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番外編  トゥルーとムーンの、初めて極秘任務(おつかい)

すいません。活動報告とツイッターにも書いたのですが、差し歯にしていた前歯が折れた為、抜く事に。おかげで現在、歯抜けばばぁになっております。しかも痛み止を飲むと、ひたすら睡魔が襲ってきて、頭が働かないため、今回は少し短めの番外編を、投稿いたします。来週はちゃんと、本編に戻ります。


「ねえ、変じゃない?」


 バートに合わせるように、髪色を薄い茶色にしたトゥルーが、前髪を引っ張りながら、横に立つバートを見上げる。こちらは、普段の魔術士の服装ではなく、街中でよく見かける出で立ちだ。髪をわざと乱しているせいか、砕けた雰囲気となっていて、それが彼をいつもより若く見せている。


「よく似合ってますよ」


「すごく可愛いですよ。それに、そうしていると、本当に親子みたいです」


 手を繋いで立つ二人を前に、変装魔法をかけたエリアナが微笑む。つい先日、師匠であるヘンリーの養女となり、ラスボーンから、ギンゲルに名字が変わったばかりの彼女は、今回の式典への参加と、近々開かれる自身のお披露目の準備の為に、昨日王都に到着していた。


 そして今朝早くに、緊急の案件が持ち上がったとの連絡を受けた養父と共に、王城へと来ていたのだ。もっとも、彼女自身は葬儀には参加しないため、戴冠式迄は、さしたる用事もない。

 その為、顔見知りの魔術士達に挨拶でもと思い、宿舎を訪ねたのだが、そこに居合わせた香菜姫に、「丁度良い、手伝え」と言われ、今に至っている。



 家族の事を覚えていないトゥルーは、魔術士の中で一番仲が良いバートと家族に見えると言われ、少し嬉し気だ。ニコニコしながら、すぐ側で不貞腐れた顔をしているフェンリルに、内緒話をするように小声で話しかける。


「僕たち、今から極秘任務なんだって。ムーン、頑張ろうね!」


「う、うむ。しかし、このような姿を衆人に晒すのは……」


「なんで?可愛いよ」


 飼い犬に見えるよう、中型犬程の大きさになったムーンの首には、首輪代わりの赤いリボンが結ばれている。しかもエリアナの手によって、わざわざ蝶結びに整えられていた。


「何度も言うが、我は聖なる神獣であってだな、このような愛玩どう……ぶっ」


「ほれ、この臭いじゃ。しかと覚えよ」


 ぶつくさと文句を言うムーンの鼻先に、姫が火薬を少し包んだ布切れを押し付ける。突然鼻いっぱいに嗅がされた変な臭いに、フェンリルが目を白黒させるのを確認すると、それをバートに手渡し、トゥルーの方を向く。


「トゥルーよ。もしムーンが火薬を見つけても、決して掘り出させては、ならぬぞ。あくまでも探し出すのが、今回の其方(そち)達の仕事じゃからの」


 しゃがみこみ、優しく言い聞かせる。


「娘よ。その扱いの違いは、何処から生まれるのだ?」


 フンス、フンスと鼻から臭いを追い出しながら、ムーンがぼやく。先程、檜扇を手にした姫に「大人しくしやれ!」と言われ、リボンを結ばれた事を根に持っているのだろう。しかし。


「まだ幼いトゥルーを、心配するのは当然じゃろうが。それに其方(そち)は、聖なる神獣様なのであろう?妾ごときが心配する必要は、なかろう」


 姫に一蹴され、さらに不貞腐れた顔になる。


「聖女様。一応、念のために刑場だけでなく、少し広い範囲で探してみたいと思っています。万が一と言うこともありますので」


 今回の探索の責任者であるバートの言葉に、姫が頷く。


「あい、判った。宜しく頼む」




「なんだか、ドキドキするね」


「そうですね。あぁ、そうだ。今日一日は、私の事を父さん、と呼んで下さいね。ムーンは、絶対に喋らないよう、気を付けて下さいよ。なにせ、犬の役ですからね」


「判っておる」


「そうそう。上手くいったら、宰相様からご褒美が出るそうですよ」


「本当?じゃぁ、頑張らないとね、ムーン。ご褒美って、なんだろう。美味しい物だったら良いな」


「そ、そうだな」


(美味しい物……もしや、ブッシュカウルの肉とか?)



 任務だというのに手を繋ぎ、何やら楽しげな二人と、急に尻尾を振りはじめた一匹を見送った香菜姫は、


「華王」


「あいな。姫様」


「すまぬが、他の場所に仕掛けられている物があれば、使えぬようにして来て欲しい。頼めるか」


「回収は、どういたしもす?」


「そこまでは、要らぬ。札はいるか?」


「地影に潜りもす故、我には。ですが、代わりに鳥型の式を一枚、預かりたく。では、直に終わらせて参りもす」


 人目につかない為に、式等には御行(おんぎょう)の札を使うのだが、地に潜り、影に隠れるのを得意とする華王は、使わない事が多い。直ぐ様影に紛れて、姿を消した。



 今回、全ての火薬を華王に回収させた方が、早い事を、香菜姫は承知していた。しかし敢えて、そうしなかったのだ。見つけ出すのも、その後の処理も、この国の者達がしなければ、意味が無いというのが、姫の考えだった。


