6話
鈴虫の鳴き声が響く森。
暗闇を照らす焚き火・・・
その焚き火を囲む数十の影。
その中心にリザードマン、グリウスの姿があった
「話は以上。意見のある者は?」
しん、とする場
(難しいか。あのキングが、無実の証明に単身で帝都へ向かったなどと信じる者は・・・)
「あの・・・」
「っ!! な、なんだ?」
「・・・」
「キングは俺たちの居場所を見つけるために活動しています。だから俺たちも信じてついて来ました」
「あ、あぁ」
「でも、最近は力を示すとか、弱さを見せないためにとか、人間との争いを考えているような発言が多かった。まるで・・・友好なんてどうでもいいような・・・」
「・・・っ」
「だから、いきなり無実を証明に行くなんて・・・。どういう考えなのでしょうか」
「それは!・・・皆のために!」
「無実を証明したら、何が変わるんですか?」
「っ!」
(確かに。無実を証明したところで何か変わるのかと言われれば・・・答えれない)
「あの・・・キングは、自分だけ人間に認められようと・・・してませんよね?俺たちを見捨ててでも・・・」
「なっ、馬鹿を・・・!」
背筋に電流が流れる感覚
違う。
そんな簡単な否定すら声に出ない
考えもしなかった予想。
いや、容易に出来た予想でもある
《あり得る》
そう、直感的に思えてしまったグリウスは頭を抱えた
「ま、マジかよ」
「今までキングのいう通りにしてきたのに!」
「俺たちを役立たずとして捨てる気なのか!?」
(やめてくれ・・・頭が、おかしくなる)
「キングの強さなら・・・可能性は低いが、人間に認められてもおかしくないかも・・・」
「俺たち、魔法で一掃される?はは、はははっ」
「ここはバレてますよ!グリウスさん!早くこの場を離れたほうが良いのでは!?」
(どうする・・・どうすれば・・・)
ふと、木に寄りかかる幼いダークエルフ、ルカの横顔が目に映った。
同時に今日起こった数々の出来事が脳裏に浮かぶ
(馬鹿だな私は。キングを信じ、あなたが帰るまでこの子たちを守ると誓ったばかりなのに)
「聞け」
低く、重い声質。
呟きに近い発言だったが、ざわついた周りを沈ませる一言であった
「今まで様々な困難から我々を救ってきたのは誰だ?」
「・・・!」
静かになる一同
「その時、キングの目や背中を見てきただろう。きつい言葉を並べても、お前たちを守る姿はどのように映っていた?」
「・・・うっ」
皆が脳裏に浮かべるのは魔獣との戦闘時、レオルが放っていた言葉。
弱者と罵られ、勝利しても戦闘で傷付いた身体を労らってくれない。
しかし・・・
最後には、自身が傷付いても必ず仲間を庇って命を救ってくれていた。
「キングが別れ際に見せた目は・・・私たちを守る目そのものだった。誓ってもいい」
完全に黙る一同。
その様子を見て、グリウスは小さく息を吐いた
(ふぅ。ん・・・?)
新しく現れる影に視線を移すグリウス
「誰だ?」
影の正体は黒豹型の亜人、ジェイだった
「・・・」
「集会には顔を出せと言っただろう」
「帝都の様子を見てきた」
「何?」
「キングがひと暴れするんじゃないか、ってね」
【ひと暴れ】という言葉に反応する亜人たち。
落ち着き始めた空気が一変し、不穏な空気へと戻っていく
「え?まさか、そっち?」
「諦めたのは本当で、帝国で一矢報いるためにわざと捕まった?」
(ジェイ、余計なことを・・・!)
