・・・


2度と意思は曲げない


俺たちは・・・未来のためにも人間を敬う





しばらくの沈黙


その間、レオルは前世でのガルムとのやり取りが脳裏に浮かんだ


・・・


必要、不必要。

振り回されてつらい思いをしているだろう


歳はまだ若い。

本当に酷なことをした・・・



「お前は何があっても生きて帰すが・・・もし、俺も無事に帰れたら・・・」

「?」

「話をしよう。何の変哲もない会話を・・・たくさん」

「え?」

「そうだな。お前が得意とする釣りでもしながら、な」

「キングが・・・ですか?」

「ま、前から興味があったのだ。悪いか?」


いきなりの話の展開にキョトンとするガルムとギルバート


ガルムはすぐにクスっ、と笑い、レオルのいる牢壁に視線を向けた


「全力で解決しましょう。ご指示を」



話はまだ終わりを迎えない


だが、ギルバートはその場から既に立ち去った後だった

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