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百十二話

コミック『苛烈な聖女様』は、【マンガBANG!】で連載中です!そちらもお読みいただけたら、嬉しいです!

 ペルギニ王国の王宮では、三日前に第二王女の出奔が判り、大騒動となっていた。

 身代わりをしていた侍女の話から、レストウィック王国へと向かったと判断した姉カーチア・ウンは、急ぎ捜索隊を送り出すとともに、見つけ次第自分が決めた者と婚姻させるか、そうでなければ生涯幽閉するよう、王にせまった。


 結果、王が選んだのは婚姻だった。

 その為カーチア・ウンはこの二日程、候補者を選ぶ為に奔走していた。そこへ。


 ガン、バリンッ!


 執務室の窓が外側から破壊され、何かが飛び込んできた。ただならぬ音に、扉外に控えていた騎士が飛び込んでくる。

 しかし、彼等はすぐに動けなくなった。


 白狐に跨った少女が、凄まじい魔力で抑え込んだからだ。その圧倒的な力に、執務室にいた者全員が恐怖のあまり、動けずにいる。

 そこへ、同じように白狐に跨がった男が、壊れた窓から入ってきた。ペルギニの第一王女は、見覚えのある男の顔を見て少しだけ安堵する。

 少なくとも、直ぐに危害を加えられる事は無いと判断したのだ。


「ウィリアム殿(でん)、いや陛下。もしやこちらは、聖女様の神獣様でしょうか?」


 問い掛けながら、先日見た聖女の姿を探す。しかしそこにいるのは、聖女と似ているが、(いささ)か簡素な衣服を纏った少女だけだ。

 困惑するカーチア・ウンの心情に配慮することなく、


「悪いが、妾と共に来てたもれ。其方(そち)の身内の事ゆえ、見届けてもらわねばな」 


 白狐が床からフワリと舞い上がり、その背上から執務室の者達を見下ろすと、少女がにまりと笑う。さらに困惑を深めるカーチア・ウンが、ウィリアムの方を向くと、


「カーチア・ウン殿、急で悪いが同行を頼む。まず、第二王女が不正規に我が国に入国している。これに関しては、当初は私に会おうとしているのだと思い、護衛を兼ねた監視を付けていたが、どうやら違うようだ。第二王女は聖女の所領へと、向かっているのが判った」


 その説明で(ようや)く、事情が飲み込めた。


「あの者が何を考えておるのか、だいたい想像が付くが、説明するより己が目で見た方が良かろうと思うてな」


 自分が支えるから大丈夫だと言うウィリアムの言葉を信じ、ペルギニ王国第一王女は王に言伝を頼むと、天駆ける狐の背に乗る事となった。


 風景が後方へと飛び去っていく中で、カーチア・ウンはウィリアムから、直ぐ横で白狐に跨る少女こそが聖女だと教えられた。先だって王宮に現れたのは、神獣が変化したものだと知り、その能力の高さに言葉を失った。


(絶対に敵に回してはいけない相手を、敵にしてしまった事を、あの娘はきっと判っていない……)


 連れて行かれたのは、今まで見た事もない形の建物だった。中に入るには靴を脱がねばならず、面倒だとは思うが、靴下だけで歩く木の床は綺麗に磨かれ、悪くない。

 庭に面した部屋に通され、用意された腰かけに座る。


「あの者達は、直に着くであろう」


 その言葉通り、しばらくすると妹の一行が見えた。だが、どういう仕掛けなのか、こちらの姿は見えていないようだ。

 そこで、取り返しのつかない発言を聞くことになった。


 『アレを燃やしてしまいなさい』


 妹のあまりの愚かさに、カーチア・ウンは瞑目する。


(他国の、それも聖女の屋敷に対してこれ程の愚行(ぐこう)に出るとは……しかも、中に人がいる事を考えもせずに、あの様な事を言うとは。これは幽閉程度の罰では、生温いと言われるかもしれない)


 それと同時に、なぜここ迄あえて来させたのか、疑問に思った。あの愚かな妹がこの場に来る前に、止めてくれれば良かったのにという思いが湧く。


 それが顔に出ていたのだろう。


「もし入国して直ぐにあの者を捕らえ、そちらに送り返しておれば、あの者は諦めたか?」


 少女が問うてきた。

 僅かな間を置き、カーチア・ウンは首を横に振る。同じ事を繰り返すどころか、邪魔をされた事で更に過激な行動に出る姿が、容易に想像できたからだ。

 聖獣に跨がり、上空へと駆け上がる聖女を見ながら、第一王女は妹を断罪する覚悟を決めていた。



 ***



 盗人の末路を平然とした顔で言い放つ聖女に、アデラ・トレの護衛騎士達の顔色が、瞬時で変わる。

 魔術師の指は、警戒する間もなく切られていた。もし自分達が敷地に入っていたらと思うと、ぞっとしたのだ。己の首元を触る者もいる。


「ウィリアムから、其方(そち)がこの場に向かっておると聞き、何を企んでいるのかと思うておったが、なんともお粗末よのう」


 聖女の言葉に、頬が熱くなる。助けを求めるように姉の方を見るが、冷たい視線が返ってくるだけだ。ならばと哀れさを醸し出し、ウィリアムに視線を送る。

 しかし、欲しい反応が返って来る事は無い。それどころか、汚い物を見るような目で彼女を見てくる。


 その時、アデラ・トレは己が土埃にまみれ、結った髪はだらしなく崩れている事に気付いた。聖女の反撃を受けた結果だ。


(また、あの女のせいで!)


 悔しさで噛み締めた奥歯から、ギリギリと音がする。ウィリアムに会う時は、最高に美しい姿でと決めていたからだ。

お読みいただき、ありがとうございます。

次作の投稿は10月1 9日午前6時を予定しています。


評価及びブックマーク、ありがとうございます。

感謝しかありません。

また、<いいね>での応援、ありがとうございます!何よりの励みとなります。


誤字報告、ありがとうございます。

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