「ガルムとハークスを連れて見に行ったんだが・・・」
ジェイの横で身体を震わす鳥類の亜人、ハークス
(ん?ガルムの姿が見えないが? )
ハークスの違和感ある様子も重なり、冷や汗を流すグリウス
「ガルムはどうした?」
「・・・」
「ま、まさか」
黙り込むジェイでは埒があかないと悟ったグリウスは、隣のハークスへ歩み寄り、両肩を押さえた
「何があった!?」
「あ、あの・・・その・・・」
「ハークス!」
「ひっ!私は、け、結構離れていたんですが・・・ギルバートとかいう、帝国騎士・・・が、いきなりやってきて・・・」
(ギルバートだと?今日現れた騎士が名乗ってたのも確か・・・)
「連れて・・・いかれました」
「!?」
ジェイに詰め寄るグリウス
「何故そんなに冷静でいられる?仲間が・・・」
「キングがガルムを巻き込んだ」
「え?」
グリウスは自分よりも早く反応したハークスへ視線を向ける
「ハークスは遠くから見てた。話の内容は聞こえちゃいない」
「・・・この反応はそのようだな」
「さて・・・本題だが、キングは身内の情報をベラベラ喋ったみたいだぜ?」
「待て。何故分かる」
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『狼、灰色の獣毛・・・君がガルムだな』
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「奴の最初の言葉はこうだった」
(知らないはずのガルムの名を?)
「それでよ、聞いたらレオルが指名したらしいじゃねーか。何故ガルムなのか知らねーがな・・・」
「・・・?」
一瞬、悲しそうな顔をしたジェイに首を捻るグリウス
「俺の今の態度はキングに対しての呆れ、さ」
「・・・」
「連れて行かれたのは俺の責任でもあるが・・・キングは誇りを忘れ仲間を巻き込んだ。グリウス、アイツは終わりだぜ」
ニヤつくグリウス。
その様子を見て、ジェイは顔を歪める
「安心したよ」
「聞き間違いか?」
無言のまま表情の変わらないグリウスに、たまらず胸ぐらを掴むジェイ
「どういう意味だ?」
「ガルムには申し訳ないが、あの子は気が弱くて戦闘でも光るものが無い。何より、優しい」
「はぁ?」
「少なくとも、争いを企むという線は消えた」
「・・・ちっ」
ワケが分からないまま、グリウスの微笑みにジェイはゆっくりと手を離す。
「信じるんだ。もう馬鹿な真似はよせ」
「信じる・・・?」
ジェイの脳裏にとある映像が映し出される。
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『そん・・・な』
『素直に言うことを聞いたほうがいい。お前たちでは俺に勝てん』
『ジェイさん。俺、行きます・・・。奴の言う通り勝てない。そんな気がします・・・!』
『馬鹿言え!連れ去られる仲間をただ見送るかよ!』
『・・・心配するな。連れて行く奴は上に報告しない。お前たちの長が目的を果たせたら、そいつだけは必ず返すと約束する』
『っ・・・』
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(必ず、だと?人間の・・・人間の言うことなんか信じられるかよ。どっちにしろ殺すつもりだ!)
ギルバートとの対面時、膝が震えていたことを思い出すジェイ
(くそっ、俺は何もできなかった・・・)
(レオル。何故お前は俺を・・・)
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~帝都・グリンベルト城・地下牢入り口~
狼型の亜人、ガルムを見て顔を歪めるリック
「えっと・・・明日の朝一、って話じゃ無かったですか?」
「気配を感じて巡回してたらたまたまソイツがいた」
「いやいや、色々マズいでしょ。総帥に話を通さない方向もアレなのに・・・。朝迎えに行ってそのままこっそり、って話だったじゃないですか〜」
「黙れ。手間が省けただろ」
両手を縛られたガルム。
その後ろで口論するギルバートとリックを横目に不安の表情を浮かべた
「はぁ・・・。というか、隊長?」
「なんだ」
「なんであの獅子顔の言うこと、聞いてやるんです?」
歩みを止めるギルバート
「・・・」
「俺たちにひと泡吹かせるための要員で、何か起こされたら強制退役じゃすまないですよ?」
「それは無い。まだガキで実力も無い」
「言い切っちゃった」
「・・・おい」
突然の問い掛けに背筋を伸ばすガルム
「お、俺ですか?な、なな、なんです?」
「まずは拘束せざるを得ない状況を謝る。それと、何故お前がここにいるか説明したな?」
「は、はぁ・・・」
ギルバートは一息をついてリックへと視線を戻す
「見たろ」
「え?いや、何を?」
「何も知らない顔だ。奴がここに来れた場合の作戦があるなら、予めコイツにも話は通っているはず」
「演技、って言葉・・・知ってます?」
返事しないギルバートにため息をつくリック
「で、この亜人、一人だったんですか?」
「いや3人いた」
ガルムはピクっ、と尻尾を伸ばす
(まさか・・・あの遠くにいたハークスさんに気付いてたのか?)