(それ故に華王には、あえて一つだけ、回収させたのじゃから)


 ありがたい事に、その真意は語らずとも、伝わっていたようだった。だからこそ、宰相は「なぜ、一つだけ回収したのか」と聞くことなく、姫の提案を受け入れたのだ。


(さて、暫し時間がある内に、今宵の衣装を決めておくとするか。華やかな柄が、良かろうて……)



 香菜姫が帯を選んでいるところに、華王が戻ってきた。その間、わずか半時ほどだ。


「恐らく刑場で事を起こした後、逃走時に追っ手の足止めと混乱を狙う為でしょう。街の外壁へと向かう道沿いに、数か所、埋められておりもした。それら全てに、たっぷりと水分を含ませてありもす。後、例の男達が寝泊まりしていると思しき宿にも、ありもしたが、こちらはムーンも見つけておりもしたので、そのままに」


「ご苦労じゃったの」


 報告を受けた香菜姫は、手にしていた帯を置くと、不快感を露にした。


「大勢の者達の四肢を吹き飛ばす企てをする者でも、我が身は可愛いと見える。己達は、無事に逃げ延びようと計っておるとはの」


 しかも、その為に多くの者達が、火薬の餌食にされるのだ。


「そのような輩に、容赦は要らぬの。ちぃとばかり、痛い目に合わせてやらねばな」



  ***



「ムーン、大活躍だったんだよ!刑場で、直ぐに三つ見つけて、その後少し離れた宿屋でも二つ、全部で五つも見つけたの!」


 夕刻。どれだけ嗅ぎ回ったのか、鼻先に泥をつけたままのムーンと共に戻ってきたトゥルーが、嬉しげに姫達に報告してきた。


 戴冠式に出席後、祝宴の為に着替えたエリアナも顔を出し、トゥルーにかけた魔術を解く。朝とは打って変わり、豪華な衣装に身を包んだエリアナを見たトゥルーが、魔法で着替えたのかと質問し、彼女を笑わせる。


「そう出来れば、楽なんだけど、これは侍女達に手伝ってもらったの」


 今回は、短時間で葬儀と戴冠式、そして祝宴が行われる為、身分毎に、控え室が用意されているらしい。

 子爵家や男爵家だと、男女別に数部屋があてがわれるだけだが、伯爵家以上になると、専用の部屋が用意されるため、非常に助かったと話している。


 そこへ、ヘンリーが何やら箱のような物を手に、現れた。


「あっ、ししょ、じゃない。お父様!」


「エリアナを迎えに行くと言ったら、使いを頼まれてな。宰相閣下より預かってきた。今回の報奨だそうだ」


 足付きの綺麗な装飾箱を、トゥルーに手渡す。その箱の大きさを見たムーンの尻尾は、一気に垂れ下がった。


(あれっポッチとは……)


「綺麗だよ。ほら見て、ムーン。キラキラしてる!」


 トゥルーが箱の中から取り出したのは、金色の貨幣だった。この国の金貨と呼ばれる物で、かなりの価値がある事を、姫も知っている。

 しかし、それを見たムーンは、ペタンとその場に伏せていた。あまりの失望に、力が抜けたのだ。


(肉でさえ、なかった……)


 その時、宿舎の食堂の扉が開き、


「早く手を洗っておいで、トゥルー!頑張ったご褒美の、大ご馳走が待ってるよ!」


 顔馴染みである中年女の料理人が、声をかけてきた。扉からは、野菜の汁物や、焼いた菓子の匂いが辺に漂い出る。


「焼き菓子や、甘く煮た果物も、いっぱいあるよ!」


「やったぁ!」


 それを聞いたトゥルーは、装飾箱をバートに渡すと、笑顔で食堂横の手洗い場へと走り出した。その様子を姫は、微笑ましい思いで眺める。


「やはり、子供じゃの。金より、菓子の方が嬉しいようじゃ」


「ムーンもおいで。顔を拭いてあげる!」


 洗った手を拭きながら、トゥルーが手招きする。


「うむ」


 のろのろと起き上がると、たらんと垂れた尻尾を緩く揺らしながら、ほてほてと歩いて行くが、


「ムーンにもあるよ、ほら!」


 料理人が、大きなブッシュカウルの肉の塊が乗った皿を掲げて見せた途端、その尻尾は勢いよく左右に振られ、瞬時にトゥルーの前に座り、早く拭けと言わんばかりに、鼻を突き出していた。


「……やはり、()()は犬じゃな」


 姫は、独りごちた。

今回のお話は、どこかの後書きに『おまけ小話』として載せるつもりで書いていた物に、加筆した物です。(二十一話の、【香菜姫とムーンの『おまけ小話』】の第二弾的な物となる予定でした)

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― 新着の感想 ―
やっぱり犬じゃないか!
[一言] >……やはり、あ・れ・は犬じゃな お側にイヌ科な方々いますが・・・そういえば日本にいる時も食い物につられてましたなw
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