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レオル 〜裏切りの亜人王〜  作者: ヤマ蔵
プロローグ
1/40

亜人王と呼ばれた男の最期

両手に広がる血


今まで何度か目にした光景。


例えば魔獣の血・・・

なんてことは無い。洗い流して終わりだ。


・・・仲間の血

救えなかった命。

キツいものはあったが、何度も乗り越えてきた。


そう。人はいずれ死ぬ。

だから、今回もどうってことはない。

どうってことは・・・


「・・・レ、オル」

「なんだ?」


女性は震える手で、自身が着けていた首飾りに触れる。

笑顔を見せ、痩せ細った腕を伸ばし、獅子顔・・・“亜人”の男へとその首飾りをかける。


「何だ、これは?」

「・・・ふふ。形見に・・・して」

「・・・よせ、縁起でもない。まだ助かる」


男はこう言うが、途切れ途切れでも必死に会話しようとする相手を見れば死期が近いのは分かっている。


「あきれた・・・。最初から、着けて・・・たのに。初めて見るような・・・はぁ、その顔は・・・少し、傷付く」

「・・・興味ない」

「・・・」

「もうしゃべるな。今止血を・・・」


突然、掌で頬から首筋へと優しくなぞられた亜人は言葉を失う

最後の力を振り絞って何かを伝えようとする女性。


それを見て、亜人の男性は慌てて顔を近付けた。


「私は“全て忘れる”」

「?」

「だから・・・また、あなたを・・・に、なれたら」

「何?」

「・・・してる、わ」


間も無く女性は息を引き取る。


「おい」

「・・・」

「・・・」


腹部が血で滲んだ亡骸。

渡された首飾りを無意識に握ったまま呆然とする自分


そして・・・

その亡骸を抱え、獅子顔の亜人は彼女が遺した“最期の言葉”の意味を探る。


だが、頬の違和感が思考を遮断させた


「・・・?・・・??」


それは【亜人の王】と呼ばれた男の初めて流す涙


今回も乗り越えれる。

死んだ仲間のために・・・償うために、俯いてはいけない。


だが、何故だ?

違和感がある。


いままでと・・・違う


なんだ、この感覚は・・・


------------------------


最後の仲間を失ってから、いくつか月日が過ぎ・・・


「・・・」


獅子顔の亜人は、甲冑を身に纏った人間たちに地面へ押さえつけられていた。


力なく顔を上げる亜人。

不気味な笑みを浮かべ、顔を近付けてくる赤髪の男性が目に入る


「奴はどうした?」

「奴?」

「とぼけるな。お前にとって大切な人だろ?」

「大切・・・?」


獅子顔の亜人が見せる反応が気に入らなかったのか、赤髪の男性は舌打ちする。


「なんだ、それ」

「・・・」

「・・・面白くないツラを見せる」

「・・・」


大切・・・確かにそうだ。

仲間は大切。


・・・。


・・・まただ。

何度も訪れるこの違和感


表情を変えない獅子顔の亜人。

それがまた追い討ちとなり、赤髪男性の顔から笑みが完全に消える


「何故、抵抗しない」

「・・・」


目を細める赤髪の男性


「もうどうでも良い、って顔だな・・・貴様を信じた兄上が馬鹿らしくなる」

「・・・」


“信じた”


その言葉がやや強調されていたように感じた獅子顔の男も同様に目を細める。

そして、これまでの様々なことを振り返った


自分のせいで死んだ仲間。

自分のせいで引き起こした事件。

そして、最後の“裏切り”


出てくるのは『~していれば』という後悔だけ・・・


獅子顔の男は目を閉じた



-------------


『“愛している”』


-------------




これが、彼女の最期の言葉


理解できなかった


【愛している】


この言葉の意味は分かる。

分からないのは・・・


”あいつ”が自分にこの言葉をかけたこと


俺は・・・愛されるはずが無い


この真理を探るため、彼女を亡くしてから言葉に表せない苦しみを感じながら時を過ごした


何故・・・?

何故苦しかったのだ?

何故、大切という言葉に引っかかるのだ?


はっ、とする獅子顔の男


「そう・・・か」


そして、目を閉じると涙が頬をつたった


「俺も・・・“あいつ”を【愛していた】のか・・・」




気付くには遅すぎた。

もう少し素直になれていたら最期の別れ方も変わっていただろうか


最後の最後まで後悔するとは・・・


それももう・・・終わりだ


獅子顔の男は地面に額をつけ、過去の仲間たちを思い浮かべた


「許して・・・くれないだろうな」


いきなりの亜人の涙に、眉を動かす赤髪の男性


「何を考えている?」

「初めてだよ」

「は?」

「毎日、毎日。考えない時間は無かった」

「・・・?」

「気付いたんだ。彼女は大切以上の存在だってことに」

「・・・」


冥界でもなんでもいい


また会えるなら・・・俺は・・・


「アグニス」

「っ」


突然名前を呼ばれ、眉を動かす赤髪男性


「・・・最後に頼みがある」

「ふっ、笑わせるな。今更命乞いは・・・」

「どれだけ苦痛を与えて殺してもいい。だが・・・」

「・・・?」

「この首飾りだけは、俺の身から離さないでくれ」

「・・・」



穏やかな顔


その表情は、赤髪の男性にとって獅子顔が次に出す言葉が偽りで無いことを感じさせるものであった



「すまなかった。友よ」

「・・・」



突然の風切り音


亜人の首が宙に舞う




興味無い、と伝えた後、本心を言うべきだった・・・





お前しか見ていなかった・・・と


「・・・」




“亜人王”と呼ばれた男性の一生は終わりを迎えた



首を飛ばされながらも、獅子顔の身から離れなかった首飾り。

それを悲しみとも取れる表情でしばらく見つめ、アグニスと呼ばれた男性はその場を離れる


「・・・」


そして、静寂が訪れたその場に・・・





光が周辺を包むのだった

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