「よく連れてこれましたね。まさか・・・」
「お前が思っているようなことはしてない。お前たちの長が目的を果たせたら返すと約束したら素直に・・・とは言えんが引いてくれたよ」
(ますます怪しいだろっ。獅子顔の指名する奴がそこにいた時点で怪しすぎるって)
「リック」
「え、あ、はい?」
「何故奴の言うことを聞くのか、と言ったな」
「はい」
「理由は2つ」
ガルムに「歩け」と顎で指示し、歩き出すギルバート。
それに合わせ、歩み始めるリック
「俺は、亜人、人間に限らず悪は躊躇なく斬る」
(嘘だぁ。亜人は特別っしょ?)
「そのため、あの事件の犯人をなんとしても突き止めたい」
「亜人の力を借りてでも・・・ですか?」
「そうだ」
リックは突然放つギルバートの雰囲気に、冷や汗を流した
「コイツらが何か企む?もしそうなら逆に好都合だ。俺は喜んで獅子顔の仲間を殲滅し、総帥の機嫌取りをするよ」
「・・・」
「小細工が通用すると思ったら大間違いだ。だから、ある程度の行動を許せばボロが出るのも早まる。そう思ったのさ」
ギルバートの異様な雰囲気に震えるガルム
(キングは、何かを企んでいるのか?。でも、いくらキングでもこの人には・・・)
「2つ目は?」
「・・・」
重い空気が一転したことに、リックは首を傾げる
「・・・ロイドが奴に石をぶつけたとき」
(息子さん?・・・あぁ昼の一件か)
「奴の顔を見た・・・」
思い出そうとするリック
「あの目、とても人間を憎んでいる奴の目じゃない」
「 っっ」
「悲しみに満ちた・・・目だ」
リックはギルバートの言葉で、そのときのレオルの表情を完全に思い出した
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『帝国人は皆、亜人を憎んでいるのか?』
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「人間を憎むなら、咄嗟に見せる目ではなかった」
「・・・」
「奴が共存のため本気に考えを改めた。ならばその本気がどこまで続くのか見てみたい。そんな気持ちが心のどこかに生まれてるのかもしれんな・・・」
会話が終了し、しばらく無言で歩く3人
ひとつの牢とその中の大きな影が視界に入ってくる
「ガルム!?ど、どうして・・・?」
「お前が連れて来いと言ったんだろ。なんだその顔は」
「そ、そうだが、話では明日だったじゃないか」
「キング・・・」
隣の牢にガルムを入れる準備を始めたギルバート
「何故隣・・・と、聞かないんだな」
「突っ込んでほしいんすか?はぁ。ここまで来たら既に同犯ですからね。もう好きにしてください」
「・・・」
気まずそうに見合うレオルとガルム
そして、2人は同時に目を逸らすのだった
ガルム
14歳
狼型、亜人
獣毛色:灰色
173cm、58kg
人1:9獣
ハークス
17歳
鳥型、亜人
羽毛色:茶色
157cm、42kg
人2:8獣