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レオル 〜裏切りの亜人王〜  作者: ヤマ蔵
1章 回帰と決意。
5/40

4話

木を殴るジェイ

鈍い音が夜空に響いた


「くそっ!」


グリウスは「よせ」と声をかけ、目を閉じる


「相手のリーダーは格上で魔導士を何人も引き連れていた。抵抗したら皆死んでいたよ」

「分かってるよ!」

「あの方は私たちを守ってくれたんだ」

「どういう意味・・・だよ」


ジェイはギルバートの声が聞こえる位置にいなかった。

故に言葉の理解が出来ず、眉間にしわを寄せる。


「まさか・・・キングの首で話をつけたのか?」

「い、いや」

「話し合いです」


第三者の声に同時に振り向くグリウスとジェイ

そこにはダークエルフの子供、ルカが立っていた


「主様は・・・話し合いで私たちの無実を証明しようと試みました」

「黒妖精・・・」


俯くルカ


「黒妖精じゃ・・・ない。ルカ」

「は?ルカ?」

「主様が、そう呼んでました」

「キングが・・・?冗談だろ?」

「じゃ、ルカとは何の言葉ですか?」

「・・・」


(うぅむ。あれは名前として呼んだかどうか分からんが・・・曖昧な返事を信じてしまったか)


「ん?待てよ。話し合いをした・・・?人間と?」

「はい」

「馬鹿言うな。人間が俺たちの言葉を聞き入れるワケ・・・」

「ルカの言う通り」


名前を呼ばれて胸に暖かさを感じるルカ

初めての感覚に首を捻る


「人間たちは私たち【亜人】の言葉に耳を傾けて話を聞き入れてくれた」

「・・・」

「私は愚かだ・・・あの方の思考が暴走に向かっていると疑って止まない日々。だが、私たちのことを考え常に新しい道を探っていたのだ。それを今日・・・強く感じた」

「何言ってやがる。話し合いはお前が提案したんだろ」

「いや、私が言わなくても今日の結果は変わらなかったよ」

「なんでそう思う」


ジェイは微笑むグリウスを見て、顔をしかめた


「そう、思ったからだ」

「はぁ・・・?」


ため息をつき、背を向け歩き出すジェイ


「わかんねー・・・な」

「待て、どこに行く」

「別に」

「夜に召集をかけ、キングがどういう状況にいるか詳しく話す。お前も来るんだぞ」

「今言えねーのか」

「頭に血が昇ったままのお前には話さん。少し冷静になれ」

「・・・」

「変な気は起こすな。お前は」



瞬時に木々を移動するジェイを横目に、口を閉じるグリウス


(怒るのも無理は無いか。実際私は・・・何も出来なかったからな)


「グリウス様」

「ん?どうした?」

「ジェイ様はもしかして・・・」


その先の言葉はわかる

(混乱はしているだろうが、すぐ帝国に向かうことは無いだろう)


「いや、大丈夫だよ」

「でも・・・」

「仲間なら信じてやるんだ」

「なか・・・ま」


(キング、私には祈ることしか出来ない。お許し下さい・・・)


「あれは・・・どうせ演技ですよ」



一瞬の空気の変化



「ん?今、なんと言った?」

「・・・いえ、別に」


--------------------------


『私を何故連れてきた・・・だと?』

『・・・はい』

『お前の能力に価値があるからだ』

『っ・・・!』


--------------------------


「ルカ」

「・・・」

「ルカ?」

「は、はい!」


グリウスはルカの反応がおもろしろく、小さく吹き出した


「今日のキング。おかしかっただろうか」

「え、と・・・」

「別人に・・・見えたか?」


別人、という言葉に反応し首を左右に振るルカ


「たしかに今日の主様はいつもと違いました」

「・・・」

「けど、その・・・いえ、それ以上何もありません」

「そう、か」


帝国のある方角へ視線を移すグリウス


(これで彼らが応えないのなら・・・私たちのこれからを・・・考えなくては)


「あ、あの」

「?」

「もう一度、名前・・・」

「ん?」


ルカは慌てて口を押さえ、視線をそらした


「なんでもありません。失礼しました」


苦笑いを浮かべるグリウス


(おかしい・・・私、どうしちゃったんだ)


---------------------------------------------------


〜帝国・グリンベルト〜


門を越え、街並みを見渡すレオル


「止まるな。進め」

「・・・」


平和・・・だな

初めてこんな穏やかな帝国内を見る


時が戻る前の人生でも訪れたことはあるが、あれは・・・


ふと思い出す、死ぬ前の世界


崩壊後の帝国

確か・・・


・・・


思い出せん


崩壊後の帝国に来た記憶はある

しかし、どうして私は・・・


時が戻ったといえ、記憶の程度に波がある


帝国に着くまで記憶を整理してみたが・・・

帝国に限らず所々記憶が曖昧だと分かった


・・・


先程から帝国のことを考えると、胸の奥から湧き出てくる後悔の念


帝国の崩壊。そしてそれが引き金となり、終わりへと進むこの世界

これは、はっきりと覚えている


しかしその過程が詳しく分からないのだ


分からないのに“原因は私にある”

そう感じて止まない



「亜人」

「?」


振り返ると、そこには帝国騎士団の部隊長、ギルバートが立っていた


「ひとつ聞くが」

「なんだ?」

「太陽神、騎士道という言葉がお前から出た」


ん?


「騎士道は太陽神の教えからくる。帝国人にとっては馴染みのある話かもしれんが・・・亜人のお前が何故知ってる」


むっ


「えー、いや、その」


睨むギルバート

レオルはそれを見て、慌てて冷静を装う


「人間と交流がまったく無かったわけじゃない」

「そうなのか?」


むむっ


「そ、それはそんなにも重要か?」

「・・・まぁいい」


ふぅ


俺は演技が得意じゃない

こんなのが続くと思うと先が思いやられるな


ん?


感じる無数の視線

その視線の正体は帝国人達だった


ふむ

門番の驚きを隠せない表情で分かってはいたが・・・


俺は亜人種。グリンベルトの中では無縁の人種。

数々の視線は珍しさからくるものか、それとも・・・


「っ!」


突然の頭部への衝撃

たまらずレオルはよろけ、地面に滴る血と石が目に入り、自分が投石されたことに気付くには少し間が必要だった


「誰だ!」


ギルバートは投石された方向へ視線を向ける


「・・・」

「・・・!」


視線の先に映る小さな影

ギルバートは目を細くし、その人物へ駆けようとする部下を手で静止させた


「・・・ロイド」


子供?


2発目を用意していたが、ギルバートに見つかり断念。子供は舌打ちと共に姿を消す。

そしてレオルは騎士に背中を強く押され、一同は何ごとも無かったかのように行進を始めた。


「怒らない・・・か」


声をかけてきたのは金髪の騎士だった。

たしか、リック・・・と呼ばれていたか。


取り出した布でレオルの側頭部を押さえるリック


「む?」

「清潔だから安心しろ。てかお前デカすぎ。少しかがめ」

「・・・すまん。ありがとう」

「さっきもそうだが、お前って素直に礼が言えるんだな。隊長も見習ってほしいよ」

「・・・」


--------------------------

-------------


“誰かから何かをしてもらったら素直に感謝の言葉を贈るべきです!”

“・・・ふんっ”

“もぅ。可愛くないんですから・・・”


-------------

--------------------------


「昔」

「?」

「ある人から教えてもらった。素直に感謝の言葉を贈れる人になれ、と」

「人間、にか?」

「それが・・・思い出せないのだ」

「ガキの頃ってわけね。お前が今いくつか知らねーけど・・・」

「・・・」


何故こんな記憶が・・・?

だが、顔が出てこない

変な感覚だ・・・


「そんな見た目で寛容だと色々狂うぜ・・・」

「あの子」

「ん?」

「憎しみで満ちた目をしていた」

「・・・」

「帝国人は皆、亜人を憎んでいるのか?」

「そういう教育はされてきてるだろうな。実際に被害に遭った奴なんか少ないだろうけど」

「俺たちは・・・人間に危害を加えたことなどない」

「お前たちが亜人の全てじゃない。まぁつっても、そんなこと言ったところで信じないから無駄だよ」

「・・・そうだな」

「・・・」


髪をかき上げ、レオルの横に密着するリック


「さっきの子はな・・・」

「?」

「ギルバート隊長の息子だ」

「何?」


驚きを隠せないレオル


「あの子は亜人から被害を受けた1人」

「・・・詳しく聞いても?」

「詳しくは知らない。だが」


リックは憐れみの視線をギルバートの背中へ向ける


「あの子と隊長は、亜人に人生を狂わされたんだ」

「・・・」


脳に記憶が蘇る感覚

はっ、と先ほど子供がいた場所へ視線を送る


あの子、どこかで・・・?


「どうした?」

「・・・いや」


何か言葉にしようとするが、静かに口を閉ざすレオル。

目的地に着くまで、これ以上2人が言葉を交わすことは無かった


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